住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  

第1315号 1996年10月21日(月)

lowest voting rate after the war

 新党に風も吹かず、投票率が戦後最低(59%強)になった衆議院議員選挙は、現在の状況下で政治家、または政党が国民に対して示しうる「選択肢の限界」と、逆に政治に期待しても「大した結果の違い」は生まれてこないという「投票者サイドの判断の結果」を示すものだったと思われます。政党は「選択肢」を数少ない点では示していました。3%の消費税を上げるか、しばらく継続するかなど。しかし、着地点はそれほど違ったわけではない。

 一番候補者が口を揃えた「行政改革」など、どうみても「言葉が踊っている」印象が強かった。言葉の上では「選択肢」があるように示した問題も、では彼らが実際に集団で今後どうするのだろうかと考えたとき、投票者としては「大した結果の違い」を予測できなかったという事でしょう。それだったら「選ぶ」必要もなかったと言える。国民全員が政治に熱を上げた時代が、必ずしも幸せだったわけでもない。

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 選挙後の各党党首とテレビの解説者のやり取りを聞いて、お互いが繰り出す言葉と意識の齟齬に驚かされたのも、今回の選挙の特徴でした。マスコミ・サイドは、「責任」と「その後の組み合わせ」にだけ関心を絞り、繰り返し聞くものだからさすがに政治家に笑い返される。一方の政治家は、結果を受けて「どうする」という点になると話をはぐらかす。聞いていて「言葉や問題意識が通じていない」と思いました。日頃政治家と接触している筈のマスコミの人達が政治家との言葉を通じることが出来ないとしたら、国民はもっと政治家の言葉の意味を聞き取れなかった筈です。

 『「大した結果の違い」は生まれてこないという「投票者サイドの判断」』を、「国民は白けている。けしからん」と言うマスコミや評論家が今後出てきたとしたら、それは「不遜」というものでしょう。国民は結局自分の身の回りの事象を動かしているのは、「日本の政治」なんぞでなくもっと違うものだという結論の下に、投票率を戦後最低に落としたのかも知れない。例えば、来春卒業を控えながら就職が決まらずにいる学生が、「今日は一日タイプやコンピューターやその他もっと実務の勉強をしよう」と判断して投票に行かなかったとしたら、それを責められる政治家がいるでしょうか。よほど「結果の違い」に自信のある政治家だけです。

 総じて言えるのは、国民が選んだ選択は、この国の変化のスピードを速くもなく、遅くもなく「マーケットの力にまかせる」「それしかない」というものだった気がします。なにせ「どこに行こうか」という着地点に関する大きな合意がないわけだから、「なにも急いでも」と国民が判断しても仕方がない。でも国民は現状では満足していないように見えるということは、「ゆっくりした形で合意形成されながら進む変化」「時代の流れの中で負荷されてくる変化の受容」を選択したと言えそうです。「先取り」しようとはしなかったという事でしょう。むろん、これは今後出来る政治権力の選択にかかってくることです。実際には、社会や経済の運行の元となっている諸制度をつくっている源は国単位の憲法や法律であり、その法律を作り、変更し、廃止する権限を持つ立法府は極めて重要な位置にあるのですが。

 選挙が終わった以上、マスコミ的な関心から言えば、誰が誰と組んで、いつどんな政府ができ、市場の圧力でいずれ加速せざるを得ない日本の変化のスピードにその政府がどのような色合いを与えていくのかを見守るということになりそうです。一つ言えるのは、「変化」への圧力(市場の)は強くなっていて、それを自分の味方に付けようという勢力は選挙前より多くなるだろうと言うことです。その意味では、政治家誰もが「変革」を語った効果は出てきそうだという感触がある。

impact on the markets

 ところで、この総選挙の狭い意味でのマーケット(株、債券、通貨など)に与える影響はどうでしょうか。選挙前に一番言われていたことは、そのレーガノミックス的な政策による新進党勝利の場合の債券相場の崩れや、選挙後の予算面での景気刺激措置の発動のタイミングが株式市場に与える影響くらいでしょうか。しかし、これも自民党が最終で239議席(単純過半数=251)しか取れなかったことで、「政権の枠組み」が今後問題になってくる。ただし、新進党が勝利しなかったことで、選挙直後からの債券相場の崩れはないと考えます。株は、ニューヨーク高という応援部隊がいますから、必ずしも選挙結果だけで動くかどうかは不明です。

 ドルについては、海外では「自民党の勝利は若干の円高要因」との見方もあるようです。昨夜遅くに見たウォール・ストリート・ジャーナル(interactive版)には、 MOLLY SCHUETZ記者の署名で、

The dollar may slip some against the yen, however,
after weekend elections in Japan awarded the
ruling Liberal Democratic Party a true majority in
the powerful lower house of Parliament, putting an
end to the present coalition, which the LDP
dominated anyway.

