住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  

第1308号 1996年09月27日(金)

Greenspan look pretty smart 》 

 今朝読んだニュースの中で、一番面白いと思った表現は以下のものです。

 「"These numbers make Chairman Greenspan look pretty smart," said economist Maury Harris of PaineWebber Inc. in New York, speaking of Fed Chairman Alan Greenspan. "All the data is telling the same story: The economy is slowing down."

 FOMCまでは喧々囂々の議論がありました。しかし、「据え置き」と決まった後はあの議論が嘘のように静かになって、「出てくる数字」がどうなるかに関心が集まっていた。そこに出てきたのが、
these numbers」と表現されている二つの数字です。

1.耐久財受注=8月は3.1%の減少(エコノミストの予想は0.1%減)

2.新規失業保険申請者数=先週は1万1000人増加して34万人に

 この二つの数字を受けて「景気は今後鈍化」の見通しからニューヨーク市場では債券が価格上昇し、株は企業業績への懸念から下げました。確かに、FOMCの「据え置き決定」の直後に強い数字が続出したら、「やはりあの決定は間違っていたのでは」という議論が出ていたでしょうから、こうした弱い数字を受けて、今週末はグリーンスパンはゆっくりテニスでもして、安眠できそうです。直後の数字は大事。

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 短期的な議論は別として、結局は通常より長時間かかったFOMCでの議論(多分激しい)の結末は、

  1. 実際のインフレは生じていない
  2. 賃金、原材料などの価格上昇圧力が最終製品価格に反映しない経済環境下では、「利上げ」は待つべきだ
  3. 景気は鈍化している

 ――というグリーンスパン・グループの見方がプリベイルしたと見るのが妥当です。 むろん、「過去の経験から見て、インフレ圧力は高まっている」との議論は地方連銀サイドからかなり出たと見るのが妥当です。しかし、FOMCとしてはこの議論を取らなかった。そして、今週出た数少ない数字は「据え置き」決定をタイミング良くサポートしたという構図。

"quite good shape"

 実はFOMCの前後に「アメリカは利上げすべきだ」という議論がIMFから出ていました。IMFはこう言っている。

 「"There is not evidence of serious overheating," said IMF chief economist Michael Mussa in reference to the U.S. economy. "But it would be our judgment that some firming of monetary conditions would be prudent in present circumstances."

 明らかに「小幅な利上げ」を要請している。これに対してのルービン米財務長官の反応は

 「 Treasury Secretary Robert Rubin said fundamentals are in "quite good shape" and that there is no concrete evidence that inflation is on the rise. He dismissed the IMF's suggestion and said recent developments in long-term interest rates have "worked the way you would want the system to work."

 というものでした。つまり、実際にインフレ圧力があるのなら、「据え置き」決定で長期金利は上昇したかも知れないのに、木曜日の午後までに6.80%まで指標30年債金利が下がったのは「市場も現在のアメリカ経済が直面している物価情勢をそのように理解しているからだ」と言っているわけです。彼は抜かりなく、「実際にインフレが高進しているはっきりした証拠はない」とも述べている。「据え置き」を決めたFOMCの言いたいことを代弁しているとも思える。

 それにしても、さまざまな議論が展開されている割には、ルービンが言うようにアメリカ経済は "quite good shape" という表現を使うにふさわしい状況を示しています。株は下がったと言っても史上最高値圏であることに変わりはなく、長期金利は再び下げモードになり、雇用は増え、生産は順調で、消費も強い。最近出たベージュ・ブックもそうしたアメリカ経済の姿を映しだしている。アキレス腱は、対外収支でしょうか。

respectable growth

 しかし、日本にいる我々がこの国で感じている景気足踏み感覚は、世界経済全体から見るとむしろ例外のようです。週末に開かれるIMF・世銀総会を前に発表されたIMFの世界経済見通しは極めて強い。

