私が食べ歩いたお店の紹介
私伊藤洋一が全国津々浦々を食べ歩き、見つけたおススメのお店を紹介します。

京都の店

 出張でよく行く京都は、また「食」でも思い出す店が多い都市でもあります。私が行ったことのある店はごく一部です。しかし、明らかにこの eating のコーナーに残しておきたい店はいくつもある。このコーナーでは、京都で私が推薦できる店を紹介します。

浜作
 大阪西区で大正の末期に生まれた日本最初の板前割烹「浜作」の流れをくむ店。HPはここにあり、当代は森川裕之さん。この店の特徴は、何よりもそのカウンターにある。色板でメニューがあるが、客は自分で自分の食べたいものを想起し、森川さんと相談しながら決めていける。これこそ理想的な食べ方である。

 祇園浜作は、昭和のはじめ当代の浩之さんの祖父に当たる森川栄が開店した。「高級料理は座敷で」という時代に、新鮮な材料と料理の技をお客様の目前で見せて食べさせた歴史を持つ。大阪西区の「浜作」のもう一つの流れは、東京の銀座の「浜作本店」にあるが、ともにスタイルが似ている。ともに楽しめる。

 この店は、筆者の著書「カウンターから日本が見える」の発想の原点になった店である。八坂神社の坂を上がった鳥居から歩いて数分。電話番号は、075-561-0330。

米村
  京都のモダン・クイジンといった店です。位置的には、以前は京都ホテルの直ぐ裏にもあったが、今は八坂神社の直ぐ近くにある。知らないと勇気がいる。カウンターと少々の椅子席の店です。二階がバースペース。

 料理が一つ一つ出てくると「なるほど人気があるのが分かる」と理解できる。それぞれの料理がかなり考えられている。美味しいのです。そして何よりも感心するのは、キッチンがとても綺麗なのです。カウンターだから全部見える。いつもきちんと整理されていて、「このキッチンから料理が出てくるのなら、食べても良い...」と思う。で、中身はというと、メニューはありません。コースになっている。僕らが行ったときは、まず出てきたのは蟹肉を蟹味噌、蟹の卵と一緒にした和え物だった。

 その後の料理はかなり創作がはいっていて、なかなか楽しめる。まああまり書くと興味が失せるでしょうからあまり書かないようにしますが、正直言って楽しめる。雰囲気もよい。そうですね、20人弱が入ると一杯になる。で、お値段は...。ビールをかなり飲んだり、ワインをかなり飲んで一人一万円ちょっとという感じです。だから、若い人が多かった。数多くのメニューを置いて、「客に何を注文されるのか...」と怯えているより、よほどこちらの方が良い。行く方も、今日はあそこの料理が食べたい....と思ったらいけばよいのです。器も、オリジナルのものばかりです。電話番号は、075-533-6699。

湯豆腐「嵯峨野」
 京都のお豆腐は美味しいと言われる。確かに。京都の冬は寒い。底冷えがする。だから温めた豆腐を食べながら熱燗でも一杯飲めば、からだも温まるというもの。私も好きです。しかし、京都にはたくさん湯豆腐の店がある。紹介しきれないほどです。一般的には南禅寺の門前の店、例えば「順正」などがよく名前を知られている。あとは「奥丹」など。

 しかし、これは趣味の問題があるのでしょうが、小生は少なくとも「順正」は感心しなかった。有名な割には、料理が死んでいるのです。「奥丹」は行ったことがないので知りませんが、ある京都の人は美味しいと言っていた。南禅寺の門前のタクシーの運転手も「順正」はだめだと言っていた。「その隣の湖月の方が良い...」とも。

 少なくとも私が行った範囲では、嵐山の天竜寺の裏側、ホテル嵐亭の横にある「嵯峨野」が比較的おいしく感じた。行ったのは11月の末。そろそろ寒くなって、ガスの火に手をかざしたくなる時期でした。この店は大きいのです。普通は私はあまり大きい店は関心しないのですが、この店は違った。店の大きさをうまく使っている。竹が数多く植えられた店の内部が落ち着いていて良いのです。また、離れに二階屋があって、ここは本当に静かな場所で、「湯豆腐」を食べるのには手頃です。庭も綺麗です。苔が目に優しい。

 湯豆腐はもともと、「お坊さんの精進料理」として発達したと言われる。ですから、代表的な「湯豆腐」の店に行くと、精進料理の範疇を越えるモノは出てこない。ゴマ豆腐、温泉卵、がんも、野菜天ぷら、ご飯、デザートといった組み合わせです。しかし、最近ではいろいろな料理に「湯豆腐」がついて出てくる店もある。刺身の隣に湯豆腐があったりする。まあそれはそれで料理の発展の過程でしょうが、ちょっと違和感がある。