The yen should appreciate against the dollar with
the reinstatement of Ryutaro Hashimoto as Japan's
prime minister, says Michael O'Hanlon, managing
director and chief international economist at
PaineWebber International in London. Mr. Hashimoto
and his LDP are expected to "forge ahead with a
supplementary budget and fiscal stimulus package
by the end of year, and that would help the
economy," which is positive for the yen, Mr.
O'Hanlon said.

 

 という文章がある。選挙の結果についてちょっと思い違いもあるようです。ただしドルの基調としての強さが残るだろうと想像されるのは、ロシア情勢の不安定です。

Russian situation

 レベジ解任後のロシアの政治情勢は少なくともエリツィン大統領が心臓のバイパス手術を終えて、健康を回復できるまで不安感を抱えたものになるでしょう。もっとも今の情勢だと、エリツィン大統領が手術を乗り切ったとしても、以前の政治力を回復するのは難しそう。「次」を目指した権力闘争は当分続きそうです。ドイツがロシアに対して持っている実際的リスクは考えられているほど大きくはないと見られていますが、市場には「ロシア不安→マルク売り」という連想が残っており、またアメリカの資産市場があれだけ強いと、マルク売りの圧力は出てきそう。ドイツの通貨当局は、それが秩序あるものである限り、一層のマルク安を許容すると見られている。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事として紹介した文章には、マルク安・ドル高のターゲットとして「1ドル=1.6000マルク」という数字が出ていた。

 マルクに関しては、今週は木曜日に連銀の理事会がある。少数派ですが、レポ・レートの引き下げを見込む向きもある。市場は関心を払うでしょう。

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 先週の市場をちょっと振り返っておくと、ニューヨーク市場では、株とドルが再び上昇した。株はダウで35.03ドル上昇して6094.23ドルと、6100ドルに接近。SP500種も3.83ドル上昇して、710.82ドル。一部株式のオプションの期限もあったのですが、出来高も4億6000万株を越えていたように思います。ただし、債券はやや利食いが入って、指標30年債の利回りは木曜日の引けに比べて、若干上昇した。ドルは、全般に強かった。

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 今週はあまり大きな指標の発表はない。一番大きな指標は金曜日に発表になる米9月の耐久財受注か。2.0%の増加が予想されている。前月は3.2%の減少だった。あと、通貨当局者のスピーチがいくつか予定されている。月曜日にはニューヨーク連銀のマクドナー総裁のそれが、火曜日にはマクティア・ダラス連銀総裁のスピーチが。

 日本では22日まで日銀の支店長会議が行われ、その22日には日本の景気先行指数、景気一致指数が発表になる。松下日銀総裁の記者会見は23日で、先に指摘した通り24日にはドイツ連銀の理事会がある。

have a nice week

 今朝は寒いですね。外を見ると凄い良い天気。秋晴れ。秋本番という雰囲気です。今朝を「秋晴れ」の気分で迎えられた人と、そうでない人と。政界の中にもいらっしゃるでしょう。私が個人的に比較的良く知っている衆院議員3人のうち、二人は落ち、一人は当選しました。

 しかしよくよく考えてみると、歴史的に見れば今回の選挙は「社会党が事実上消えた」ということで総括されそうな選挙だったと思います。どこかの党が「(自分ところ以外は)all与党」と言っていましたが、確かに上位三党である自民、新進、民主の政策的差異、特に国際政治面での違いはかなり小さい。党の根っこはほぼ同じです。昔の「自民―社会」の時代からはかなりの変化。そもそも、政治の選択の余地は良い悪いの問題は別として狭まっていると考えられる。アメリカの選挙を見ても、大きな争点はない。イデオロギーが消えた影響でしょう。それ自体は、時代の流れです。

 選挙の投票率が低かったからと言って、国民が政治に対する発言権を失ったわけではない。コンピューターを利用した通信が発達した世界では、従来のマスコミという経路を経ないで、強い世論が形成され、広まることもある。「経路多様化の時代」です。また、日本の政治は今まで以上に世界にさらされることになるでしょう。変わっていないようで、日本の政治も振り返ると大きく変わっている。今後どうなるのか。

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 昨日はプロ野球を見たり、選挙速報を見たりの人が多かったのではないでしょうか。今朝テレビにライブで出ている政治家の連中は、「さきがけ」の井出さん以外は、昨夜とはがらっと違っている。昨夜頑張った連中は皆寝ている(?)のでしょうか。巨人の選手も疲れて寝ている。「メーク・ドラマ」の主人公にされて、ちょっと疲れが残っているみたいですね。

 それでは、皆さんには良い一週間をお過ごし下さい。                                   <ycaster@gol.com>