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住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

  第1293号 1996年07月19日(金)

yet to see early signs in prices
 世界中の金融市場から注目を浴びたグリーンスパンFED(連邦準備制度理事会)議長の上院銀行委員会における議会証言は、筆者が全文(月曜日にこのニュースで紹介したインターネット上のページではなく、WSJのデータベースに入っていました。そのページは、http://interactive4.wsj.com/edition/resources/documents/humphawk.htmです) を読んだところの最初の印象は以下のようなものでした。

  1. 将来の成長を危うくするような現実的なインフレの兆候はまだ現れていない
  2. しかし、仮に成長の持続性を危うくするようなインフレが起きる兆しが現れたら、FEDは引き締めに動くだろう

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 アメリカのマスコミの大部分もそうですし、多分日本のマスコミも「インフレが起きたら利上げする」という方を強調すると思いますが、グリーンスパン議長証言の結構大事なところは、「実際にはまだインフレは起きていない」というところにあるようです。

 グリーンスパンは、証言の最初の方で、

Even though the U.S. economy is using its productive resources intensively, inflation has remained quiescent.

 と述べ、さらに真ん中へんで

Perhaps reflecting these unusual influences, we have yet to see early signs in prices themselves of intensifying pressures,despite anecdotal and statistical evidence that the amount of operating slack in our economy has been at low levels by historic standards for some time.

   ここで、グリーンスパンがthese unusual influencesと言っているのは、「新しい技術が登場して生産性が向上する中で、労働者が低い賃上げに甘んじる傾向」「世界経済のグローバル化の中で、固定コストが分散して専門性と効率化が進展し、価格競争が激化している」という事実です。

 グリーンスパンは現実にまだインフレが生じていない事実を、食料品とエネルギーを除いた消費者物価のコアで見て、今年上半期の上昇率が年率で2.8%と昨年同期を依然として0.5%下回っている事実を指摘している。つまりまだ経済の成長の持続性を脅かすようなインフレは起きていないことを明確にしている。

more difficult than usual 》 
 しかし、グリーンスパン議長は次のように指摘して、こうした好環境が変化する可能性を示し、その場合にはFOMCとして「利上げに動く」という方針を明確にしています。彼はこう言っている。

 「Nonetheless, there are early indications that this episode of favorable inflation developments, especially with regard to labor markets, may be drawing to a close. The surprising strength in the employment cost index for wages and salaries in the first quarter raises the possibility that workers' willingness to surrender wage gains for job security may be lessening

 つまり、これまでは低い労働賃金の上昇幅に甘んじてきた労働者の賃金の上昇ペースが加速する可能性がある、と指摘している訳です。

そしてそうしたことから経済の成長の持続性を危うくするようなインフレの発生の危険性が生じたら、

 「 I am confident that the Federal Open Market Committee would move to tighten reserve market conditions should the weight of incoming evidence persuasively suggest an oncoming intensification of inflation pressures that would jeopardize the durability of the economic expansion.

 と述べている。「必要なら動く」というわけです。こちらの方がニュースの頭にはなりやすい。しかし、グリーンスパン議長は正直ですから、こうした市場を安心させる言葉の前に、

Clearly, in this environment, the Federal Reserve has had to become especially vigilant to incipient inflation pressures that could ultimately threaten the health of the expansion. The relatively good inflation performance of the past few years, as best we can judge, owes in part to transitional forces that are only temporarily damping the wage-price inflation process. We cannot be confident that we can ascertain when that process will come to an end. This makes policy responses more difficult than usual,because, as always, the impact of policy will be felt with a significant lag. Of course, if the economy grows so strongly as to strain available resources, transitional forces notwithstanding, history persuasively indicates that imbalances will develop that will bring the expansion to a halt.

