住信為替ニュース
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第1316号 1996年10月25日(金)

marts are disappointed with the results of the election

 衆議院議員選挙後のこの一週間の市場は、いくつものメッセージを残しました。現象的に出てきたのは、次の三つの傾向です

  1. 円金利の大幅な低下
  2. 日本の株式市場の不振
  3. 円相場の軟調

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 円金利の低下は大幅なものでした。債券相場は選挙後の月曜日から特に長い方から下げ続け、週後半に利食いを誘うニュースなどあって一時的に上昇する局面もありましたが、下げ基調を続けました。今年何回も出ては消えた「公定歩合引き上げ論」など今から振り返れば苦笑せざるをえないほどの景気先行き不透明感の中で、金利は下げ続けたと言える。

 この日本における金利低下は、明らかに「選挙の結果」に影響されたと言えます。今週になってそれは明らかになったことですが、選挙前の市場は一般に考えられている以上に二つの可能性をかなり念頭に置いていたことになる。一つは、新進党が議席を伸ばし、彼らがいう「消費税の据え置きと5つの契約」が実行されて国債の需給が悪化する危険性、もう一つはどこが勝とうと選挙後の「改革のペース」が今までよりは速くなり、それが景気の回復のきっかけになる可能性。

 しかし選挙後に明らかになったのは、「選挙民は政治家がリーダーシップを取る改革」ができる環境を与えなかいということでした。どこの政党にも過半数を与えず、政治のトーンを変えようと言う意志も示さなかったからです。新進党も勝てなかったばかりか、選挙後は指導部の中でみっともないごたごたを繰り返している。そしてその中で、自民党は他の旧連立与党が軒並み勢力を落とす中で、政権の枠組み作りにさえ苦労している。「勝った」と言っても、むしろ選挙の前より孤立感を深めているように見える。

 個々の政治家が理想を語っても、集団としての「政治」が何を出来るかについては、むしろ選挙前より混迷と失望が深まったと言えるような状況。市場がうした状況を、またそうした状況を生んだ国民の選択に失望したとしても無理はない。そしてそれが市場での反応として呼び込んだのは円金利の大幅低下でした。景気回復はかなり先になる、というメッセージであり、それはむしろ選挙前より日本経済、日本企業の「閉塞感」が一時的にも強まった結果であると言える。石油価格の上昇など外部要因があったにもかかわらず円金利に低下圧力が継続的にかかった現実は、経済自体の回復力、全体としての日本企業の回復力に対する自信が再び大きく揺らいでいる証拠と言えそうです。

stock mark under pressure

 孤立感を深めたのは、株式市場も同じでした。もはや日本の株式市場は「金利水準との間で見られる取引関係」を失ったかのように見えた。全体的に金利水準が一段と低下する中での日本の株式相場の4日連続の下げ。これは、金利の水準と株価が完全に乖離したことを示しています。

 株価が何を見ているかについては色々な見方があるでしょうが、やはり経済と企業の活力の源を「将来に対する一つ大きな指標」として見ていると思われます。その「活力」が選挙の結果からも、選挙後の政界の動きからも読みとれないと言うのが株式市場からのメッセージでしょう。

 実際には、個々の日本企業は国際的競争に晒されていればいるほど、「日本」という国民経済の枠組みを越えて活動する気概を深めていますから、個々の企業には活力にあふれるところもあるし、それが日本経済を支えているのですが、やはりそこは企業活動のベースになっている日本というシステムから応援が欲しい。企業立地から見たインフラストラクチャーは、日本は依然として他のアジア諸国に比べて一部では優れています。通信、安全性、契約を守る気風。しかし、高い税制、ややこしい規制、そして何をするにも割高な価格システムなど、アジア諸国に比べても劣後しているものが増えている

 選挙で日本の企業が直面している「桎梏」がとれるのは大分先になりそうだ、という見方が強まったのが株価の下げにつながっていると見ます。企業がまた活力を持って活動し、経済全体にも活力を与えるには、この「桎梏」から逃れるか、「桎梏」を変えるしかない。しかし、「逃れる」には社会的制約があり、「変える」には政治の応援がいる。しかし、今のままで行けば企業は選択をせざるを得なくなるときも来そうです。そうした状況では、株式市場は元気を出しようにも出せなかったということでしょう。

