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2019
07/11
Thu

政治的圧力だけではない問題なのに.....

day by day

 11時夜9時からのNHKのニュース番組を見ていたら、まるで「トランプ大統領が圧力を掛けたからパウエルFRB議長が利下げ姿勢に転じた」といった報道になっている。とんでもない間違いだ。

 パウエル議長がトランプ大統領の圧力をはねのける努力をしていることは明らかだ。パウエル議長は下院金融サービス委員会の委員の質問に答える形で、「もしトランプ大統領がFRB議長の私を代えようとしても、私は職から離れるようなことはしない」と明言した。ウォール・ストリート・ジャーナルはその間の事情を「Mr. Powell also said he wouldn't leave his office if President Trump tried to replace him.」と伝えている。芯のあるFRB議長だ。

 では彼が認めているようにアメリカ経済は比較的強く見えるのに、今回利下げを臭わせたのか。それには三つのポイントがあると思う。

 

1.      アメリカ経済の成長率は比較的高いが、それはもっぱら純輸出と在庫によって説明できる。もっと頼りになるのは消費と設備投資だが、特に後者について「最近顕著な減少」が見られる。一因は貿易摩擦で、加えて世界経済の減速も影響している。つまり景気の両輪の片方の設備投資が弱い

2.      インフレ率に関するFRBの目標は2%で、利上げに踏み切った時期には2%近傍まで上がっていたが、今年の春から再び低下してしまった。5月はPCEで見たインフレ率は1.5%になった。それから食料品とエネルギー関連製品を除いて、将来のインフレ率をよりよく見通せるコアPCEの伸びも1.6%と目標を大きく下回っている

3.      アメリカ経済を取り巻く環境を考えると、クロスカレント(crosscurrent 逆流現象)が多い。貿易摩擦、欧州や途上国などを中心とした世界経済の減速など。最近数ヶ月にアメリカ経済を取り巻く不安感は強まっている

 

 特に「インフレ率がなぜ上がらないのか」は世界各国に通じるなぞだ。利上げモードに入った段階ではアメリカのインフレ率は2%近傍に上がっていたが、春からはPCEで見て1.5%〜1.6%(コア)に低下している。恐らく議長は、こうした大きな図式の中で利下げモードへの転換を決めつつある。中央銀行の総裁が「政治家の圧力」のみで利下げをするなどと考え、報道するのは間違っている。話としては面白いかも知れないが。

 就任当初は言わなかったが、パウエル議長は年2回のハンフリー・ホーキンス法に基づく議会証言の際に、前回から「Congress has given us an important degree of independence so that we can effectively pursue our statutory goals based on objective analysis and data. We appreciate that our independence brings with it an obligation for transparency so that you and the public can hold us accountable.」と「議会が与えてくれたFRBの独立性」に言及している。これも間接的にトランプ大統領の干渉に対する抵抗だと思われる。

21:47
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