住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  

第1313号 1996年10月14日(月)

New York mart regains its strength 》 

 ニューヨークの金融市場は、9月の米卸売物価が予想を下回る上昇率になったことから、再び勢いを取り戻して終わりました。株はダウで50ドル近く上昇し、再び6000ドルに接近。債券(指標30年債)の利回りは、木曜日の引けの6.88%から6.84%に低下した。「予想を下回る上昇率」とは、0.2%。8月が0.3%ですから、市場のインフレ再燃懸念を振り払うのに十分でした。今後の注目点は、今週の水曜日に発表される9月の消費者物価。

 一方、もう一つの注目された指標である小売売上高は、予想を上回る0.7%の増加。市場はこれらの数字から、「低インフレ・安定的ながら鈍化しつつある成長」との理想的なシナリオを再び思い描いた。株、債券の上昇を見て、ドルも上昇しました。円は111円台の後半での引け。マルクも再び1.53ドル台に。

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 米経済の先行きについても、楽観的な見方が強いようです。先週発表されたミシガン大学の消費者景気信頼感でも、消費者の景気先行きに対する見方は強い。市場が今関心を集めているのは、今年のクリスマス商戦の行方です。これが予想外に強く出れば、再び景気過熱感が出て債券相場に負担になると思われている。

 実は、今年の米クリスマス商戦は好調になると見られているのですが、その一つの理由は、

 「One reason is that there are only 26 days between Thanksgiving and Christmas, compared with 31 days last year. That compression, he said,"should provide more urgency for the consumer to buy and, at the same time, will result in less variable cost to retailers."

 

 ということにあるようです。つまり、今年のクリスマス商戦の期間は26日と昨年より5日も短く、その分、消費者の消費意欲は盛り上がる...という見方。ただし消費者の借金がかさんでいるという統計もある。アメリカのGDPの6割以上は個人消費ですから、今後のアメリカの景況を占う大きな鍵は個人のお金の使い方にかかっている。その意味で、9月の小売売上高が予想より強かったのは、今後を指し示している可能性があります。

 あと、先週の外国為替市場で目立ったのは英ポンド高。対ドルで、1.58ドルに接近してきており、ポンドは他の各国通貨に対しても強い。金利上昇見通しと、近く予想される選挙での労働党勝利の見方が背景。

voters are turning out

 ところで、次の指導者を決める選挙が行われているという点では日本もアメリカも同じですが、アメリカの大統領選挙は「戦い」という意味では日本のそれよりもひどい状況にあるようです。金曜日のインターナショナル・ヘラルド・トリビューンの一面トップ記事によれば、今回の大統領選挙については国民もマスコミも白けきっているようです。

 色々面白い統計が掲載されていた

  1. 世論調査の対象になった国民のうち、「今年の選挙を注目している」と答えたのはわずかに24%で、これは92年の選挙の42%を大幅に下回っている

  2. 調査の対象になった国民のうち、10人に4人は「ドールの副大統領候補」が誰だか知らない

  3. 92年に比べて3大ネットワークの大統領選カバーは40%減少(先月)、また選挙がワシントン・ポストのトップ記事になる割合は5割減となっている

  4. 雑誌も、「誰も読まない」という理由から大統領選挙に関する記事は避けて、不倫やダイエット・ピル、整形美容に関する記事をトップに持ってきている

 などと書いている。雑誌タイムのウォルター・アイザックソン氏は、

 「People are not connecting with this election.The story of this election is why people aren't connecting.

 と指摘。「connect」というのは、「自分の生活や主義主張とからめて考える」という意味ですから、大統領選挙が「てんで他人事」になっているということでしょう。

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 「てんで他人事」というのには、二つ意味があります。「もう当選はクリントンに決まっている」「自分の投票の価値はない」というものと、もう一つは「(今回はたまたまクリントン・ドールの戦いだが)所詮誰がなっても関係ない」という二つ。日本の選挙民には後者の考え方が強いのかも知れない。しかし、まだ日本の選挙の方が盛り上がっている印象がする。

 なぜ大統領選に関する米国民、マスコミの感心が薄れたかについては、次の文章がなによりも明確に理由を示しています。

 「With Clinton leading comfortably from the starting gun, reporters have
lacked a compelling story line. The first presidential debate was widely
considered a tepid affair. Indeed, the most dramatic event of recent
weeks has probably been Dole falling off a California stage.
"Horse-race coverage of this race has become so irrelevant that nobody's
reading it," Isaacson says. "There are no grand ideological fights --
civil rights, the Cold War, Vietnam. The economy is basically good. It's
not been a race of titanic personalities, of Teddy White `Making of the
President 1960' drama."

