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住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

第1287号 1996年06月21日(金)

SAKAKIBARA FORESEES HIGHER DOLLAR
 昨日の夜11時半過ぎに久しぶりに日本のテレビに登場した榊原大蔵省国際金融局長の発言ポイントは、二つでした。

  1. 現在の為替レート(収録時は108円前後)は経済のファンダメンタルズを反映したものである
  2. 日米通貨当局が特定の相場レンジを持っているというのは間違った考えであり、市場がファンダメンタルズを反映して動くなら、ドルはもう一段強くなる可能性が強い

 同局長が「ファンダメンタルズ」として挙げたのは、

  1. 日本の経常収支動向
  2. 日米金利差

 の二つ。前者については、

  1. 今年第一四半期の日本のGDP統計で注目すべきは日本の経常収支黒字の対GDP比率が1.3%に低下した点で、この低下傾向は4―6月期に一段と進んでいる
  2. この状況が続けば、今年一年間の日本の経常収支の黒字は6兆円程度と、昨年に比べて実に半減しそうであり
  3. こうした変化は日本経済に「構造変化」が起きていることを示している

 という点。

 後者については、

  1. 日本銀行を含めて日本の通貨当局は「景気回復を盤石なものにする」方向で金融・財政政策を運営している
  2. 日米金利差が大幅なこと、今後日本の機関投資家の間で運用競争が激化する中でリスクを取る動きが強まり、こうした中で日本の機関投資家の対外投資は今後も増加すると思われること
  3. 日本の機関投資家の対外投資比率は現在5%前後と低く、今後こうした環境の中で、これが10%、15%になっても何ら不思議ではない

   という点。

SAKAKIBARA SAYS "DON'T FEAR 110 "》
 発言全体を聞いていて榊原局長が一番言いたかったのは

  1. 市場は110円を色々な意味で意識していて、事実これまで何回も抜けなかったが、相場はファンダメンタルズを映すべきであり、明らかにファンダメンタルズはその方向を向いている
  2. この点では、米自動車メーカーからの要望にもかかわらず、「強いドルが国益」とのアメリカ政府のスタンスは変化しておらず、これは110円を上回るドル・円についても、ファンダメンタルズが指し示すものとして同政府は容認している
  3. 日本の金利は上がらず、今後日本の機関投資家は対外投資を増やさざるを得ないから、この面からドル上昇余地はある

 の3点だったように思いました。ただしこれらは、事前に予想された範囲を出るものではなく、事実榊原発言の後のドルの動きは、20〜30銭ドル・円を強くした程度。

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 局長発言には、賛成できることと、賛成できないことがあります。日本の対外収支構造に構造的変化が生じていること、従って日本の今年の経常黒字が大きく減少し、年初の大方の予想だった1000億ドル前後への減少どころか、600億ドル前後にまで大きく減少すると予想している点は同感です。5月は上中旬の数字が出た段階では、貿易収支で見て12年ぶりに月間赤字になりそうだった。

 ただちに賛成できなかった面は、日本の金利政策を巡る考え方。財政政策が引き締めに向かう中では「金利政策を緩和気味で」、というのは大蔵省の希望でしょうが、この大蔵省の意向を快く思わず、景気回復基調が鮮明になる中で、「超低金利」の「超」を取りたい向きが日銀内部にいることは周知の事実。ですから、市場は榊原局長発言にもかかわらず、市場は「日本における金利上昇」の可能性に関心を残さざるを得ない。今週もいくつかのマスコミに「利上げ観測」が出ました。

 あと一つは、長期的に日本の機関投資家の対外投資が増えることは間違いないとして、今直ちに動けるかどうかという問題。この二つのPENDING事項があったが故に、局長発言の直後の市場の反応は鈍かったと思慮します。

 この二つの残った問題に回答が出るのはしばらく先になりそう。

MODERATE GROWTH PATH WITHOUT INFLATION
 梅雨空をクリアしたかのような景況を示したのはアメリカ経済でした。今週発表された連邦準備制度理事会のタン・ブックは「インフレなき穏やかな回復」を明確に示した。こうした中で、市場は7月のFEDによる「利上げ」は「なし」と判断しました。しかし、米債市場のしこりはマゼラン・ファンドがらみで結構大きく、相場が上がったところでは売られると言う状況を繰り返している。このしこりが解消し、アメリカ経済に鈍化の兆しが見えてきた時には、米債は大きく買い進まれる可能性を残していると言えるでしょう。

