INTERNET EDITION


「今後六ヶ月の最新為替相場予想」を書きました。ご興味のある方は、ご覧下さい。

住信為替ニュース

THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS

  第1304号 1996年09月09日(月)

strong job situation in U.S.  

米雇用統計が極めて良かったことは日本の新聞でも報じられていますが、報じ切れていないところを取り上げると以下の通りです。

  1. アメリカの失業率は実質23年ぶりの低水準=土曜日のNando Timesなどによると、8月の米失業率5.1%は確かに89年3月(5.0%)以来の低水準で多くの新聞が取り上げている「7年ぶり」で正しいのですが、これは一ヶ月だけでその前を見ると全部5.1%より高く、実質的には約23年ぶりの低水準
  2. 失業率の低下は、特に20才から24才の若年労働者群(9.7%→8.3%)、55才以上の熟年労働者群(3.8%→3.1%)に顕著に出ていて、失業率の改善が全年齢階層に及んでいることが鮮明になったこと
  3. 中西部の一部地域の失業率は2〜3%にまで低下している所も出てきており、中小企業の中には労働者を見つけられないところも出てきている

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 など。全体的には極めて強い。加えて、前月2セント低下していた時間当たり労働賃金は8月は6セント上昇。6月は10セントの上昇でしたが、これについて労働長官のライッシュが面白いことを言っている。

   「It's great news for working Americans Finally,they're beginning to get a
    raise.

 やっと労働賃金が上がりだしたと喜んでいるのです。グリーンスパンがこれをどう考えているかは伺い知れますが。ライッシュは「労働長官」ですし、彼は企業業績の果実が労働者にまで渡っていないと言っていた口ですから、こうした発言になったと思われます。

 むろんこれは、クリントン現政権にとっては良いニュースです。クリントンはこの雇用統計を、「more good news」と呼び、「米経済は正しい拡大基調にある」と賞賛。困ったのは挑戦者のドールです。彼のこの雇用統計に対する言い方は面白い。

   「今日の雇用統計は確かに良いが、基本的事実がここには隠れている。こんなに雇用
  情勢が良いのに、アメリカ人はなぜ共稼ぎをしなくてはならないのか ? やはり私
  が主張している減税が必要なのだ....」と。

 ちょっと苦しい。景況が良いときの挑戦者は難しい。逆に言えば、これだけ経済情勢が良くて仮にクリントンが破れたとしたら、よほど他の資質で失敗したという事になりそうですが、今のところの世論調査ではクリントン支持が再びドール支持を引き離しつつあるようです。

strong footing for financial markets

 この極めて強い統計を受けた金融市場の動きは複雑でした。まずは、債券売り、株安に動いた。しかし、株も債券も直ぐに巻き戻しました。理由は色々付けられています。

  1. 25万人増えた非農業部門就業者数は確かに予想以上だったが、このうち7万7000人分は政府部門で生じており、全部が民間で生じているわけではないこと
  2. 利上げ幅については、先週一時高まった「大幅利上げ」ではなく、再び「0.25%の小幅利上げ」の可能性が高いとの見方が強まった

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 など。しかし、これだけ強い数字を見てまた何故それまでの主流だった「0.5%の利上げ説」から「0.25%の利上げ説」が強くなったのかは実はよく分からない点がある。0.25%の利上げ説を唱えているのは、デービッド・ジョーンズなどです。むろん0.5%の上げを依然予想している連中もいる。

 おそらく0.25%の利上げ説を取る向きは、こうした雇用情勢、労働賃金の上昇傾向にもかかわらず、アメリカのインフレ率が上昇していないことを勘案しているのだと思います。実際の所、アメリカの最近の統計は雇用と生産のところで強い数字が出るのですが、インフレ指標は何時も落ち着いているという事を繰り返している。そのたびに相場は方向転換している。

 生産の強さ、雇用の強さがそのままインフレ率に波及しない経済については筆者はこれまでもこのニュースで書いてきましたが、連邦準備制度理事会やそれを取り囲むエコノミストの間でも、生産や雇用の統計をどの程度金融政策に反映させるべきかは、議論になっているのだと思います。こうした議論の中から、

   「opportunistic approach to disinflation

 という考え方も出てきている。9月24日の次回FOMCまでには、インフレ統計も十分に出る。FEDが利上げするかどうか、利上げするとしてどのくらいかはそれから考えても遅くないと思われます。アメリカの金融市場では、むろん根強い見方として「利上げ見送り」の観測もある。あっても選挙後と。

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 強い雇用統計にもかかわらずニューヨークの資産市場が崩れなかったことで、ドルは上昇しました。対マルクが1.49マルク台の前半。円は一時109円の半ば近くまで行きました。ただし、ドルの頭も重い。今週も、ニューヨークの資産市場が崩れない限り、ドルの大きな崩れはないでしょうが、かといって力強く上昇する可能性も薄い。行って110円をちょっと覗くくらいでしょうか。

have a nice week

 金曜日は出張で、このニュースはお休みでした。このところ、本当に出張が多い。出張のうち、半分くらいは「研修」ですが。

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 私のインターネット上のホームページ(http://www2.gol.com/users/ycaster)のcyberdiaryには既に書きましたが、面白いパロディ・ページを発見しました。世界で一番訪問者が多いインターネット上のページは、ホワイトハウスですがそのパロディ版。

 本物は、http://www.whitehouse.gov/」ですが、

 「パロディー版」はhttp://www.whitehouse.net/」。似てるでしょ。

 「http://www.whitehouse.net/」は実は「http://www.whitehouse.net/index#.html」の上部構造になっていて、「#」の部分に0から8の数字を入れて下さい。中身(ハイパーリンク)も結構深くて、笑えるページが多い。例えば、

 .http://www.clinton96.org/cgolf.html
 http://www.clinton96.org/cvisitors.html

 など。いろいろ探すと面白い。ヒラリーを取り上げたページも多く、ジェニファー・ジョーンズも登場します。検索ページのyahooには、「whitehouse」で探すと、パロディ・ページの方目立つ。

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 週末に読んだ面白い本を紹介しましょう。「ネットワーク リーダーシップ」(日科技連)。「シリーズ・社会科学のフロンティア」の2として出ている本で、慶応義塾大学の高木晴夫先生などが書かれている。

 情報化社会の進展の中で求められる組織編成のあり方は「poly-agent system」、つまり「人間という自律主体(エージェント、agent)が多数(ポリ、poly)集まり関係性を持っているシステム」であるとし、それに基づいたネットワーク組織に移行すべきだ、と説いているのですが、特徴なのはむやみに従来の日本のシステムを破壊するのではなく、その中の移行可能な部分を残して日本の組織(企業など)を情報化社会に適合すべきだと説いている点。

 この本は非常に興味深いことに、新しい流行現象としての「一本かぶり」(同種の中でもある商品にばかり客が集中し、しかしその期間は短く、直ぐ関心が他に移る現象)に注目し、これこそ時代がネットワーク的に動き出した証拠だと述べている。だからこそ、組織もネットワーク的にならねばならないと指摘している。つまり、従来のピラミッド型の組織の変更を求めているわけです。とにかく、面白い本です。ネットワーク社会の組織論に興味のある方はどうぞ。私も会社の上から貸していただいたのですが、この本を読んで得したと思いました。
                                  <ycaster@gol.com>