 IMFは次のように指摘している。

  1. 世界経済は90年代でもっとも強い成長を記録しつつある、来年の同様の強い成長を脅かすものは現在見あたらない
  2. 先進国の経済成長はrespectableなものになり、開発途上国の成長は先進国の2倍に達するだろう
  3. 開発途上国の中でも新興工業国の成長率は著しく高まり、こうした諸国は構造改革の恩恵を受けることになるだろう
  4. こうした環境の中で、連邦準備制度理事会は利上げを実施すべきである
  5. 世界経済は全体で今年は3.8%、来年は4.1%成長しよう。これはともに1988年の4.7%成長以来の高い成長である
  6. 開発途上国の成長率は6.3%に達し、先進国の2.3%の倍以上になる
  7. 地域別では、アジアが8%、中南米が3.0%の成長率になる
  8. 国別では、アメリカは今年が2.4%、来年が2.3%、日本は今年が3.5%と先進国の中では一番速い回復に、来年は2.7%になる。ドイツは今年が1.3%、来年が2.4%になるだろう

 

 IMFは日本に関して、「景気回復をきちんと達成した」と評価。ただし、金融政策は「不良債権問題もあり、当分は緩和政策が適切」と指摘している。IMFが一番懸念を持っているのは、欧州経済のようである。

 こうした楽観的な見通しは、おそらく当たっているのでしょう。また、IMFがインフレの見通しに例えばFEDなどより深刻になっているのは、新興工業国の直面しているインフレ圧力の強さを知っているからかもしれない。

dollar-supportive

 今週ワシントンで開かれる一連の通貨会議は、おそらくdollar-supportiveなものになるでしょう。ルービンは昨日も強いドルへの支持を表明。「強いドルはアメリカの利益にかなう。アメリカはドルを通商政策の道具には使わない」と言明。

 このニュースでは既に何回も指摘していますが、現在の日米独のドルに対するstandingは「強さの維持」で一致している。昨日スイス国立銀行は利下げを実施して市場を驚かしましたが、これはドイツを含めてヨーロッパの景気が我々が思っている以上に弱いことを示し、「打ち止め」とも言われたドイツにも再利下げの可能性があることを示唆しました。

 こうした中では、ヨーロッパ各国は強いドルを望みます。ドイツの通貨当局者も繰り返しその旨を表明している。アメリカ国内で輸出業者が強いドルに不満を述べているのは周知の事実です。しかし、アメリカの通貨に関する立場は、70年代、80年代の「輸出業者のそれ」ではもうなくなっていると考えるのが妥当です。強いドルは物価を抑制し、国民の購買力を高め、経済の健全性を保つ。

 日本のマスコミは、「クライスラーの会長がこういった」と大きく取り上げますが、最近アメリカの新聞が同国自動車産業の通貨に関する悲鳴を真剣に取り上げているのを見たことはありません。日本のニュースは、「記憶」を引きずっている面が強い。アメリカの自動車産業の幹部が通貨に対して何か言ったら朝刊経済面の3段は必要、といった。しかし、time is changingです。

 日本の低金利持続、対外収支の不均衡是正のプロセスの中で、ドル高は波乱局面を含みながら、徐々に進むとみたい。

have a nice week

 二度連続の週末3連休も終わって、今週は、残念「2日」しか週末がない。今週もいろいろありましたね。伊達選手の引退もあったし、オリックスの優勝もあった。巨人も優勝に接近し、ドジャーズも地区優勝に大手。

 昨日は当社のある会合に長谷川慶太郎さんに来ていただいて講演してもらったのですが、本当にあの方は良く調べている。演題は「中国」。ケ小平後というか、来年の香港返還後の中国情勢を取り上げていただきましたが、我々の常識を打ち破る話が続出した。かいつまんだ話を機会があったら
Cyberdiaryで取り上げましょう。

 今週は台風もなく、穏やかな週末になりそうです。今朝は結構涼しかった。日没も早くなりました。

 皆様には良い週末を。                      
                                  <ycaster@gol.com>