 一方、驚くような高い成長を見せたのは日本。今週発表された23年ぶりという高い成長(今年1〜3月期、12.7%)は、全く予想外。あまりにも予想外であるが故に、信憑性に疑いがもたれて、金利上昇基調は長続きしなかったようなところがある。うるう要因や、毎年うまくいかない1〜3月の季節調整の積み残しの面も強かったようです。ただし成長の形から見ると、内需が大きく伸び、外需が若干ながら低下するというかつてのサミットで日本が繰り返し求められた姿に非常に近くなってきた。日本はこの点はサミットで威張れる。

 一つ注目しておいて良いのは、この日本の「高成長」発表の直後に、米政府高官が、「日本における低金利政策の維持」を要請したこと。サミットでは、日本の経済成長回復基調、経常収支黒字の減少基調への満足の意が表明される一方で、金融・財政政策に関して「景気の回復を盤石にするための措置」が求められそうです。

――――――――――

 グリーンスパンFED議長は、今日の上院本会議で圧倒的多数(91−7)で3期目を承認されました。アイオワ州のホーキン議員など一部民主党議員の強い反対にもかかわらず承認されたもの。反対議員の主張は、

  「(市場経済の拡大などによる)世界的競争激化で、物価、賃金には下方圧力が

 かかっており、連銀はインフレ再燃の危険性を犯さずにより高い成長を達成できて

 いたはずであり、その面でグリーンスパンの政策は常に引き締めの度合いが過ぎて

 いた」

 というもの。この議論は聞くに値するものですが、今週発表のタン・ブックに示された今のアメリカ経済の状況では、どう見てもグリーンスパン議長の政策は間違いだったとは言えない。

 グリーンスパン議長は現在70才。新しい任期は2000年まで。上院本会議はまた、「57対41」でアリス・リブリン予算・行政管理局長官を連銀副議長に、「98対0」でセントルイスのエコノミスト、ローレンス・メイヤー氏を理事に承認。

HAVE A NICE WEEKEND
 相場自身は「動いた」とは言えない一週間でしたが、色々な事件が起きた一週間でした。東京は湿度が高くなったのがやりきれない。「除湿」が必要な時期です。疲れやすくなる。体調にはお気をつけください。

 「良い映画は...」と先週書きましたら、あちこちから電子メールをもらいました。ロンドンからは「両角さん」という方が、イタリア映画の「IL POSITINO」が良いという推薦。「ニューシネマ・パラダイス的な魅力があります」とのこと。この映画はカスタマーの井上さんも推薦してくれた。日本では銀座でやっているらしい。あと候補に上がってきたのは、「ウエールズの山」「ニック・オブ・タイム」など。機会を作って見てみましょう。私自身はひょんなことから「アンカー・ウーマン」を見て、こちらはいまいちだった。いかにもアメリカ的な作りをしていて、印象に残ったのはレッドフォードも大分いい年になったな、というもの。

 長くなりました。それでは皆さんには良い週末を.........

『参考資料』

 以下は今朝のウォール・ストリート・ジャーナルのINTERACTIVE EDITIONに載っている榊原国際金融局長の発言に関する部分です。恐らく同局長は、今までの日本の通貨当局者の中で、もっとも欧米のマスコミにクウォートされた回数の多い人物でしょう。「言葉が明確」「有言実行」などとすこぶる評判は良い。

 Earlier comments from a high-ranking Japanese
official continue to help support the dollar
against the yen. Eisuke Sakakibara, director
general of the International Finance Bureau of
Japan's Finance Ministry, said in a television
interview that now isn't the time for Japan to
change its monetary policy and that the
dollar-yen level reflects current economic
fundamentals. After initially plunging, the
dollar regained its stamina and trades near its
intraday high of 108.23 yen.

 為替以外で語った点は、人事については当然ながら「人事当局が決めることで私は関知しない」という答えでしたが、新人事決定の接近の中で出てこられたということは「通貨」を引き続き担当する可能性が高いような気もする。

 一部で噂された「政治家就任」説に関しては、明確に否定。昨年からの円安に関して「榊原マジック」というような言われ方をしていて、海外のマスコミから「MR.YEN」などと言われている点に関しては、「ファンダメンタルズがその方向を向いていた」と述べました。                              <ycaster@gol.com>