 湯豆腐は、本当に何時食べても美味しい料理でしょうか。私は寒いとき、体力がちょっと低下している時に一番美味しく食べられる料理なのではないか、と思っています。あんなのを毎日食べていたら、体力が低下してしまう。どう見ても、もりもり働いている人間の食べるものではない。まあでも京都に行って何日もいるんなら、嵐山に観光に行ったついでに遅めのブランチを「嵯峨野」(075-871-6946)でするのは良いかもしれない。値段も3000円ちょっとと手頃です。休日は午前10時30分ごろから人が並び始めるが、とても大きな店で列がかなり長くても間違いなく全員が入れる。店は午前11時からで、ブランチにちょうど良い。夕方は、午後5時30分からで豆腐がなくなると営業を停止する。

 あと友人たちが推薦してくれた湯豆腐の店では、「豆菜」(075-213-2900)や豆水楼(電話不明)などが良いようです。また別の方から「湯豆腐だったら”竹仙”(清涼寺境内)も何気においしいですよ。こじんまりして、素朴な味です」というメールも。

わらじや(京都の鰻雑炊)
 京都にはおいしい鰻の料理がありました。雑炊。しかし、並の雑炊ではない。蘭水という歌人が米寿を迎えたときにこの店について次のように詠んだ、という。この歌を印刷した紙に包まれて割り箸が置かれている。

 鰻鍋と鰻雑炊

 鰻は海より川に入るか川にのみ育つままかの問題のあるが 料理の仕方もまた余程困難 殊にその姿のまま骨を抜くは極めて工夫を要するを わらじや主人これを考案して無情の味覚を整え鰻雑炊を案出して 滋養と精分とを増進するなど上戸にも下戸にも満喫の舌触り実に好評無類の京料理

 花よりも京の味 毛津鰻雑炊 米寿 蘭水

 コース料理です。最初にお茶と先附け三品が出てきて、その次に「鰻鍋」が出てくる。汁がうまい。あと骨を抜いたざっくり切り(筒切り)の鰻と焼き葱下に沈んでいる春雨が。それが終わると出てくるのが「鰻雑炊」(うぞうすい)です。これはボリュームがたっぷり。ゴボウが入り、卵が入り、鰻(白焼き)が入り、そして椎茸が入り....。無論、雑炊だからご飯が入っている。そう、お餅も。全部食べるのにちょい時間がかかる。その後が、デザートのメロンです。大満足の鰻料理。ははは、このコースで6100円。でも、絶対損したとは思わない。

 最初に紹介した歌があまりに達筆で読めないので、そこの軽く80才は超えているおばあさんにちーと時間をかけておそわっていたら、気に入られて「またいらっしゃい」と。ハイ(^_^)(^_^)。ちなみにここの従業員によれば、創業は秀吉のころだという。かどうか、瓢箪が入り口に飾ってある。075-561-1290 東山区七条通本町東入る。

川床料理
 冬の京都が「湯豆腐」なら、夏は「川床料理」ではないでしょうか。こうした交通手段を使って、「貴船」にいくと数々の旅館があって、夏は各旅館が近くを流れる貴船川の上に木を組み立て、板を渡してそこを床にしてその上で料理を食べます。

 誰が最初に考えたか知りませんが、これが涼しいのです。下には川が流れている。綺麗な水です。その水音を聞きながら料理を食べる。なかなか風情があるし、夏の料理の食べ方としては最高ではないでしょうか。もう何年も前に行って、確か夕暮れにかけて食事をしたと思うのですが、それは気分が良かった。

 小生は知りませんが、「川床料理」は嵐山でも食べられるらしい。しかし、たぶん鞍馬山と貴船山に挟まれた貴船という標高の高いところで、川音を聞きながら食べる料理がなんといっても一番なのではないでしょうか。なかなか遠いので、ある程度予定をしっかり立てていかないと難しい。私はこの地域にある旅館に宿泊したことはありませんが、たぶん宿泊して数日滞在したら最高ではないでしょうか。

 くしかんざし「久」
 四条の橋の入り口から先斗町をずずっと入っていって公園(市営駐車場)を抜けたすぐ左側にある小さな店です。4人が入れる小さな部屋がある以外は、カウンター席が10席だけ。食の道では味覚を尊敬する先輩から「あそこは良い」と聞いていたので、2000年の秋に井筒会の講演があった際に訪れたもの。

 まず「くしかんざし」とはなんぞや。分からないことがあると質問する私の問いかけに、ここのご主人「津田久之助」さんは、

 私どもの所は23年前、来月で24年になるのですが、開店したときには串焼きをしていたのです。しかし今のスタイルの店にするときに、串だけではということで、思いついたのが先斗町を行き交う舞妓さんのかんざしで、その「くし」と「かんざし」をくっつけて、それに私の名前の「久」をとって店の名前にしました....

