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2016
06/23
Thu

EU官僚達の罪は重い

day by day
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 (08:20)イギリスの国民投票の結果がどう出ようと、一つはっきりしていることがある。それはブリュッセルのEU官僚群のやや性急な、時に強引な統合プロセスの進め方が、イギリスを初め加盟各国での「反EU感情」を高めていると言うことだ。

 彼等の進め方は、多分「理想」に一部基づき、そしてそれを旗印にしている。しかし恐らく「EUの統治力の上昇、そして領域の拡大は自分達に有利」との時に有意識の、そして時に無意識の認識、時に心理的モメンタムがある。

 恐らく今回国民投票を行うイギリスの国民のかなりの部分は、「なんだ、イギリス政府よりEUの官僚達の方が我々の日々の生活をコントロールしているの、しようとしているのではないか」と思っているに違いない。残留派の中でも。

 EUの官僚群が作り出す複雑な規則、規制は日本の企業にとっても悩みの種の一つなのだから、イギリス国民や企業がそれをうっとうしく感じていることは確実だ。そしてそれが例えばローマの市長選でも出たし、その他の国でも「反EU感情」の高まりとなっている。それは良く分かる。

 欧州各国は、それぞれの国の国民が比較的身近に政治家を感じ、そして選挙で選んでいる。しかしごく一部のEUのトップを除いて、EUの官僚達は加盟国の有権者によっては選出されてはいない。選んでいるにしても多くの国の人にとって「遠く、親密感」のない人々だ。

 そんな人々と、そしてその下の官僚達に「ああせい、こうせい」と言われるのは、誇り高いヨーロッパの有権者には「うざい」と写っている筈だ。建国前後、アメリカが州中心に成り立っていた頃、連邦政府に対してもたれた疑念のかなりの部分に相当する。

 ではいつかヨーロッパはアメリカ合衆国のようになれるか。それは無理だ。アメリカの最初の13州は確かに異なる個性を持っていた。しかし皆生まれたばかりだったし、お互いに違いを認識できない程度。かつ言葉はほぼ同じだった。

 ヨーロッパは違う。それぞれの国が文化、異なった歴史を持ち、互いに何回も戦い、そして領土を入り組ませてきた。だから将来もEUがヨーロッパ合衆国になる可能性は少ない。特に短時間では。

 ところが、EUの統合の理想には経済的現実が伴っている。経済規模が大きくなった(5億人以上の消費市場)故に、ロシアにもアメリカにもそして日本にとっても、「EU市場は無視し難い市場」であり、故にEUの言うことには関心を払わざるを得ない。その意味では、ヨーロッパはEUに固まることによって全体的には発言力を高めている。だから大企業は皆「残留派」だ。

 しかしその高まった発言権の恩恵を実際に受けられる、時に受けたとの幻想を持てる人・企業の割合はそれほど多くはない。後者の人々は幻想が冷めれば「なんなんだ、EUとは」となる危険性がある。そしてヨーロッパの多くの人は、EUを縁遠い、理想ばかりかざし、自分達の生活を少しも良くしてくれないうざい存在と見ている。移民の急増もそうだ。

 だからブリュッセルのEU官僚達は、もっとそれぞれの国の国民を身近に感じながら政策を進める必要がある。しかし恐らく階級社会であるヨーロッパでは、ブリュッセルに集っているような連中は、比較的狭い、国境を越えた汎欧州的なアッパーソサエティの中で生きている。

 しかし決して忘れてはいけないのは、それぞれの個人が持つ社会的影響力とは全く関係なく、選挙は「一人一人が同じ価値の票を持つ」ということだ。そこに「実際の国民の声の割合」が出るし、それはしばしば世の「理想」や「常識」とは違ったものになる。それらはしばしばアッパーソサエティが決めている。しかし民主主義は国民が下した異なる意見を受け入れなければならない。

 ニュースを見ていると、ドイツのショイブレ蔵相などかなり多くの人が今までのEU本部のやり方、そのスピード感に強い違和感をもっているようだ。それは良いことだ。政治的理想に基づくメルケルの移民政策も、ドイツの多くの人々に違和感を持たれるに至った。

 恐らくそれは、直ぐ隣に言葉が分からない移民が入ってくることに対する民衆の違和感、嫌悪感だ。「そんなものは持つべきではない」とは言える。しかし人間は理想だけでは生きられない感情の動物だ。

 「急いては事をし損じる」という言葉が日本にはある。イギリスの国民投票がどのような結果になろうと、「接戦だった」という事実が、EUの事の進め方には大きな反省となるだろう。それが今後の政策にどう反映されるのかを見たい、と思う。

09:07
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