 「イデオロギーの争いなし」「社会問題なし」「冷戦なし」「ベトナム戦争なし」「経済は良く」「二人の候補者の個性が強くぶつかるという事もない」という状況では、確かに盛り上がらない。もっとも「大統領選挙だから、盛り上がらねばならない」ということもないのですが、マスコミはある意味で「緊張感」を売り物にする商売ですから、物足りないのでしょう。

 選挙に緊張感がないということは、その結果が市場に及ぼす影響も小さいと言うことを意味します。選挙を経て何かが劇的に変わるとしたら、もっと市場も関心を持つでしょう。しかし、「大統領選挙」は為替市場でも債券市場でもほとんど話題になっていない。ドル・円の見方については、「選挙後のドル安」という見方があることはこのニュースでも紹介しました。

 しかし、既に指摘しているとおり急激な円安で日本の黒字が増加の兆しを示さなければ、アメリカが劇的にそのスタンスを変えるとは予想できない。今の予想では、新しいクリントン政権下でもルービンが財務長官の職を維持すると見られている。ゆっくりしたドル高は続くと見ています。為替の観点からは、今週の金曜日に発表される米8月の貿易収支が注目です。

 債券相場についても、大統領選挙とはほとんど関連がないと見られている。選挙を見るより、経済の基本的な動きに目を凝らしていた方がよさそうです。

have a nice week

 天気予報はあまり良くなかったようですが、結果的にはなかなか天気に恵まれた週末でした。いかがでしたか。「食欲の秋」とよく言いますが、日曜日夜に食事の為に外に出ましたら、どのレストランも混んでいました。高円寺の周辺の話ですが。特に安さを売り物にする焼き肉屋の前には黒山の人だかり。街に「食欲」を感じました。今週末は日本シリーズでまたあの時間帯の人の数は減るかも知れませんが。誰か言ってましたっけ。中日・巨人の時の東京のサウナはどこも空いていたと。今週末は、ドームで雨も関係ないし、その再現になるかも。
 確かに夏よりも、秋の方が食事はうまい。Enjoy the season

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 今日は新聞休刊日。よく休みますね。選挙の最中だというのに。新聞は横並びを批判するくせに、自分たちは横にならって休む。一つの販売店にいくつかの新聞が同居していて、「販売員を休ませるためには一緒でなければ」という物理的な配達の問題がネックになっているのでしょうが、そういう理由もこれからは徐々に通じなくなっているように思います。

 というわけで、今朝の日本の各紙のインターネット上のホームページを朝7時半ごろ見てみましたら、例えばasahi.com(朝日新聞)は最終更新時間が「14at 00:28」となっている。中身を見ても、13日のニュースはかなりこまめに。日経の最終更新日時は13日の午後7時。これはちょっと手抜き。凄かったのは毎日新聞で、午前7時30分にアクセスしたら、最終更新時間が午前7時20分になっていた。本社では、配達がなくてもいろいろやっているようです。消費者も、「新聞と言えば紙」というのをそろそろ変えなくてはならないかもしれない。むろん「紙」には、携帯性と一覧性という優れた機能がありますが。

 新聞と言えば今朝のニュースに、私もよく引用するインターナショナル・ヘラルド・トリビューンが「本社をフランスからアメリカに移すことを真剣に検討している」というのがありました。理由は、「フランスのコスト高」。同紙の湾岸戦争前の発行部数は20万部だったのですが、現在は19万部。経営が苦しくなってコストに目をやったらフランスという国自体の「コスト高」に目が行った、という事でしょう。

 この新聞は、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストがパリで1887年以来発行しているというインターナショナル・フレーバーが売りだったのに、もし本社をアメリカに移してしまったら、どう変わるんでしょうか。

 それでは皆様には良い一週間をお過ごし下さい。
                       
                                  <ycaster@gol.com>