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住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

  第1298号 1996年08月05日(月)

NY MARTS TURNED SENTIMENT  
 7月の米雇用統計を受けて、ニューヨークの株式市場と債券市場では買い物が殺到しました。債券は、統計発表直後から買われて利回りで6.72%(指標30年債、前日6.84%)まで下がった。つい2週間前までは7%のレベルにあったことを考えれば、著しい金利低下。

 もっと劇的な動きを示したのは株式市場で、金曜日に85ドル(1.5%)以上上げたのは頷けるとして、先週一週間の上げ幅は206.77ドルに達した。これは週間のダウの上げ幅としては史上最高だという。下げの懸念が強く指摘されていながら、ニューヨークのダウは史上最高にあと100ドルの所にまで戻して来た。

 NASDAQはパーセントとしてはもっと上げて、金曜日だけで26.07ドル、2.4%の上昇で、この上げ幅は一日の率で見た上げ幅として史上2番目だという。市場全体で言えるのは、金利敏感株の上げが大きかった。ハイテク株の上げも目立った。

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 こうした市場の反応は、先週発表された一連の統計を受けて、「当面、アメリカの金融当局が金融引き締めに動くことはない」との見方が強まったことによる。雇用統計以前の数字については金曜日の当ニュースで解説し、市場で強まった見方として

 「アメリカ経済は今年下半期にかけて鈍化する」

 「インフレ圧力は小さい」

 「8月20日に利上げ見送りの可能性もあるし、同日に上がってもその後の上げペ
   ースはゆっくりしたものになる」

 を指摘しておきましたが、雇用統計はこうした見方をより一歩進めたものとした。統計は、

  1. 経済は雇用を創出しているものの、そのペースは落ちてきており(7月=19万3000人、6月=22万人、今年第二・四半期月平均=27万3000人)
  2. 賃金の高い製造業の雇用創出力は低下しており(7月の製造業の雇用者は2万人減少、増えたのは建設と小売り)
  3. 週平均労働時間(6月の34.7時間から34.3時間に減少)や週平均労働賃金(同11.82ドルから11.80ドルに低下)も、目先の著しい労働賃金の上昇を予告してはいない

など。

no interest rate increase for the time being
 こうした統計を受けて、市場は「今月20日のFOMCでの利上げはない」「あっても第四・四半期で、来年になるかも」という見方が大勢になりました。何よりも先週明らかになったのは「インフレの再燃の兆しがない」という事情です。市場のインフレ懸念は、「懸念」にとどまっている。

 むろん、アメリカ経済が先進国の中でもっとも順調な、力強い成長をしていることは確かで、7月の失業率の5.4%への上昇(6月は5.3%)にもかかわらず、働く意志のある人にはほぼ残らず仕事を提供できている状態(完全雇用状態)になっているとの見方が有力です。ですから、賃金上昇圧力は今後強まる、というエコノミストもいる。しかし、先週の金曜日に指摘したとおり、厳しい競争条件の下では企業も安易な最終製品値上げはできませんから、最終製品のところで物価の上昇が起きるまでには時間がかかる。かつ、アメリカの生産性は今年第一・四半期に2.1%も上昇しており、労働賃金の上昇があっても十分見合う形になっている。

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 インフレはなく、今後アメリカ経済が鈍化することを示す先週一週間の数字を素直に喜べなかったのが、ドルです。ドイツの利下げが先送りになり、日本の利上げの日程が話題に上る中で、市場には金利差縮小の連想が起きた。またドルには依然として買いもたれ感もありますし、オーストラリアの利下げのショックも尾を引いている。

 先週金曜日には、一部のマスコミが東京市場での「日銀の介入」を報道していましたが、マルクにも円にも一段の下げの場合には実際に介入の可能性が出てきます。ドイツの当局も1.5マルク前後のマルク相場は歓迎できても、1.45マルクは自国経済にとって重荷だし、妥当なレベルではないと考えているでしょう。日本も105円以下は、レベルとしてはそれほど警戒すべきではないものの、市場が90円台を視野に置きかねないという意味では、あまり歓迎しないでしょう。ただし、アメリカはインフレ懸念が低下している最中であり、ドルの現在程度の下げを著しく懸念する理由はないように見える。ただし、ニューヨークの資産市場が今後もしっかりした動きをするなら、ドルの下値不安もそれほど強くはないでしょう。

light schedule
 今週は先週と違って、予定は詰まっていません。日本ではお盆の休みが接近してきましたから、ニューヨークの株の活況の雰囲気が移植される可能性は少ないように思えます。ニューヨークであれだけ株が上げている中で、シカゴの先物市場の東京の株価はわずかしか上がらなかった。

 今週の主な予定は、

    5日    アメリカの6月の景気先行指数、住宅完工件数

    6日    同6月の消費者信用残高、卸売物価、タンブック

          日本では松下日銀総裁の記者会見

    7日    アメリカの失業保険申請件数(8.1週)

    8日    アメリカ7月の卸売物価(PPI

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 市場が注目するのは、8日のPPIでしょう。先週一週間の一連の統計で「インフレはまだない」というセンチメントが出来ていますから、数字が小さければトレンドを再確認ということであまり響かないでしょうが、プラスの数字が大きければ相場には響くかもしれない。景況という点では、7日に出る「タンブック」も重要です。「景況」と「インフレ」を直ちには結びつけられない事情を市場は徐々に納得し始めていますが、完全になくなったわけではない。またこれが強いと、「インフレ再燃の懸念あり」と騒ぐ連中が出てくるでしょう。

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 最後になりましたが、今朝のジャパン・タイムズの8面に、

 「Iran-U.S. tensions expected to spark rally in oil prices」

 という記事がある。サウジアラビアの米軍施設に対するテロはイランの仕業であるとの見方が強まり、これに関してアメリカがイランに対して軍事行動を起こす可能性があるという。注意しておきたい。

HAVE A NICE WEEK
 夏休みの真っ最中。何人もの人から、「来週から夏休みで...」とメールをもらいました。ENJOY ! オリンピックも今日(日本時間では)が最終日。いろいろありましたが、あっという間に過ぎた感じです。

 アメリカではNBCが放映を独占したようですが、日本は混成部隊の放映。アナウンサーもいろいろな局から出ていた。一つ特徴的だったのは、1分も聞いているとこのアナウンサーが民放のアナウンサーか、NHKのアナウンサーか分かった。馴染みの声が多かったというのもありますが、声の出し方が違う。単純化して言うと、民放のアナウンサーは絶叫型が多く、声の出し方のピッチが速い。NHKのアナウンサーはどちらかと言えば落ち着いていて、ピッチも遅い。好き嫌いがあるでしょうが、長く聞くには、私には後者の方が「sounds nice 」でした。

 寝不足になったのは確かです。オリンピックも終わったし、ちょっと一休み。O157を含めて、病魔は疲れた体にとりつきます。よく寝ましょう。そして健康な夏を。今週は木金と出張で、金曜日のこのニュースは休みします。

 皆さんには、良い一週間をお過ごしください。 

                   
                                  <ycaster@gol.com>