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 こうした中で強まったのは、「円の先安感」でした。債券が過熱し、株が下げる中で、日本の機関投資家は徐々に日本の多国籍化した大手企業が嫌がるところまで、円を下落せざるを得ない状況に追い込まれつつあります。物価安定の中で、実質的にはかなり高率で回っているという議論はここでは出来ません。今でも運用の世界は「名目」が極めて重要です。どの機関投資家も、80年代の利回りは論外としても5%に近い利回りが欲しいでしょう。運用に関わる各社の競争条件は厳しくなっているからです。とすると、目はどうしても海外に行く。

 それを自分たちで積極的にやっているのは、個人です。今週も日本の金利が一段と低下する中で、個人の外債投資が大量に出たと見られる。いつでもそうですが、個人のお金は、機関のお金よりbraveです。日本の機関投資家は80年代の末から90年代の初めにかけて大幅に「外物」を落としましたから、その外物の割合を一定程度に引き上げようとすれば、かなりの買いが出る。今のドル・円市場を見ると完全に「buy on the dips」になっている。これは、買い圧力が強い証拠です。ただし、市場が気にしている警戒ゾーンに接近していますから、ドル・円の上げペースは鈍くなってきていますが。

mark is higher against all major currencies

 こうした中で円が大幅に下げたのは、特にマルクに対してでした。マルクのサイドには、今週色々な通貨に対して買われる要因があった。一時の他のヨーロッパ高金利通貨に対する買いが一巡して、マルクへの買いが戻ってきているところに、

 1.起債関係や上場関係でマルク調達・円売りが大量に出た
 2.ソ連情勢や欧州の通貨統合見通しでマルク・円の売りをしていた向きが、この上昇局面で損切り的に買いを入れた
 3.日本の低金利に我慢できなくなった機関投資家が、為替面で比較的安心できるマルクに資金を入れた
 4.比較的利回りの高いマルク債への買い人気が高まった
 5.イッシング・ドイツ連銀理事の「ドイツでの金利引き下げサイクルは、終局に接近した」との発言で、同国金利の下げ止まり見通しが強まった.

など。

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 今週出てきた三つのトレンド(株安、債券高、円安)がどの程度続くかは、

  1. 日本の次期政権がどのような形で形成され、その基盤の強さはどうなるか
  2. 経済と企業への桎梏を政治がどの程度変える意志があるか
  3. 政治が動けないとしたら、「官」が出来ることをどのくらいするか

 などがポイントになるでしょう。「日本は少しずつは変わっている。しかし、遅い」という市場の認識を変えるような動きになれば、例えば株価に対する影響は好ましいモノになるでしょう。「あまり期待できない」というのが、今の市場のメッセージですが。とりあえずは次期政権の成立と、その方針待ちと言うことです。なお、ニューヨークの株は今週は昨日まで利食い先行の動きとなって、木曜日の引けはダウで 43.98ドル安の 5,992.48ドルと、6000ドルを割り込んだ。

congratulations to the Orix Blue Waves

 秋本番という感じ。今週も天気が良かった。神戸での3試合も、一つも流れなかった。まだこの良い天気は続きそうですね。

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 2年ごしの優勝。オリックスと神戸の皆さんにはおめでとうございます。昨日の試合は外にいて見れませんでしたが、抗議の中断あり、「ノーアウト、2、3塁」をしのぐ投手リレーありと見所があったようでしたね。もっとも、試合の流れは気になっていましたから、「03-3236-1100」で何度かチェックしましたが。

 ちょっと巨人の選手は疲れていたのと、戦前の「優位」報道に慢心があったでしょうか。今朝のNHKとのインタビューで仰木監督が、

 「斉藤が良くてまったく勝てそうになかった第一戦を拾った、しかも、イチローの決勝ホームランで拾ったのがシリーズの流れを作ったと思う」

 と言っていましたが、とするとセリーグでは通じた河野をあの延長の局面で投げ続けさせたのが、敗戦の原因だったかも知れない。パリーグの選手は、セリーグの選手以上に河野に慣れていた。長島監督は、今季のセリーグでの成功体験を引きずったのかもしれません。外野だから言えるのですが。来年の両チームの活躍を期待しましょう。

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 皆様には、良い週末をお過ごし下さい。                                  <ycaster@gol.com>