Internet version


住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

  第1292号 1996年07月15日(月)

ANOTHER REPORT ON RATE UP  
 まず市場がない日曜日ながら、あちこち(例えばNiftyserveの金融フォーラムなど)で話題になった読売新聞の「月内0.5%利上げ」報道から。私の家も読売はとっていませんから知りませんでしたが、ある方から電子メールをいただき知りました。INETで読売のホームページ(http://www.yomiuri.co.jp)に渡り全文(カスタマーに渡しておきました)を読んだのですが、ただちには「そうなるだろう」とは思えない内容でした。記事は

  1. 個人消費と民間設備投資を中心に、景気が自立的な回復軌道に乗る転換点に立った
  2. 金利生活者の収入減など長引く低金利のマイナス面を指摘する声にも配慮し
  3. 「緊急避難的」な超低金利政策を修正する意向を固めた

 という内容。この記事によれば、日銀が公定歩合を引き上げれば約6年ぶり(最後は90年8月30日)だという。

 今までも、日本のマスコミ各社は様々な「利上げ報道」を行ってきました。これまでのところ、それらは外れている。時期の問題で。読売の報道は最も新しいものですが、いくつかの重要なポイントには答えくれていない。

  1. 記事は、「0.5%引き上げ、年1.0%とすることで大蔵省などと協議し、月内にも実施する」と述べているだけで、これまで小幅な利上げにも反対してきた大蔵省がなぜ利上げを容認するに至るのかの説明がない
  2. 雇用情勢も不安定、株も怪しい、アメリカの金融市場も動揺しているこの時期に日本の公定歩合を倍にする必要性が十分に解説されていない
  3. 基本的には金利の引き上げは物価情勢の警戒信号を受けて発動されるべき物だが、この記事は「デフレ懸念が遠のいた」と述べているだけで、利上げをすれば日本の実質金利が再び大きく上昇する事態になることについての記述がない
  4. 景況良く、インフレ懸念も日本よりよほど大きいアメリカでさえも、「利上げ」の幅としては0.25%がまだ有力な今の段階で、なぜ日本の利上げが0.5%なのかに関する記述がない
  5. 短期金利の誘導目標に関して、「公定歩合の引き上げ後も、引き上げた公定歩合を基準にして低め誘導を継続する公算が大きい」と述べているが、そうすると短期金利は従来の約2倍の水準になるが、これは今の日本経済にとって重荷ではないのか
  6. 世界で一番低い金利の国である日本が利上げすることが、世界の金融市場に及ぼす影響に関する記述がまったくなく、慎重に思慮されたとは思えないこと

 など。

SOME IMPACT ON MARKETS
 無論、金利操作は日銀の専管事項ですから、「こうだ」と思ったらやれる筈です。しかし、日本の場合は色々な利害や思惑が錯綜して決まる。「月内に0.5%の公定歩合引き上げ」というのは、アメリカの次回FOMC(8月20日)も待たずにということですから、ちょっと俄には信じがたい。

 ただし、市場はいつもの通り「不安心理」を高めるでしょう。ここで改めて読売が「利上げ報道」をした裏には何かあるのではないか、誰かがリークしているのではないか、などなど。ですから、月曜日の東京の株と債券は要注意です。ただし、数日で落ち着くと思います。今日本が0.5%の利上げをしたら、その影響は日本だけには決してとどまりません。ただでさえ不安定になっているニューヨークの株価にも響くでしょう。そういう意味では、月曜日の日銀のオペレーションは注目です。

今朝のシドニー市場の為替相場は、午前6時25分現在では110円40―50銭程度と、先週末のニューヨーク市場の110円80―90銭から40銭ほどの円高になっている。この分が、今日これまでの「読売報道」の影響と言えます。

――――――――――
 確定している物で今週の注目は、なんと言ってもグリーンスパン連邦準備制度理事会議長のハンフリー・ホーキンス法に基づく議会証言です。米金融市場では、FEDの金利政策を巡って不安心理が高い。時期はいつになるのか、実施するとしてどの幅で行うのか。今週も火曜日(16日)に消費者物価(6月)が発表になりますが、全体的なインフレ指数にはまだ警戒すべき兆候は見られない。卸売物価の食料品などに警戒すべき動きがあるのと、労働需給の逼迫がいよいよ賃金のところにまで及んできたことくらいです。無論、「労働賃金」はFEDが一番気にしている指標ですが。

