住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  

第1318号 1996年11月01日(金)

idling time

 今週の市場全体を表現しようとしたら、「 idling time」というのが当たっていたかもしれない。今日の雇用統計を控え、また来週火曜日の米大統領選挙を控えて、ニューヨークの株もドル相場も、上げ一服の状態。ニューヨークの株はダウで6000ドル前後をうろうろ。ドル相場は、115円の直前で上げ一服となって114円前後で上下。

 ともに今までの上げのピッチがやや速かっただけに、特に週の後半においてはスピードもポジションも「調整」に入った印象。しばらくは、神経質な動きとなりそうです。とりあえずは、本日の日本時間夜の10月の米雇用統計が注目。率は変わらずの5.2%、非農業部門就業者指数は15〜20万人と予想されている。

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 しかし、とても「idling」とも言えないような例外もありました。日本の債券相場。昨日も、現物指標銘柄も一時2.495%と、史上最低利回り(2.485%)に接近した。債券利回りが下げ続ける中での株安の進行。景気先行き不安の高まりを反映し、国内では資金の行き場が債券市場しかないことをはっきり示している。

 「株安」「円安」のダブル安の中で、良い悪いの問題は別にして、現在の債券相場の堅調は日本の金融市場全体を支えているといえる。仮に、この債券相場を崩すような要因が現れ、「トリプル安」になるような局面では、日本の金融市場は大きな危機に直面しそうですが、今のところその兆候はない。年末から来年にかけて一つ試練が来そうです。債券相場が市場を支えている現状では、日銀の金融政策は一段と難しさを増していると言えそうです。

slowing U.S. economy

 債券といえば、アメリカの債券相場も上げ基調でした。今週は経済指標が数多く発表されましたが、個々の指標は別として全体的には、

 「米経済はゆるやかに減速、インフレは兆しも見えず」

 という状況を反映したもの。GDP統計など今週これまでの指標は既に色々な報道機関によって報道されていますから重複は避け、昨日発表された統計だけに関して言えば、

 など。

 むろん選挙を控えてドール、クリントンの両陣営の見方は違う。ドールは、「リセッションは近い」「これをCLINTON RECESSION」と呼ぼう、と景気の鈍化を懸念すべきと主張。しかし、マスコミも市場もあまり彼の言葉を真剣に受け取っていない。「ELECTION TALK」と受け取っている。

 クリントン政権の見方は、むろん「望ましい減速で、インフレもない」(カンター)と経済の減速を歓迎。

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 しかし、来年の見通しになるとかなり成長率が落ち、この結果債券利回りは低下すると見る向きが出てきているようです。今朝見た予想記事の中では、 Prudential SecuritiesのストラテジストであるMichelle Colley Laughlin氏は、

 「米経済の成長率は、来年の下半期までに1.0%まで減速し、この結果、今年年末までには米長期債利回りは6.50%を下回り、来年末までには6.0%に低下する可能性が高い」

 と述べている。むろん、一つの見方に過ぎませんが、一つはっきりしているのは、景気が強いときでもインフレは高まらなかったのですから、景気が鈍化してきたらますます物価情勢は安定するだろうということです。

no rate change in FED policy

 この結果として予想できるのは、11月13日の次回連邦公開市場委員会(FOMC)では金利操作はないだろうと言うことです。「連邦準備制度理事会にとっては、もっとも良い形」(アラン・サイナイ氏)であって、前回のFOMCでのグリーンスパン議長の「様子見」が正しい作戦だったことを示している。今週発表されたGDP統計、ベージュブックなどがそれを明確に示している。

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 株が下げ、債券相場が史上最低の利回りに接近する中で、円相場は各国通貨に対して軟調に推移しています。ポンド・円など185円にまでポンド高・円安になっている。

 「円」がなぜそれほど売られるのか。ニューヨーク市場などでは、「政権の枠組みも決まらない。低金利は続きそう」というのが「説明」として出ている。しかし、実際に誰が資金を動かしているのかを見ると、既にアメリカのヘッジファンドはどちらかといえば円高反転を見ているところが多い。

