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「今後六ヶ月の最新為替相場予想」を書きました。ご興味のある方は、ご覧下さい。

住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

  第1303号 1996年09月02日(月)

revising forecasts upward  

 再びアメリカの金融政策を巡る議論が活発になってきました。先週発表になった一連の米経済指標が強いものばかりで、主要エコノミストの中にも「FEDは利上げすべし」との見方を表明する人が出てきたため。

 例えばハーバード大学のマーチン・フェルドスタイン教授(NBERの会長)は、この週末にワイオミング州のジャクソンホールで開かれた金融シンポジュームで、

  「FEDは、インフレが加速するのを阻止するために、短期金利を引き上げるべきである」  

 と言明した。このシンポジュームはカンザスシティ連銀が主催したもので、世界中のエコノミスト、政府当局者、中銀関係者が出席しており、その中にはグリーンスパンFED議長やその他FOMC(連邦公開市場委員会)のメンバーも出席していた。

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 「利上げすべし」と主張するまでには至らないものの、先週目に付いたのは、エコノミストの間での今年下半期の米経済成長率見通しを引き上げる動き。その反映が金曜日のウォール・ストリート・ジャーナルの記事(「Economists revise forecasts upward through this year」)となっている。

 この記事の要旨は

  1. 多くにエコノミストは8月上旬に出た7月の弱い指標はmisleadingなものであり、最近の長期金利の上昇も米経済を鈍化させていない
  2. エコノミスト達は、今年第四・四半期の成長率見通しを一ヶ月前の前回調査の時より平均0.2%引き上げて、2.3%としている
  3. 8月に入って経済活動が再び活発になっている兆しは、小売売上高の伸び、設備投資意欲の回復、輸出の改善、在庫積み増しなどに見られる
  4. 金利上昇に一番弱いと見られていた住宅産業でさえ、一年変動住宅金利(one-year variable mortgage rate)のように、伝統的な住宅ローン金利(conventional mortgage rate)を大幅に下回る金利が登場し、かつ徐々に普及することによって、強い水準を維持しており、これは下半期の景気を支える

 ――などとなっている。

escape mechanism

 興味深いのはCで、この記事によれば、伝統的な住宅ローン金利は今年だけで7.03%から8.20%に上昇したものの、一年ものの金利をベースにした変動住宅ローン金利は、6.09%から6.24%にしか上がっておらず、かつこうした低い変動金利で住宅資金を手当している消費者の全体に占める割合は、今年に入ってからだけで従来の倍に増えて16%くらいになっているという。

 この記事は、消費者、企業は長期金利上昇に対する「escape mechanism」を持ち始めており、これが経済活動の水準を高く保っている、と指摘している。無論、この場で何回も指摘している通り、今のアメリカを初めとする先進国経済では、景気の拡大が直ちにインフレ率の上昇につながるわけではない。国際的な競争があり、技術革新がある。しかし、市場が引き続き「景気拡大予想→インフレ懸念」というknee-jerk reactionを起こす可能性が高いということだけでは、頭の中に入れて置いた方が良い。

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 もっとも、政治的には今のアメリカ経済は現政権にとって「最良の状態」に近いとも言え、週末のラジオ演説でクリントン大統領は

 「Hope is back. We are on the right track to the 21st century. Our economy is growing, providing opportunity for people.

 と宣言。共和党大会の直後にドール候補に詰められた支持率も再びクリントン優位に差が開き始めており、クリントンの選挙参謀の間では自信が蘇っている、との記事も今朝は散見された。市場が関心があるのは、政治の場で展開している「減税論争」が実際に債券市場の需給やインフレ見通しをどう変えるかでしょう。

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 こうした「景気拡大予想→インフレ懸念」という見方をドルは好感し、株と債券は嫌気しました。ドルの上昇要因には、

  1. 「ファンダメンタルズから見て、ドルは過小評価されており、もうちょっと上昇しても良い」というティートマイヤー・ドイツ連銀総裁の発言
  2. 日本の金利がここ当分上がらず、その結果日本と諸外国の金利差は基本的には拡大傾向との見方

 ―が加わった。

 ティートマイヤー総裁の発言は先週の金曜日に出たもので、ドルが1.48ドル台に乗るきっかけを作った。Aは「円安」の要因として働きました。円は対マルクでも先週後半に大きく下げて、今朝のマルク・円は73円50銭前後にまでなっている。日本の景気がもたつき、株価が2万円を割るようなら、円相場には売り圧力がかかる可能性がある。

watch New York market

 ただし、ここで一つ注視する必要があるのは、ニューヨークの金融市場です。先週末にかけて金利上昇懸念から債券は指標30年債で7.11%まで上昇、株は二日連続の大幅な下げを演じている。週末の朝日新聞の報道によれば、今までニューヨークの株を支えていた投信を通しての株式市場への資金流入が一時のペースより減っていると言われる。

 ニューヨークの資産市場が大きな下げを演じる中では、ドルも不安定になる危険性もあります。その場合は、東京の株式市場も動きが不安定になると思われますから、資金が実際にどう動くかを見る必要があります。しかし、全体的には「円安」の方向にあると思われます。

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 今週は、「強気」に傾き始めたアメリカ経済に対する景況感が正しいかどうかを示す指標がいくつも出ます。2日はレーバーデーで休みですが、その後は

   3日(火曜日)   全米購買部協会(NAPM)の8月の景況指数
        米7月の景気先行指数
   4日(水曜日)   米7月の建設支出
   5日(木曜日)   ドイツ連銀理事会
             失業保険申請件数
             米7月の住宅完工件数
   6日(金曜日)   米8月の雇用統計

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 雇用統計については、週が進むに従って予想は変化するでしょうが、今のところは率が5.4%で変わらず、非農業部門就業者数は22万5000人(7月は19万3000人)に増加の予想。あと、2日には日本の8月の外貨準備高が発表される。NAPMや雇用統計は、アメリカの景況感、インフレ懸念に対する市場の見方を大きく動かす可能性が大です。

have a nice week

 先週は雲がどんよりして雨が多く、「冬のロンドンのような天気だ」(ロンドンの方には失礼)と思っていたのですが、今朝はえらく天気がよい。暑くもなるそうです。やっと残暑でしょうか。学校が夏休みも終わりとなり、再開される。電車がちょっと混むかも知れない。

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 色々な人に推薦されて「龍の契り(The secrret agreement)」(服部 真澄 祥伝社)を読み始めました。ちょっと前の本で読まれた方もいるでしょう。スケールの大きい、現実性溢れる小説との売りですが、結構面白そう。確かにイントロのところを読むと、日本の小説家とも思えないスケールの大きさがある。最近読んだ本では、「ビーイング・デジタル」が結構面白かった。

 最近ビデオ屋に行ったら、「セブン」「ブレーブハート」「ショーガール」「ザ・インターネット」などつい最近ヒットした作品が並んでいました。見落とした人はどうぞ。しかし、どうも納得できる映画が少ない。何か良い映画を見た人がいたら、ビデオでも上映中のものでも良いのですが、推薦して下さい。木・金は一種の研修で出張しますので、金曜日のこのニュースはありません。

 皆様には、良い一週間をお過ごし下さい。
                                  <ycaster@gol.com>