THE SUMITOMO TRUST & BANKING CO., LTD FX NEWS
第1305号 1996年09月13日(金)
《 dollar is creeping up 》
走りはせず、しかしゆっくりとドル高が進行した一週間でした。一時間ごとの動きは小さいものの、週を通じてみるとドルは対円でも、対マルクでも結構大きく上げている。最近ではもっとも「動いた」と感じた一週間でした。
ドルが全般に高くなった理由は
――など。
「アメリカ経済に対する楽観論」は、「下期にアメリカ経済は鈍化する」というグリーンスパンFED議長の予想(7月の議会証言時点)に対する疑問にまで発展している。雇用統計に示されたように、8月に入っても雇用情勢は順調で、タンブックでも米経済の強さは示された。しかし一方で、「米経済の強さの割には、インフレ圧力はそれほどでもない」という見方が強くなっていて、このために「金利上昇予想」は依然として根強いものの、「大幅で連続的な利上げ」の予想は下火になっている。「あっても小幅、利上げが続くとしても、いちどあったあとはかなりインターバルを置いて」というのが一般的な見方。
この結果、ニューヨークの資産市場は「利上げ予想の中での価格上昇」となっている。これは例えば2〜3週間前と比べれば雲泥の差です。当時は、利上げ予想がニューヨークの資産価格の下落につながっていた。これではドルは安心して上げられない。ニューヨークの資産市場の安定ぶりは、株を見れば明らかです。昨日のニューヨークの株価はダウ工業株平均で見てまたまた史上最高値に引値でも接近した。
《 weak Japanese and German economy 》
これはドルにとってもっとも良い環境です。海外の投資家にとって、資産価格が上昇する中での米利上げ予想で、もっとも安心して同通貨を買える。
力強い米経済の対極にあるのが、日独の景気です。日本の景気に対する悲観論は、特にアメリカで強まっているようです。補正の組成が選挙がらみで遅れる、そして減税もなく、来年には消費税の引き上げがある。「牽引車がないのでは」という懸念。今月28日のG−7ではこの問題が取り上げられる見通し。
一方のドイツの景気も怪しい。一時の楽観論は徐々に影を潜めている。通貨供給量の伸びは鈍化してきたし、物価上昇圧力も弱まっている。生産も一進一退。欧州の抱える問題は、ドイツよりもフランスなどに見える。
各国の通貨当局者が「ドル高を歓迎」する旨の発言を繰り返しているのは、こうした「景況格差」がありそうです。ルービンは今週も、「ドル高は米の利益」と述べ、「為替相場は経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の反映で、米経済のファンダメンタルズは非常に良好だ」と述べている。
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アメリカがこれだけ上昇してきたドルに対しても「上げ賛成」の立場を崩さない理由については、
――などが背景にあると思われます。日本の場合はちょっと違いますが、ドル安是正が遅れているドイツの場合は、国内景気のためにもマルク高修正を求める意向は強いでしょう。こうした全体的環境から考えれば、ドルはゆっくりと、多少の波動を経験しながらも、徐々に上値を追っていくものと考えられます。
《 weak inflation pressure 》
昨日発表になった米8月の卸売物価は、引き続き同国での物価上昇圧力が弱いことを示しました。全体の上昇幅は0.3%で、5ヶ月ぶりの大幅な上昇だったのですが、価格変動の激しい食料とエネルギーを除けば、同月は0.1%の低下。食料品は1%の上昇、エネルギーは0.7%の上昇。
今夜発表になる消費者物価も、大幅な上昇は予想されていない。どちらかと言えば、小売売上高の方が注目されるでしょう。
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イラク情勢が再びきな臭くなってきて、ニューヨークの原油市場ではブレントが24.06ドルと水曜日の23.82ドルを上回って、1991年の湾岸戦争のさなか以来の高値を記録。
アメリカ軍の新たな対イラク軍事行動はいつあってもおかしくない状況ですが、国連内でもアメリカの単独対イラク軍事行動には批判が高まっている。従って、振り上げた手をおろした段階、つまりステルスを使った攻撃のあとでは、軍事行動は沈静化すると予想されます。従って、現在以上に原油相場が上昇することはあまり予想できません。間違って紛争が長引いた場合には、ドルにとってはあまり望ましい材料とはならないでしょう。
それでは、皆様には良い連休を。天気が良いと良いのですが。