住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

第1279号 1996年05月17日(金)


AGAIN "UNEXPECTEDLY"
 アメリカ政府発表の経済統計に関する記事に、またまた「unexpectedly」という単語が登場しました。今度は「4月の新規住宅・アパート着工高」。先週、30年の住宅貸出金利(mortgage rate)が8.24%(昨年末は7.11%)と約一年ぶりの高い水準に達するという状況の中で、4月の着工件数に関するアナリストの予想は「0.8〜1.4%の減少」というものでした。
 ところが出てきた数字は、3月に比べて「5.9%の増加」。年率151万9000戸となった。つまり、金利の上昇が少なくとも住宅着工には直ちには響かなかったということ。これで崩れたのは債券でした。PPICPIで示された「インフレ沈静」を好感して今週に入って一貫して上昇していた同相場は、前日の6.8%台から6.9%台に上昇。2年ノートの利回りも、6.04%と再び6%台に。
 またまた「アナリストは何をしておる」と言いたくなる数字ですが、市場のセンチメントは再び「景気は予想外に強い→インフレ・引き締め懸念」に向かいました。大勢で見れば、先週後半に見られたほどの強い「インフレ・引き締め警戒」ではないのですが、これだけ「unexpectedly」な数字を突きつけられると、市場も不安定になる。しばらくこうした神経質な空気は残りそうです。
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 もっともリテイル・レベルでは、先週末と今週初めの物価統計が示した通りの落ち着いた情勢が続いているようです。今週あった面白いニュースでは、

 「5月9日時点でのアメリカのスーパーマーケットでの牛肉価格は、NATIONAL
 CATTLEMEN'S BEEF ASSOCIATIONが調査を開始して以来、史上最低になっ
 た」

 というもの。この調査によると、同時点でのアメリカの19都市での牛肉(SIX CUTS OF BEEF)価格は、pound当たり2.96ドルと、4月11日の3.01ドル、一年前の3.15ドルを下回っているという。その理由が面白い。「中西部での干ばつと飼料穀物相場の上昇による牛の処分の増大」。それによって、牛肉が供給過剰になっているという。飼料穀物の上昇が、一時的にせよ牛肉価格の下落を招いているという因果関係。

CONSUMER RESISTANCE TO HIGHER PRICES
 物価情勢を考える上で最近よく指摘されるのは、「価格上昇に対する消費者の抵抗」です。ディスインフレ状況は日本でもそうですが、既に5年以上続いている。「モノの価格は下がって当たり前」というサイコロジーがあると、価格が上昇したときに消費者はまず「なぜ」と思い、価格を上げないメーカーの製品を買おうとする。とすると、どのメーカーも先頭を切って値上げはできない、ということになる。メーカーはどうするかというと、技術を革新したり、製造工程を簡素化して、なんとか消費者の希望に沿った価格でモノを作ろうとする。さもなくば、消費者が価格比較をできない新製品。
 話は横にそれますが、最近面白い話をソフトウエア会社の人から聞きました。メーカーでも同じだと思うのですが、価格決定を積算方式でやると、当たり前ですが現場が苦労しないでも作れる高い価格のものになってしまう。そこで、「市場ではこれだけの価格でしか売れないのだから、これだけのスペックでこれだけのものを作ってこい」と現場に命令すると、文句は言うけれども最終的には希望に沿った製品ができてくると言うのです。
 いろいろなセクターで、「価格を市場が決めている」状況が生まれていると思われます。仮にそうだとしたら、物価上昇への抵抗と、それを受けた物価引き下げ圧力はしばらく続くことになる。
 物価関連では、昨日は原油相場が軟化しました。またまたという印象がしますが、イラクと国連の話し合い(イラクの原油輸出再開に関する)が進展したとの報道が背景。しかし、この手のニュースによる原油相場の軟化はいままでも何回もあった。
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 インフレが発生するかどうかを考える上で今後一番重要なのは、「労働賃金」の状況でしょう。最終製品価格への物価抑制圧力は強い。これは、消費者が多くの味方(「下落」の方向の)をつけていて、しばらく続きそう。しかし、「労働賃金」の方は、「上昇」の方に味方がつきだした兆しがある。
例えばクリントンは昨日、丸一日米企業のトップ経営者100人を集めて「CORPORATE CITIZENSHIP」とか「CORPORATE RESPONSIBILITY」に関して討議を行っている。競争力向上努力の中で、多くの米企業は「レイオフ」を実施し、労働者は少なくとも平均賃金で見る限りは、今のアメリカの繁栄から置いていかれているように言われている。ブキャナンがTAKE CHANCEしようとした点です。そこでクリントンは、選挙戦術の一環としての意図もあるのでしょうが、企業の幹部を集めて、

