Essay

「ビデオカメラ価格のヘドニック分析」

(黒田祥子との共著、『金融研究』第15巻第1号、日本銀行金融研究所、1996年3月、所収)

 本論文では、アパレル製品にヘドニック・アプローチを適用し、その価格差と品質差の関係を考察するとともに、ヘドニック・アプローチの導入を柱とするアパレル物価指数の精度改善の方向性を探る。

 ヘドニック・アプローチの適用対象は、これまで中心となってきた技術進歩を反映した品質変化を伴う財(乗用車、パソコン等)に限定される訳ではない。

、メインフレーム・コンピュータといった耐久消費財、あるいは資本財を中心に適用されてきた。これらの製品に共通した特徴は、技術進歩が大きく、製品の品質が目にみえて向上しているとの点である。しかしながら、ヘドニック・アプローチの適用対象は、こうした技術進歩を反映した品質変化を伴う財に限定される訳ではない。例えば、アパレル製品は、消費者の嗜好にあわせて多種多様な製品が販売されており、価格や品質のバラエティが広く、同じような製品であってもブランドや素材、デザインといった品質に大きなバラツキがみられる。本論文の実証結果は、こうした特徴をもつアパレル製品の物価指数作成に、ヘドニック・アプローチが有効に機能することを支持するものである。

 まず、アパレル製品の品質については、素材、縫製、デザイン、生産国といった説明変数によって、製品間の品質差を統計的に捕捉できることが確認される。特に、消費者の嗜好に合わせ、製品の差別化、多様化が顕著なアパレル製品においても、ファッション性・機能性をあらわすかなり限られた指標だけで、価格差に影響を与える品質差を十分捕捉できることが示される。こうしたアパレル製品の品質に関する特徴点は、ヘドニック・アプローチ導入によって、品質調整手法を拡充し、CPIアパレルの指数精度改善が図りうる可能性を示唆している。また、季節によって出回る製品が異なっている点については、セーターのように春夏物と秋冬物の間で製品特性が大きく異なるアイテムについては、別々の製品群として取り扱うべきであるが、半袖・長袖程度の相違であるブラウスのほか、スカート、パンツについては、両者を一括して取り扱うことが可能であるとの結果が得られる。さらに、この推計結果からヘドニック物価指数を算出すると、アイテム、サンプル期間によってかなり異なるが、全般にヘドニック物価指数がCPIを下回るケースが多く、アパレル製品のCPIには上方バイアスが存在する可能性が示唆される。