 と述べている。つまり一言で言えば、「難しい」と言っているわけです。

a good year for the American economy
 しかし、一方で非常にまた重要なことは、金融政策面で「難しい局面」にあると言いながら、グリーンスパン議長は今年これまでのアメリカ経済がきわめて順調であることを強調している。何よりも彼の証言は最初の挨拶のところを除けばのっけから 

 「Nineteen-ninety-six has been a good year for the American economy」 

 と明言している。雇用は伸び(今年上半期だけで140万人)、成長率は高く、生産は活発で、設備稼働率は高いと述べている。

 しかし、議長は今年これからの米経済は「鈍化」するとも述べています。挙げている理由は、

  1. 第一に、債券相場の崩れによる長期金利上昇が及ぼす経済への抑制効果
  2. 第二に、貿易加重平均で見たドル相場の諸外国通貨に対する大幅上昇
  3. 第三に、成長に寄与してきた耐久財支出(家計支出および企業の固定投資)の減少見通し(今後数四半期で)

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 全部総合してみると、アメリカの利上げはそれほど確定的なものではないし、あってもそれほどペースの速いものではないということになる。どこか、「opportunistic approach to disinflation」の考え方を感じないわけではないですが、これは詳細にまた検討してみましょう。全体的に言えるのは、グリーンスパン議長は株も債券も落ち着かせるために、正直ベースを逸脱しない範囲で、かなりの「高等戦術」を使ったということです。しかも、クリントンもグリーンスパンの経済アセスには文句の付けようがない。

mart welcome Greenspan testimony
 「明日にでも利上げか」と見ていたニューヨーク市場は、当然グリーンスパン議長の証言内容を歓迎しました。まず株はダウで87.30ドルと今年3月18日(98ドル)以来の大幅な上昇を記録し、引けは5464.18ドルとなった。水曜日に大幅に上昇していたハイテク株も好調だったようです。

 もっとめざましい上昇を見せたのは債券でした。指標30年債の利回りは、前日の7.02%から6.92%に下げたという(ただし暫定数字です)。

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 しかし、株や債券の上昇にも関わらず、ドルはマルク、円に対して前日比まちまちに終わりました。一つには、グリーンスパン証言の前に発表された今年5月の米貿易統計が、8年ぶりの高い水準である109億ドルの赤字になったことです。輸出も伸びたのですが、車、おもちゃやゲームの輸入が大幅に増加したことが、赤字を増やした。

 5月の米貿易統計で注目すべきは、対中国のアメリカの赤字が31%も増加して、30億6000万ドルと、対日赤字(31億3000万ドル)とほぼ同じになったこと。アメリカの対日赤字は、23.7%減少しており、トレンドとしては、今後アメリカが貿易収支でもっとも赤字を出す国は「日本」から「中国」に変わるであろうことを予感させます。

 ドル・円について言うと、日本における利上げ観測が引き続き響いている。円調達・高金利通貨運用の向きが、徐々にこのポジションを崩していると言われるが、実体は不明です。しかし、ニューヨークの金融市場がかなり落ち着いてきたことから、当面ドルは上値が重い環境が続くにしても、それほど谷は深くないとも予測できます。

have a nice weekend
 暑い週でしたね。朝起きて、「ウーン冷房の効いた家にいたい」と思ったことがしばしば。思い出しました。このくそ暑いのに、夜の集まりを銀座のお好み焼き屋で企画した奴がいた。最初は冗談だと思ったのですが本当で、これにはびっくり。「食べた」というより、「暑かった」という印象が残った食事会になりました。皆さんも会合を企画するときには、十分お気をつけください。

 グリーンスパン議会証言は最初インターネットのどこに載っているかわからなくて、米上院にe-mailを打って聞いているうちにォール・ストリート・ジャーナルのページを見つけたのですが、米上院のwebmasterからは返事がその後帰ってきました。ニューヨーク連銀がページを設けているらしい。参考までに。

 それではみなさまには良い週末を。

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Date: Thu, 18 Jul 1996 17:12:36 -0400
From: Webmaster <Webmaster@scc.senate.gov>
Subject: Re: NEED TO KNOW TESTIMONY PAGE
To: YOICHI ITOH <ycaster@gol.com>
Content-Description: cc:Mail note part

Itoh san,
Thank you for writing.
Chairman Greenspan's testimony will be posted at the discretion of the
United States Senate Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs.
202-224-7391
534 Dirksen Senate Office Bldg
Washington, DC 20510-6075
At the current time, the Committee is not posting any information on
the Senate Web Server.
The Federal Reserve Bank of New York has been posting Chairman
Greenspan's previous testimony at their site:
http://www.ny.frb.org/pihome/news/announce/
Please check the site listed above for testimony, or contact the
Banking Committee directly for the information you seek.
Best wishes,
Senate Webmaster                <ycaster@gol.com>