「株主に優しいと同時に、労働者にも優しくあれ」と、「CORPORATE CITIZENSHIP」とか「CORPORATE RESPONSIBILITY」の必要性を強調している。無論経営者もやり玉。アメリカの平均企業幹部が、一般労働者の200倍の報酬をもらっているという中で、クリントンは「IT'S GONE TOO FAR」(USA TODAYとのインタビュー)と言っている。
 注目されるのは労働長官のライシュが、

 「the rhetoric of corporate America already has begun to change under
the glare of public criticism

 と言っている点。無論「どう変わったか」「どのくらい変わったか」が重要で、これはこれからの問題ですが、政治の全体的な流れはもっと労働者を大事に、という方向が出てきそうです。ということは、労働賃金、または全体的な労働コスト面では政治的には上昇圧力がかかる可能性があるということ。

NERVOUS MART AHEAD
 今週水曜日の松下日銀総裁の会見は、最近の総裁会見の中では一番注目された会見でした。全体的な印象を言うと、「マーケットの受け止め方は違っているが、言っていることはそれほど変化はしていない」ということです。「景気回復の基礎をよりしっかりさせる」という大前提は、前回の総裁講演の時と同じ表現です。環境次第で、「超」を取りたいという意向もまだ見える。
 ただし、日銀の政策変更に関して余りにも喧々囂々の議論になったがゆえに、また政策当局間の軋轢が指摘されたが故に、一端議論を納めたいという雰囲気は感じられました。日銀としては日本のマスコミを通じて少なくとも4回は「避難訓練」をしましたから、目標はある程度達成した。つまり、公定歩合を下回る短期金利の状況が永遠に続くわけではない、という市場への警告です。
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 もっとも市場の反応(株高、債券高、ドル高)は、世界の有価証券価格と為替相場がいかに円金利の水準を見ているかを証明しました。94年のアメリカもそうでしたが、やはり低金利国の金利引き上げは、世界の資本の流れを変える。日銀としては、世界の金融市場へのインパクトが少ないと思慮され、かつ国内の景気情勢がそれを正当化するときはいつでも「超」は取りたいという意向は残していると思われます。「米大統領選」が今年秋にあることを指摘し、日銀の「超」解除が遅くなる可能性を指摘する人もいますが、それは大統領選挙が「接戦」になることを前提にした議論だと思います。

HAVE A NICE WEEKEND
 印象として大分温かくなった一週間でしたが、皆様いかがお過ごしでしたか。ウーン、今が半袖か、長袖かの分かれ目。
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 「呼べば答えてくれる読者がいるから、私も書いていられる」というのが実感ですが、「青山でうまい蕎麦屋は」と今週月曜日に書いたところ、あちこちから情報が寄せられました。青山以外のうまい蕎麦屋を知っている限り書いてノートを渡してくれた方もいた。
 「青山一」と多くの人が推薦してくれた蕎麦屋は、青山一丁目の「くろ麦」(3475-1850)。青山ツイン・タワービルの地下一階にあります。今週水曜日に早速行ってみました。都心の蕎麦屋には珍しく、蕎麦を打っているのが見える。確かに腰があってうまい。けしの蕎麦が変わっていた。しかし、一つ残念だったのは私が蕎麦屋にいくと必ず食べるあのJUICYな玉子焼きがなかった点。
 赤坂まで足を延ばすと、東急プラザには「長浦」というのがあるらしい。あと西麻布には「千利庵」。この蕎麦屋は、私が良く行く「茶楼」の隣りとか。知らなかった。ただし、この二つは私はまだ行ってない。ですから、「良い」「悪い」は言いません。ウーン、そうですね。でもまだ東京で蕎麦一番は、私は「田中屋」(3992-1233、環七と目白通りの交差点近く)だと思うのですが.....。
 そうそう、今週末の「東京マーケット・フォーカス」(テレビ東京、日曜午前9時)のゲストは、三和銀行の斉藤 満さんです。彼とは、新潮社の月刊誌「FORESIGHT」で創刊から4年以上に渡って「数字の達人」(斉藤)と「キーワードの核心」(伊藤)で文章を並べた仲。今現在、市場で活躍している人になるべく多く出てもらうというのが番組の趣旨で、「市場アナリスト」として活躍中の斉藤さんはぴったしでしょう。
                                     ycaster@gol.com


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