Essay

「消費者物価指数と計測誤差──その問題点と改善に向けての方策──」

(『金融研究』第14巻第2号、日本銀行金融研究所、1995年7月、所収)

 物価指数の「計測誤差」という問題については、このところ「価格破壊」との関連で消費者物価指数(CPI)に対して風当たりが強い。特にCPI(除生鮮食品)は依然として緩やかながら上昇を続けているため、「CPIは、最近の価格低下の動きを適切に反映しておらず、生活実感との乖離が大きい」との批判が高まっている。

 さらに、物価指数の計測誤差は、物価指数に上方バイアスをもたらすケースが多く、経済政策の運営やマクロ経済の分析に大きな影響を与え得る。まず、金融政策の最終目標は物価安定であり、その政策判断や事後的なパフォーマンス評価にはCPIを含む各種の物価指数が重要な役割を果たしている。また、物価上昇の過大評価は、その一方で、実質値の増加を過小評価することにつながり、国民経済全体としての生活水準や生産性の向上が適切に把握されない結果となる。

 本稿では、こうした様々な影響を及ぼすCPIの計測誤差について、わが国の統計作成方法の実状に即して、その発生原因と改善策を検討する。

 CPIの計測誤差は、市場経済のダイナミックな変動の中で、①相対価格の変動、②財・サービスの品質変化、③新製品の登場と既存製品の消滅等が生じているため必然的に発生する。本稿では、これらの問題をわが国のCPI作成方法に即して考え、①固定基準ラスパイレス指数算式の影響、②品質調整手法の限界、③調査サンプルの偏り、④価格調査方法の問題、⑤基準改定時の新製品取り込みのラグ、といった問題として整理する。また、これらの問題を解決するためには、①指数算式として連鎖基準・基準時ウエイト幾何平均物価指数を採用する、②品質調整にヘドニック・アプローチを活用する、③価格調査上、調査銘柄や調査店舗の見直しを行う、④ウエイト作成方法の見直しを進める、といった方策が有効と考える。