Essay

<アジアの危機-Cyberchat>

 私たちが韓国出張から帰ってきてからの、このアジア全体を覆う危機をどう考えるべきでしょうか。アジアは「世界の成長センター」「世界経済の優等生」でした。しかし、今アジアは日本経済を含めて危機の最中にある。

 韓国出張を終えて私が一応まとめた結論は以下の通りです。  

  1. 韓国経済の苦境は極めて厳しいものがある。これはモノ(ハード)の輸出で経済を運営してきたのに、価格では新興国に追い上げられ、品質では日本に離されて貿易収支の赤字が拡大している
  2. それはいくつかの財閥を含むメーカーの不振となって現れており、企業を取り巻く環境は厳しさを増している。当然国内の景況も悪い
  3. 大宇証券もそうだが、企業はこうした中で労使関係の見直しや雇用慣行の改訂を行おうとしているが、労働市場は日本より硬直的であって、賃金の改訂一つでも大変な苦労を迫られるようである
  4. 韓国はつい最近までパソコンを全面輸入禁止にしており自動車は輸入禁止だが、こうした競争回避型経済が世界経済全体の市場経済化の中で、韓国企業の競争力喪失の原因になっている
  ③については人事を担当分野に持つ孫さんが非常に悩んでいる様子でした。基本的に韓国の証券会社は売買手数料の上がりでメシを食っているものの、これが 急速に減少している。しかし、コストは社員の平均年齢の上昇で上がっている。つまり大きなミスマッチが生じているのだそうです。リストラは考えているので すが、韓国では労使の関係が難しくてできない。そこでボーナスの一部を業績反映型に移行させようとしているのですが、これがまた難しいらしい。大宇証券の 直面している問題は、韓国の大部分の企業が直面している問題だと思われます。

 韓国直面している問題は、必ずしもアジア全体の問題ではありません。アジアといっても民族が違い、宗教が違う。だから、一概には論じられない。しかし、そこにはやはりアジア共通の問題があるような気がします。以下のような問題点ではないでしょうか。  

  1. ハード輸出中心の経済にあって、市場経済の拡大、モノのデフレの拡大で輸出環境が悪化している
  2. 加えての世界最強通貨ドルへのペッグで、アジア各国の輸出競争力は減退
  3. 追随型の官僚主導の中で順調な足取りで成長してきたものの、アジアが追随する経済(具体的にはアメリカや日本の経済)が大きく形を変える中で、対応ができなくなった(官主導の経済の限界に対する認識不足)
  4. 過度な生活水準の維持を海外から流入した資金(borrowed money)でまかない続けたことのツケ
  5. 高金利、ドルペッグの中で国内に流入した資金の使途を間違えた
    こうしたことから判断すると、アジアの危機は
  1. 経済の「追随型」からのゆっくりした脱出
  2. 規制の緩和(ドル・ペッグの廃止を含む)による市場原理の徹底
  3. 金融市場の透明化
  4. 労働市場の流動化促進策
  などがポイントになると思います。しかし、マハティールの国内での人気が極めて高いことなどを見ると、アジア経済や市場の成長路線への回帰はかなり時間がかかりそう。

 全体的に言えることは、今まで独自の経済の論理を持つアジア諸国が、アングロ・サクソンの「市場論理重視の経済運営」の枠組みの中に入らざるを得ない時に生ずる痛みのようなものに思えました。

ycaster 97/11/09)