住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  

第1309号 1996年09月30日(月)

G-7 welcomed higher dollar  

 週末ワシントンで開かれた先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議は、予想通り為替市場に関してドル高傾向を歓迎する議長声明を発表して終了しました。「最近の市場の動向を歓迎する」というのがその文言。

 先進各国が「現在の市場の動き」を歓迎する理由は既に何回もこのニュースでは取り上げています。問題は「ここ当面」の後ですが、一つある議論としては「大統領選挙後は円高」という説がある。しかし、筆者はこの意見には賛成できません。選挙後も一時的にドル安になっても、基調はドル高が続くと見ます。

 「米大統領選挙のあとは円高になる」と見る向きの根拠は

  1. 選挙まではクリントン政権はニューヨークの金融市場の安定が欲しいが、その後は市場の安定は優先度が落ちる
  2. ドル高が進めば、米政権としても産業界の懸念に配慮せざるを得なくなる
  3. アメリカの対外収支の改善が遅れている

 など。

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 これに対して、筆者が米大統領選挙後もドルの堅調地合が続くとみるポイントの一つは、そもそも米政府は「対外購買力向上で国民生活を豊かにし、輸入物価を押さえ、金融市場を安定させる」というドル高の効用に気づいた故に、政策転換したとみます。従って「選挙まで」というのは当たらず、クリントン政権として「ドルの堅調維持」を選挙後も続けると見ます。最近の通貨に関するルービン財務長官の発言を聞いていると、この「国民生活とドル」という観点が強く前面に出ている。今後のアメリカ経済は引き続きインフレ圧力を横目に見ながらの展開になるでしょうが、とするとドルがこうした中で弱くなるのは、米経済全体にとって極めて危険です。

 対外収支の不均衡については、アメリカは輸出振興と海外市場の開放を前面に押し出すでしょう。為替はツールとしては使わないでしょうし、米政府高官も繰り返しその旨を表明している。

Europe needs weak currencies

 アメリカ以外を考えてみると、例えばヨーロッパでは今の時点で「ドル安」を許容する余地などない。アメリカもそれを考慮せざるを得ないだろう、とも思います。ティートマイヤー・ドイツ連銀総裁の発言を見ても明らかなのですが、今のヨーロッパ経済は自国通貨安が景気維持の為にも是非欲しい状況。これは、米大統領選挙が終わろうと終わるまいと関係ない。今の世界経済を見ると、弱い環は日本とヨーロッパです。アメリカもこうした状況に配慮せざるを得ないと考えます。

 貿易、資本の流れを見ても、日本の対米黒字減少は今後も続くし、日米金利差もそれほど大きく縮小するとは私は見ていません。確かにアメリカのインフレ懸念が弱まれば、金利差縮小の可能性もありますが、何よりも重要なのは日本の市場で例えば年金資金などある水準の利回りを達成することを義務付けられている資金の行く市場がないということです。株が少し明るさを増してきましたが、機関投資家が一斉に株投資をするとも考えられない。

 日本で資金を預けた人が、まずは満足できる利回りを国内で上げられるようになるには、相当に時間がかかると思っています。従って、時間の経過と共に、日本の低金利が続く限りは、いずれ資本は外に流出すると見ます。

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 「選挙後は95〜105円が誘導目標相場のレンジになる」との予想もありますが、私はアメリカの誘導目標はもしあるとすれば現時点では100〜110円であって、ベンツェン・シーリングと言われる113円を越えての円安も、それが経済のファンダメンタルズで許容されるもので有れば、問題視しないし、相場は今年の末から来年にかけて115円をトライする局面もあると見ます。米大統領選挙は11月5日ですが、もし「選挙後は円高」という見方が強いとしたなら、「先取り」が原則の市場はそろそろ「選挙後」を先取りする時期に差し掛かっているような気がする。そういう意味では、G-7を受けた今週の市場の動きは注目です。

 もし私が日本や欧州の通貨当局者だったら、『アメリカさんよ、選挙後には突然「ドル安が望ましい」などと言わんでしょうな』と言質を取ろうとすると思います。先週末のG-7で。なぜなら、欧州経済にも日本経済にも、今の時点での「ドル安」は最大の景気刺激効果の剥奪を意味しますから、つらいし、アメリカとしても最大の輸出先の二つの市場がこけるのを自らの利益と見なすことはないと思うからです。

election and markets

 久しぶりの衆議院選挙と市場の関係については、「あまり関係ないのでは」という見方が強いようです。確かに、政策より「組み合わせ」が話題になるような選挙では、市場への直接的なインパクトはないかもしれない。しかし、今回の選挙はいよいよ閉塞感が強まってきた日本の状況を従来よりは少し速く変化させるきっかけになる可能性があると思っています。変化がスピードを増せば、「閉塞感」からの抜け道が見えてくる可能性がある。「閉塞感からの抜け道」が見えてくれば、株式市場は活発化し、債券相場には売り圧力がかかり、円高圧力がかかる可能性があります。

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 ただし、今回の選挙でどの程度先まで見えてくるかは、まだこれからの問題です。選挙がどのような結果になるか、そこから生まれてきた政権が何を目指すかはよく観察しなければならないと思います。比例区を見ると、激戦区がいっぱいある。思わぬ人が落選し、政治地図が大きく変わる可能性もあります。一つ言えるのは、「閉塞感」が強まれば強まるほど、そこから脱するための力も強くなるというパラドックスです。

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 今週は、指標としてはやはり週末の雇用統計が大きい。市場はある意味で非常に近視眼的ですから、先週もそうですが一つ一つの指標に一喜一憂する動きを示すでしょう。次のFOMC(11月13日、米大統領選挙は11月5日)は随分先で、間にもう一回「雇用統計(11月初めに発表される10月分)」の発表があるにもかかわらずです。

 雇用統計以外では、10月1日に9月の全米購買部協会(NAPM)景気指数が発表される。日本関係では、30日に鉱工業生産(8月)、10月1日に失業率・有効求人倍率(8月)など。

Have a nice week

 今週は新しい期を迎える週。今日が期末。明日からは新しい期。来期も宜しくお願いします。難しい期になりそうですが。テレビも新しい番組がいろいろ出てきている。週末は穏やかでしたが、まわまた台風が接近中とか。前回の台風は関東地方を直撃してすごかった。今度の二つの台風は直撃は避けられそうです。沖縄の方々は大変だったと思いますが。

 一年続いていた「東京マーケット・フォーカス」(テレビ東京系、日曜午前9時から)の私の担当も、昨日で終わり。このニュースでも何回も取り上げてきましたが、まずはご報告。寂しい反面、ほっとした気持ちが強い。もともと「半年」の予定でしたが、一年続いた。毎週末、一日を取られるのはちょっとつらかった。

 しかし、得たものも多かった。大勢のゲストに来ていただきましたが、皆さん素晴らしい方々でした。人間の幅が広がったような気がする。話が面白くなかったとしたら、私の聴き方が悪かったからでしょう。いろいろ勉強になりました。一回でも見ていただけた方、私のインターネットのホームページやNiftyserveの金融プロフェッショナル・フォーラム(FKINYU)で「収録後記」をお読みなった方。Many Many tks。あとは、三原淳雄さんが担当されます。

 それでは、皆様には良い一週間をお過ごし下さい。                      
                                  <ycaster@gol.com>