 グリーンスパンFED議長の議会証言は、毎回全文を読んでいますが、非常に彼の考え方の軌跡をたどる上で手がかりの多い物です。多分、日本時間の19日の朝には、インターネットにアップされているでしょうから(多分http://www.senate.gov/committee/banking.html)、全文を入手するのは容易です。この中で、同議長はFEDとしての現在のアメリカ経済に関する見方をかなり明確に表明するでしょう。この見方の中から、今後数ヶ月のFEDの政策に関する推測を行う事ができる。

 先週はオランダが市場介入金利を0.1%だったと思いますが上げて、「いよいよ欧州も利上げモードか」という気の早い観測につながっていました。しかし、このオランダの利上げに関しては、中央銀行自身が「技術的なもの」と断っている。

 土曜日のインターナショナル・ヘラルド・トリビューンには、

 「Bank of France's Rates"Can be lower"」

というフランス中銀総裁の発言が載っている。公共部門の赤字削減が順調に進んでいることから、中央銀行として利下げが可能になる可能性があると示唆している。欧州の全体的な金利トレンドは依然として「下方」と見た方がよさそうだ。今朝のニュースによれば、フランスのシラク首相も「欧州の金利は高すぎる。低下の余地十分あり」と述べたという。

 ――――――――――
 あと今週の指標で注目されるのは、15日に発表になる日本の5月の鉱工業生産確報、18日の日米の貿易統計(日本は6月分、アメリカは5月分)など。日本の黒字の減少ペースは顕著と言う言葉が当てはまる。

HAVE A NICE WEEK
 何か急に真夏になった気分ですね。アトランタも暑そう。冷房を入れなければ寝れない、しかし入れたままだと朝これも半分風邪をひいたような状況で喉に悪影響が出て気分が悪い。夏はどうもトラップされた感じで嫌ですね。家の中にもどこか涼しいところが欲しい。夏は避暑したい。もっとも、十分汗をかいちゃう気持ちで外に出れば、それはそれで快感ですが。

 今日は最近読んだ本を紹介しましょう。どれも軽い本です。結構傑作だったのは、「大蔵省極秘情報」(テリー伊藤、飛鳥新社)。大勢の中からたった3人の大蔵官僚がnot to be identifiedを前提に喋ったというのが売り。結構笑えるし、もし本当だったら問題、という箇所もある。私が付き合っている大蔵省の人のイメージとちょっと違うケースもあるのですが、「そういう考え方もあるかもしれない」というところも「これは問題」というところもある。「匿名」というのがあまり気分よくありませんが。

 「脳内革命」(春山茂雄、サンマーク出版)は売れているというので買ってみたのですが、ホルモンの名前にちょっと詳しくなるだけで、「いつも自分でやってることジャン」というのが感想。「分福・植福・惜福」の気持ちを持ってプラス思考していれば、あなたも「脳内革命」の実践者です。

 『パソコン「超」仕事法』(野口悠紀雄、講談社)、「インターネット・ビジネス」(三石玲子、技術評論社)もそこそこ面白かったのですが、どちらかと言えば、前者はほとんど自分でも実践していることが多くて、「なるほど」と思ったところは少ない。後者は、知識としても知らなかったことが多かった。

 私の身近の人が翻訳、または書いたものも。「投資家から見た株式市場」(浅野幸弘、中公新書)。バブルから現在までの日本の株式市場の動きを振り返り、将来の市場のあり方に示唆を与えている。最後に、「新中国人」(N.クリストフ&ウーダン著、伊藤 正・伊藤由紀子訳、新潮社)。我が家のもう一人が翻訳に加わっていますが、もう一人の「伊藤」は私ではない。共同通信の前の北京支局長です。結構堅い本で、読むのに時間がかかる。この手の本では珍しく増刷になったそうです。

 それでは皆様には、良い一週間をお過ごしください。               <ycaster@gol.com>