(23:24)今日読んだ記事では、実現性はともかくニューヨーク・タイムズの「Europeans Talk of Sharp Change in Fiscal Affairs」という記事が一番面白かった。
そうなんですよ。今のEUを解体しないとしたら、その方向性しかない。つまり、通貨と金融での統合ばかりでなく、”財政”でも”統合”を目指す方向です。以前から指摘されていたことです。
しかし、複雑な民族、国家意識の衝突がありますから、国内政治と一番密接に関連している財政に関しては、これまでEUの首脳もあえてこれを目指す発言を表だってはしてこなかった。なぜなら、”財政”でも統合を目指すとなると、各国の国内勢力から「EU反対論」が噴出するからです。
自分達が選んだ政府に対しても、ギリシャやイタリア、それにスペインの若者達は、「俺たちはそんな条件は飲めない」とデモ、ストを繰り返している。「a central financial authority」(下の文章に出てきます)から、ああせい、こうせいと言われて、彼らが例えば「福祉切り下げ」に同意するとは思えない。
加えて、これまでの経緯があるだけに新しい考え方の方向で直ぐに事態が(各国の政治家が)動くかどうかは不明だ。しかし、私は個人的には方向性は「これしかない」と思う。EUを解体するのでなければ。無論、各国でのEU条約の改正が国民投票にかけられた時には、非常に多くの問題が発生するでしょう。この記事で一番のポイントは、
The idea is to create a central financial authority-with powers in areas like taxation, bond issuance and budget approval-that could eventually turn the euro zone into something resembling a United States of Europe.です。「a United States of Europe」(欧州合衆国)ね。アメリカの初期13州が、分散していた権限(財政を含めて)を徐々に合衆国に収斂させていくプロセスを検討しているという。随分昔のことですが、それくらいしか前例がないということでしょう。
正直言ってかなり難しいと思いますよ。しかし今の欧州が危機に立つことだけは確かであり、危機の深刻さが事態を動かす可能性がある。それは、「統合か」それとも「分離か」。今の欧州は明らかにその岐路に立っている。
危機のEU、それに伴うユーロ安の衝撃を受けているのは、永世中立が国是でユーロという統合通貨にも参加せずに単独通貨(フラン)を維持しているものの、激しいユーロへの値上がり圧力に直面するスイスです。日本と同じ悩みを抱えている。そのスイスが
The Swiss National Bank set a limit on how far it will let the Swiss franc rise against the euro, the bank's most aggressive attempt yet to rein in the soaring currency.という方針を明らかにした。「buy euros in "unlimited quantities"」(無制限ユーロ買い=自国通貨フランの売り)というのが凄まじい。1ユーロが1.2フランを下回るようなユーロ安フラン高の事態に対しては、無制限にユーロを買い支え、自国通貨フランを売る、つまり人工的にフラン高阻止の状況を作り出す、というのです。The SNB said it would buy euros in "unlimited quantities" should the single currency fall below 1.20 francs, setting the stage for what could be a long battle by the bank to defend its action in the face of surging concerns about debt problems in the euro zone and the U.S.
日本のケースに当てはめてみると、例えば「70円以上の円高は絶対許さない。このラインを徹底介入ポイントにする」という方針です。無制限にドルを買い、円を売る。外貨準備がメチャ増える。それでもやる、という方針。日本での円高被害と同様に、フラン高でスイスの輸出産業が被っている打撃は大きい。
スイスは日本と同じように自国通貨高に激しく悩んでいる。「これは大きなデフレ圧力だ」とスイス国立銀行。G7の直前にこれを打ち出したことに、この欧州の山間の、しかし世界から尊敬を集める国の決意が感じられる。
しかし直ぐ思い出すのは、1992年のポンド危機です。このときもイギリス政府は、一定レベル(忘れましたが)以上へのポンド安を許さないとして徹底介入を宣言した。しかしジョージ・ソロスを先頭とする投機筋(呼び方には異論があるが)の攻撃に最後はポンドの下落容認に立場を変えさせられた。ある晩の、ある時点でポンドの下落を許したのです。その時の激しい値動きは、今でもよく覚えている。
問題は二つ。スイスが結局は市場から押し切られた場合はどうなるのか、そして日本はその種のことが出来るのか、というものです。タバコを値上げする云々ではなく、もっと根源的なこうした問題を野田政権には考えて欲しいのですが、どうもそこまでは考えていない様子。
スイスの決意発表は、フランを10%ほど対ユーロで下げた。そのおかげで、日本円は米ドルに対して1円ほど円安に動き、今は77円台の半ば。スイスは小国だからそれが出来ている面がある。日本が同じ事をやるには、相当大きな覚悟と根回しが必要です。