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住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

  第1297号 1996年08月02日(金)

slower growth ahead ?
 今週はまだ大物(日本時間夜9時半発表の7月の雇用統計)を残していますが、「二つの数字」を除いてアメリカ経済のゆっくりした鈍化を示す指標が出ました。この結果、債券市場では相場が上昇して利回りが低下し、株式市場では株が買われてダウで5600ドル近くまで上昇してきている。

 「二つの数字」の第一は、火曜日に出た「消費者信頼感指数」です。この数字は民間機関である
Conferance Board」(本部ニューヨーク)が発表しているものものですが、7月は107.2(85年=100)と前月の100.1から大幅に改善した。実に6年ぶりの高水準。雇用環境などが好転し、消費者が経済の先行きに強気になっていることが伺われる。

 強かった数字の第二は、昨夜発表になった先週の新規失業保険申請者数(initial claims)の数字です。7月27日に終わった週の新規失業保険申請者数は、「その前の週より小幅増加」というウォール・ストリートのエコノミストの予想にも関わらず、29万2000人と、その前の週の32万1000人を大きく下回った。これは、実に7年半ぶりの低水準だという。雇用が安定してくれば、消費者も強気になろうというものです。今までは、アメリカの労働者は「レイオフ懸念」が非常に強く、これが購買意欲を削いでいた面があった。

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 しかしこれ以外は、大方の数字が予想の範囲内か、それを下回る数字でした。弱かった数字の中で目に付いたのは、工業地帯であるシカゴ地区と、全米の大企業購買担当者を対象とする景況指数(
NAPM
指数)でしょう。

                     6月            7月

シカゴ地区               53.3            51.2

全米                  54.3            50.2

 つまり全米の数字は、景気の成長・収縮の分かれ目である「50」に限りなく接近したと言える。この数字は、各種統計の中でも一番「現場感覚」の出る数字ですから、債券市場が今週上昇したのは、この二つのNAPM数字に寄るところが大きいと言えるし、その反応はかなり妥当だとも言える。

and low inflation now
 あと今週週初に注目された数字を簡単に振り返ると、火曜日に出たECI(雇用コスト指数)については、予想が前期比(季節調整済み)0.9%、年間3.3%(季節調整前)だったのに対して、実際は「0.8%、2.9%」と予想よりやや低く、事前の「身構え」からはちょっと予想外で市場は反応薄だった。雇用統計で数字を追うと、下から二番目に目当ての数字が出てきます。そこからハイパーリンクして数字を見ると、全体の数字は毎四半期0.7%か0.8%上昇しており、特にここに来て上昇のペースが上がったわけではない。

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 日本時間の昨夜発表になった第二・四半期のGDP統計は、成長率が4.2%と2年ぶりの高水準になりました。昨年最終四半期が+0.3%、今年第一・四半期が+2.0%でしたから、著しい加速。もちろんクリントンは、「これはアメリカにとって良いニュース」と賞賛。しかし予想そのものが3.9%だったためこちらの数字はあまり響かず。GDPを押し上げたのは、「消費者支出の好調=年率3.7%上昇」「住宅支出の増加=同5.2%増」「在庫積み増し」「地方公共団体の支出増」など。逆に足を引っ張ったのは「純輸出」。輸出は年率5.2%増加しましたが、景気の良さを反映して輸入は12.9%増大。

 市場が注目したのは、物価水準を示すGDPデフレーター。第二・四半期はわずかに2.0%の上昇率で、これは第一・四半期の2.3%をも下回っている。インフレは全く顕在化していないと言うことです。あと、今週発表になった数字では、民間の住居用住宅の着工高が落ちてきていることが伺える。これは住宅ローン金利の上昇が借り手を逡巡させているため。

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 今週これまでに出た数字を総括すると、

  1. 経済の成長ペースは高いが、今後徐々に鈍化する兆しは出てきている
  2. 連邦準備制度理事会が懸念している労働市場の逼迫は徐々に見えてきているが、それがインフレにつながる兆しはあまりない
  3. 物価は極めて安定していて「インフレ再燃」の兆しはない

――ということです。穀物相場が大きく上がったときでも、製品価格が上昇しなかったことを思い出します。労働コストが多少上がっても、今のアメリカの市場環境、つまり競争条件が厳しく、技術革新が著しく進む環境では、中間吸収が大きく、最終製品のところにまで波及はしていないと考えることが可能です。ですから、「労働賃金の上昇→最終製品価格上昇→インフレ」という70年代、80年代の図式は、少し割り引いて考えなければならないと思います。ただしどの程度割り引いていいかは誰にもわからない。グリーンスパンもこの点を迷っているのではないでしょうか。

market reacted favorably
 市場はこうした一連の数字を

  「アメリカ経済は今年下半期にかけて鈍化する」
  「インフレ圧力は小さい」
  「8月20日に利上げ見送りの可能性もあるし、同日に上がってもその後の上げペ
   ースはゆっくりしたものになる」

 と理解しました。それゆえに市場の反応は8月2日のウォール・ストリート・ジャーナルの一面の見出しで示すならば、株も債券も「歓迎」という形になっている。

          STOCKS AND BONDS rallied on new
             signs that pressure on the Federal 
            Reserve Board to lift interest rates is
          easing. The Dow Jones Industrial Average
          jumped 65.84 to 5594.75, while the yield
          on long-term bonds fell to 6.84%, the
          lowest level since May.
                     *   *   *

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 しかし、為替は素直にはニューヨークの資産市場の上げ基調を反映してドル高とは展開しませんでした。これは

  1. 今週のオーストラリアの予想外の利下げが、世界的に高金利通貨からの資金流出を招いており、ドルもその影響を受けた(7.5%→7.0%=コールの誘導目標)
  2. アメリカの金利の上昇が期待ほど確実なものではなくなりつつある
  3. 輸入の増加基調の中で、アメリカの対外収支に対して新たな懸念が出ている
  4. 依然としてニューヨークの資産市場の安定性には疑問が残る
  5. ドル・ロングの整理が続いている
  6. 欧州金利の下げ止まり感の台頭(先週のブンデスの利下げ拒否で)

 ――など。
 しかし、円よりもマルクやスイスに関して「介入懸念」が強いようです。スイス当局も金融市場操作を通じてフラン高に警鐘を発している。

 残るは、今夜9時半に発表される7月の雇用統計です。此の数字は、このところエコノミストの予想を裏切り続けている。予想外の数字が出る。過去3ヶ月ほどは常に強い数字が出た。今月はどうでしょうか。

have a nice week
 暑い日が続きますね。今週末も暑いそうで、避暑対策を考えないと。夜などふらふらしなければ良いのですが、ついそうはいかない。昨日も神宮前でフォワード班の連中の推薦でメキシコ料理を食べましたが、これでエネルギーがついた。夏は、蕎麦かエスニックが良いかもしれない。

 ヨットで銀メダル。下馬評にも載っていなかった分野でのメダル。ナイス。今朝の新聞でメダルの数をちらっと見たら、国の規模から見たらメダル獲得はちょっと少ない感じ。まあ、あまり気にする必要もないでしょう。珍しい種目で金が取れるような人が出てくれば面白いかもしれない。  酷暑厳しき折ですが、体調には気を付けて、良い週末をお過ごし下さい。
                                  <ycaster@gol.com>