 なるほど。それは聞かないとわからない。で、出てくる料理は.....。まず解禁されたばかりの蟹から入って、和え物のお野菜、お造りと続いて、クライマックスはアワビを使った煮込み料理.....と続く。一緒に行った人が男性であったにもかかわらずえらく小食で、全部エンジョイできなかったのが残念ですが、十分合格点をあげられる店でした。値段はちょっと高い。

 いいのは、店が静かなことです。先斗町でもかなり入ったところにある。その日はたまたま雨で、観光客も少なかった。近くには車が通る道もない。11月も中旬のちょっと寒くなった京都の店で静かに和食をいただく.....という情緒。店主も落ち着いた方で、むろん話せば応えてくれるが無駄口を出すような人ではない。あれで晴れていて小路を通る人の数が増えたらちょっとうるさいかもしれないが、私どもが行った日は最高でした。

 住所は、中京区先斗町蛸薬師上がる(市営駐車場上がる三件目)で、電話番号は075-255-4749(品良く)。

たん熊 たん熊北店
 「たん熊」は、京都を代表する日本料理屋さんだが、ちょっと複雑である。店が最初に出来たのは今のたん熊の北店(きたみせ)のあるところだ、最初の経営者がその後そこを伯父に譲って木屋町に「たん熊」を作った。木屋町の「たん熊」は座敷中心。HPはここにある。この店でしばらくご主人や女将と話していて面白かったのは

  1. 「たん熊」の名前の由来は、「丹波の熊三郎」から来ているが、京都では平仮名の「ん」が付くのを「運が良い」という風潮があり、最初「丹熊」にしていたのを「丹」を「たん」と平仮名にした
  2. 当代の「熊三郎」さんの祖父がそもそも店を開いたのは、今の北店がある場所だが、その場所を伯父に譲って今の木屋町に移ってきた

 など。ご主人と意見が一致したのは、「時代とともに人々の味覚も変わる」、だから「老舗も味を変えなければ生きていけない」ということ。それは最近本当に思うのです。客にわからんように、客が静かに納得するように味を変えないと生き延びられない。だから店というのは難しいんですよ。今月閉店した「月の庭」のように「10年で閉店」と決めることも一つの方法です。しかし何代も続ける店はそうはいかない。

 「変わらずに同じでいるためには、変わらなければならない」は、国でも会社でも、そしてレストランでも、そして個人でも同じ事かもしれない。老舗はしばしばそれに失敗する。だから、時代の切れ目、味覚の切れ目には多くの老舗が潰れるのです。

 北店もカウンターと座敷を中心に今でも繁昌している。新橋の京味の西さんはここの出身である。ともに味は良い。京都でタクシーに乗って「たん熊さんへ」と言うと、「どこの」と聞かれる。ホテルにもかなり入っているので、「どこのたん熊か」をしっかり把握しておかないといけない。

 電話番号は、「たん熊」が075-351-1645、「たん熊北店」が075-221-6990。

未在
 京都のある方に教わった「未在」は、落ち着いた印象の、美味しい料理を食べさせてくれる。場所が良い。丸山公園の中。祇園から歩いて八坂神社を右から回り込み、高台寺に抜ける門の前を通り過ぎて、女性専用ホテルの前を通り左に曲がる。もう丸山公園ですが、その中に入っていって、藤棚の向こう側。

 要するに一軒家なんですよ。石畳の階段を上がって玄関を入ると、そこには12席のカウンターの店が。ちょっと椅子と椅子の間隔が狭いと思ったら、2007年からは10席に減らすのだそうです。今のシステムは午後5時半スタートか、午後7時スタート。その2本。客がこれにあわせる。「ごはん(作り)などを考えると、お客さんには申し訳ないがこちらの時間に合わせて頂くのが良いと思いました」とご主人・石原さん。来年からは7時一本にするそうだ。

 高麗橋・吉兆にいらっしたがわけあって辞めて、この店を2年半前に開業。「まだうちはあまり知られていませんので。宣伝もしていません」とご主人。本湖月の穴見さんとは同じ吉兆でお知り合いだそうで、2度ほど見えられたとも。

 料理は美味しかったな。思ったのは、やはり吉兆出身の料理人の作る料理は美味しいということです。料理屋さんの料理をカウンターに持ってきた感じ。だから、彼らの料理は「月1替わり」です。対して浜作の料理は、要するに「割烹料理」で、即興が売り。同じカウンターでも、システムがまったく違う。「未在」や「本湖月」は、食事のコースがきちっと決まっている。「今月はこれで」と。月2回来ても、「出すものは同じ」と。しかし浜作や日本の主立ったカウンターでは、「さ、次は何....」と自分で決めていく。

 私はね、正直言って後者の方が好きです。大体イントロの突き出しにはつきあうとして、その後は自分で最後の食事まで、蕎麦だ、ご飯だ、そのご飯もはらすご飯だ、鯛茶だと自分で決めたいタイプ。中に野菜と魚でも入れて。でも、「未在」や「本湖月」ではその選択はなし。しかしよく準備されているからそれはそれは決まったものでも美味しい。

 「未在」の料理はよく準備され、よく考えられている。食べる側の胃の具合をよく考えて。出てきた食材で、「これはすばらしい」と思ったのは、お造りの魚は良かった。あとは一つ一つの料理がよく考えられている。楽しめると思います。

 正直、月替わりでもう一度行きたい店です。電話番号は、075-551-3310 京都市東山区円山公園内。


 あと行ったことのある店、行きたい店のいくつか。いな梅(075-561-0149 四条花見小路2本下る 稲毛義廣)、わかどり(075-451-9255 京都市北区烏丸紫明東 信号を北東10㍍、地下鉄烏丸線鞍馬口駅二番出口から北へ約80メートル もも肉葱焼きが秀逸)