Essay

「資産価格変動と物価指数」

(『金融研究』第15巻第5号、日本銀行金融研究所、1996年12月、所収)

 1980年代後半以降のわが国経済をみると、一般物価水準が比較的安定的に推移する中で、資産価格が大幅に上昇・下落するとともに、景気の振幅も大規模なものとなった。このため、金融政策の運営における資産価格の位置付けが議論を呼んできた。本稿では、こうした一般物価水準安定の下での資産価格の大きな変動という経験を踏まえ、資産価格を金融政策運営に活用していく上での問題点を議論する。具体的には、第一に、現行のCPIにおける資産価格の位置付けとその改善の可能性について検討し、第二に、物価指数概念を動学的に拡張し、資産価格情報を取り込む可能性について検討する。

 本稿における結論は、以下のとおりである。まず、CPIにおける資産価格の取り扱いの中では、持ち家について価格とウエイトという重要な物価指数構成要素の推計方法に大きな問題があり、これらの点を改善することにより、CPIの信頼度を高め得る。次に、物価指数概念の動学的拡張によって資産価格情報をより直接的に取り込む可能性については、理論的整合性の高さは評価できるが、物価指標を中心とした物価情勢の判断材料を補強する指標として活用するといったレベル以上の機能を望むことは難しい。これは、資産価格が将来の財・サービス価格の上昇予想以外にも様々な要因の影響を受けており、資産価格の変化が直ちに将来時点における財・サービス価格の変動を意味する訳ではないこと、資産価格の精度はカレントな物価指標と比べて著しく低いことによる。このため、資産価格を含む物価指標を金融政策判断の中核に位置付けていくことは困難である。