Essay

<収録後記(7月7日)―Cyberchat>

放映=平成8年7月7日、テレビ東京午前9時、日経サテライトニュース午後5時

ゲスト=大場智満・国際金融情報センター理事長

 言わずと知れた日本の通貨マフィアの代表格。かつもっともダンディ。土曜日夜の収録も、「ゴルフを一つ終えて」の登場となった。だから大場さんの顔が少し赤かったでしょう。スコアは「駄目」だったとのこと。

 番組のテーマは一言で言えば、「減少著しい日本の経常収支の黒字はどうなるのか」「その場合に円は、そして日本は」というものでした。

 番組は冒頭で野村総研の研究員の「日本の経常収支の黒字はこのままだと2003年には赤字になる」という録画VTRでの発言で始まりました。しかし、この発言に対する大場さんご自身の予想は、我々を驚かせるものでした。

  「いや、あと3年で赤字になります」

 つまり2000年にもという話。収録後記ですから、ちょっとほんとの所を明かしますと、実際には大場さんは「もっと速く赤字になる」と思っておられるようでした。「ウーン、2年。いや2~3年にしようか」と迷った末、「3年」を選ばれた。ですから、「3年」が大場さんの最終的な選択ですが。実際の数字については、今年の日本の経常収支の黒字は6兆円からそれを切るくらい、来年は3兆円で、その次は....」と。

 いずれにせよ、「日本=黒字国」の我々の染みついた既成概念に十分すぎる打撃を与えるものでした。その理由については、

  1. 長期的には、高齢化にともない、また財政の赤字などで内需、国内投資が高水準を続けることによる貯蓄の低下
  2. 短期的には、日本の投資(対外)が資本財・部品の輸出の時期を経て、現在は製品の輸入という形で結実しはじめている状況

 を挙げられました。。生産は落ちる、消費は伸びる。カラーテレビは輸入超に既になっており、VTRもそうなりつつあります。自動車の黒も減少してきた。輸入は実に広範囲で増えている。

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  「日本=赤字国」が現実のものになりつつあるわけですが、大場さんは「そうしてはならない」と主張します。日本の力の源泉はかつて言われた「ジャパン・マネー」。世界最大の援助国としての地位。アメリカは大赤字でも、軍事力もあるし、いくつもの「DE FACTO STANDARD」を持っていますから、影響力を保持できる。しかし、残念ながら日本にはそれがない。また、国家運営上でも、やはり「黒」の維持は必要だと主張されます。その規模については、「1%」とも。

 大場さんは、「円安になれば日本の黒字が容易に増える」という意見に対しては、「違う」と言われます。実は私も「日本の黒字減少は構造的」との考え方で、その旨は平成7年7月5日の住信為替ニュースにも書きました。

 大場さんは、「ではどうしたら良いか」という点について、「輸入を減らすのはちょっと。また頑張って輸出を」と指摘されます。そう集中豪雨でない輸出を。独創的で、輸出しても喜ばれる輸出ということでしょう。ソフトでも良い。

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  しかし、こうしようとおもってもなかなかその方向に行かないのが世の中です。実際に赤字になったらどうなるのか。そこは恐ろしい世界です。アメリカを笑えなくなる。「双子の赤字国=日本」。それこそ傾いてしまう。財政の赤字は既に世界でもびっくりするくらい上位国です。絶対額だけではなく、対GNPでもかなり大きくなってきた。かつ、今後赤字が減る明確な兆候もない。赤字を増やさないように景気を維持しようとしたら、「低金利」ということになります。だとすると、アメリカが8月20日に利上げしても、日本は難しいかも知れない。

 円相場については、大場さんは国際金融情報センターがいつも集めている「東京市場ディーラー・サーベイ」を引用されました。102円から115円のレンジとおっしゃっていたと思います。しかし、大場さんは「少し円安かもしれない」とも述べておられた。

 「赤字国=日本」は、私の記憶では二つの石油ショックがあった70年代にあったきりです。つまり日本は過去20年は「黒字国」できた。その「黒字大国」に「赤字化」の兆し。相場を考える上でも、国民経済の将来を考える上でも重要なトレンドだと言えるでしょう。                                  (8/7/7 AT SUWA NAGANO)

                       (ycaster 96/07/07)

(追記=7月17日にあるパーティーで大場理事長とお会いしましたら、1)あの番組は結構見ている人が多いね 2)僕は「東南アジアからの中小型のカラーテレビ」といったんだけど、あの部分を「中古のカラーテレビ」と聞いた人が居たようだね---とおっしゃっていました)