 今一番外貨買い・円売りに動いているのは、日本の個人、機関投資家の資本です。例えば、今週ある証券会社の支店の前を通ったら、「今話題の外債投資....」という大きな旗がたなびいていました。まるで、国内の「超低金利」に反旗をひるがえすように、「筵旗」の形をしている。全国にあの手の筵旗が掲げられるとしたら、これは一種のブームと言える。良い悪いの問題は別として、あまりの低金利に日本の1100兆の個人資産の一部が動き始めたと言えそうです。円が売られた対価として買われている通貨はドルに限らずマルクなどもそうです。あとオーストラリア・ドル、カナダ・ドル、ニュージーランド・ドルなど。

 昨日は実はある勉強会で、今年上半期、および7−9月の各国国債市場収益率を円ベースで示した表を見たのですが、びっくりしました。予想はしていたものの、7−9月だけで見ても、オーストラリアが9.33%、カナダ、イタリアが6.9%前後。年率ではありません。年率ではこの4倍。円安と投資先債券のキャピタル・ゲインの合計で、極めて高い利回りが出ている。「外債は儲かる」という認識が、個人の間でも機関投資家の間でも広がっても不思議ではない。去年夏からの「成功体験」が、対外投資圧力を生んでいると言える。

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 日本の大手のメーカーも「もういい」(豊田・経団連会長)といい、アメリカのヘッジファンドもついてこないこの円安はどこまで続くのでしょうか。むろん、円安は日本の対外黒字の減少など多くの要因の結果ですから、一つの要因だけで語るのは無理です。しかし、資金需要もなく、魅力的な投資対象もない今の日本の資本市場を考えると、国内発の資本取引面での「円安圧力」はしばらく続くと考えるのが自然です。対外収支の黒の減少ペースが落ちてくれば、薄氷の上でスケートをしているようなところも出てくるのですが、80年代後半の外債投資の悲惨を知るものも実際には少なくなっている。生保の外債担当者なども、メンバーは一巡して、すっかり若返っている。今は、過去一年の「外債投資」の成功体験の方が、かつての失敗体験を勢いとして上回っているように見えます。重要なのは、相場の転換点が来るとしたら、それを見誤らないということです。

 

have a nice long weekend

 今日から11月です。天気は暖かかったり、寒かったり。今日の東京は雨が降っている。振り替え休日で、日本は3連休。予定がある人も多いのではないでしょうか。

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 休みで思い出しましたが、実は最近「日経金融」がどうも数字ばかり多くて面白くない、しかも会社に行けばあるのでやめて、「日経産業」はどうだろうと家で取っているのですが、この新聞で最近面白い「新商品」の提案をしている人を見つけました。

 提案者は、  「博報堂生活総合研究所の関沢英彦所長」

 提案内容は、 「金曜日や月曜日、もしかしたら水曜日を半ドンにしたり、勤務時間を変更しようではないか」

 というもの。「新製品」のコーナーに紹介されているというのが面白いでしょう。なかなか良い「新商品」。この文章、「選挙のたびに思うのだがどうして各政党はもっと余暇のことを取り上げないのだろう」で始まる。「金曜日はみんなわくわくすると言っている」「月曜日は皆憂鬱だと言っている」「水曜日は一週間で一番疲れる」。だから、そのうちの半日くらいは休みにするといいかもしれない、という提案。なかなかナイスですね。選挙でこういう提案があったら、投票率ももうちょっと上がっていたかも知れない。

 実際のところ、経済がソフト化してくると、頭の働きを一番活発に出来る勤務時間が一番良い勤務時間の筈で、肉体を物理的に会社の建物の中に閉じこめておく必要はまったくない。月、金を半ドンにするというのは、良いアイデアかも知れない。あと、「Friday Wear」も気分転換になって良いと思います。

 別に宣伝するわけでもないのですが、この「日経産業」はなかなか面白い新聞ですよ。本紙より面白いかも知れない。新聞と言えば、Asahi Evening Newsはやめました。ニューヨーク・タイムズが読めるので取っていましたが、今はネットで読める。しかもアーカイブ付きで。ネットでは一週間前の記事を読むのも簡単です。便利になりました。

 それでは、皆様には良い3連休をお過ごしください。
           <ycaster@gol.com>