住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  

第1319号 1996年11月05日(火)

《 election week 》

 今週はやはり、アメリカでの一連の選挙が一番大きなイベントです。昨日の海外市場も全体的には株や債券が多少買われ、ドルはまちまちと「(選挙待ちに)模様眺め」だった。「一連」という意味は、大統領選挙や議会選挙、それに地方選挙もある。連邦議会の選挙の対象となるのは下院議員全員(435人)と上院議員の三分の一(34人)。周知の通り大統領選挙は実質的には現職のクリントンと共和党候補のドールとの一騎打ち。この週末にかけてのドールの集中的テレビコマーシャルでの追い込みで差は接近したとは言われているものの、依然支持率の差はNY TIMES/CBSの共同調査でも10%ポイント以上あり、よほどの番狂わせがない限り、クリントン勝利と見られている。

 なぜクリントンがそれほど優位か。先週金曜日に出た数字にその一つの理由があります。米10月の失業率は5.2%。これはクリントンが大統領になる直前のアメリカの失業率(92年10月)の7.3%に比べて実に2%という大幅な低下。この間に増加した雇用は、クリントンがしばしば選挙演説で自慢しているように1130万人に達した。むろん、クリントンだけの手柄ではなくアメリカ経済のサイクルが上向きなのが大きいのですが、現役としては十分な「経済実績」です。

 加えてクリントンには「若さ」がある。GI Generation”のドール(1923年7月22日生まれ)に対して、“Baby Boomer”のクリントン(1946年8月19日生まれ)は親子ほどの差がある。アメリカでは「年齢差別」(ageism)が厳しく指弾される社会ですからあまり話題にはなりませんが、やはりこの年齢差は大きい。

 クリントンが倫理問題で様々な躓きがあっても高い支持率を保っているのは、アメリカにおけるベビーブーマー世代(アメリカでは1946年から64年までに生まれた世代を指す)の代表だからです。ベビーブーマーは、クリントンの倫理問題を非難できない。自らも同じようなことをしていて、彼を非難するのは、自らを否定することになるからだという解説を読んだことがあります。ドールが当選するとしたらレーガン(70才で当選)より高齢。これはよほど国民を引きつける力がないと難しい。

 日本のマスコミも米大統領選挙はこまめに報道するでしょうが、連休中にNY TIMESはネット上のサブスクライバーにメールを出して、「火曜日の夜は夜通し選挙結果をインターネットで報道する」と通告してきました。実は先の総選挙でも、日本の新聞社は結構真面目にネット報道を展開していました。ニューヨーク・タイムズのサイトは、http://www.nytimes.comです。ほかにhttp://www.politicsnow.com/と、ワシントン・ポストのhttp://www.washingtonpost.com/も役に立ちそう。

 大統領選挙について言えば、両者の差がどの程度になるかが注目です。

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 市場が注目しているのは、議会選挙の結果。米議会選挙は、大統領選挙ほど趨勢は明らかではありません。今朝までにインターネットの各サイトの記事などを見た感じでは、「議会は共和党が上下両院とも多数を維持するのではないか」との見方が多いようです。このうち、上院は共和党がかなり優勢と伝えられている。しかし、下院は依然共和党有利とは見られているものの、「too close to call」で「大接戦」のよし。クリントンも、最後に予定していたカリフォルニア州での自らの選挙運動を止めて、下院の応援に回った。民主党の大統領に対して、米国民は均衡上、議会を共和党に持たせる意向が強いと言われていますが、この点はどうなるでしょうか。共和党はある程度大統領選挙を諦めて「議会の指導権維持」を重点課題としていると言われる。

a market impact of the election

 大統領、議会の枠組みが現状であれば、ドルは上昇し、債券、株にも好影響があるとの見方が強い。例えば、ウォール・ストリート・ジャーナルの今週に向けての予測記事は、

NEW YORK -- The dollar is expected to rise this
week, especially if the U.S. presidential and
congressional elections Tuesday turn out as
expected.

Most analysts are convinced that President Clinton
will stay in the White House and that Congress
will still be in the hands of a Republican --
though possibly a narrower -- majority.

 と予想している。この組み合わせ、つまり「民主党の大統領・共和党の議会」は株、債券にも好ましい組み合わせと見られている。仮に、議会が民主党の手に落ちるようなことになれば、ドル、債券、株とも多少売られる局面を予想する向きが多い。「民主党→(医療問題なのでの)財政拡大主義→財政赤字拡大」という見方。しかし、民主党が議会を押さえても、国民の支持のない財政拡大主義を取ることはないとの見方もあり、そのドル、株、債券への打撃は長続きはしないだろうとも見られている。「1993年は民主党の大統領、民主党の議会の組み合わせだが、ドルは強かった」とウォール・ストリート・ジャーナルは指摘している。

 選挙以上に注目されるのは、今週水曜日にEC委員会が発表する半年おきの域内諸国景況見通しです。同じくウォール・ストリート・ジャーナルの予想ですが、ちょっと長いながら引用すると、

 The EU Commission will announce Wednesday its
semiannual economic forecasts for key EU countries
for 1997. If its estimates on growth and
deficit-to-gross domestic product ratios diverge
significantly from what some have already
reported, it could cause concern that they won't
meet Maastricht criteria to qualify for
participation in the single currency in 1999.

If the forecasts are in line, "it would be
encouraging for the Italian and Spanish markets,"
Mr. Widness said, which would weaken the mark. But
if the forecasts foster skepticism toward these
budgets, it could lead to selling of lire and
pesetas for marks, which would lift the mark
against the dollar.

 

 つまり、EC委員会が発表する来年の主要域内諸国景況見通しが、従来言われている「成長率」や「GDPに対する財政赤字の割合」についての見通しから大幅に乖離しているようだと、イタリアやスペインの統一通貨参加への見通しが暗くなってマルクに買いが入り、逆に予想通りの数字だとマルクが売られるだろうとの見通し。これは日本の新聞を見てもあまり取り上げてない。日本の市場関係者としては、忘れてはならない点でしょう。

interviewer's repeated attempts to prod him into calling for a weaker dollar.

 話は時間的に戻りますが、先週末の予想通りの雇用統計ではたいして動かなかったドルが、その後にニューヨーク市場で大きく下げたのは、ベンツェン元財務長官のロイター・テレビとのインタビュー内容でした。ベンツェン氏は以下のように述べたと伝えられる。

 "If [the dollar] continues to rise and
goes substantially above this, of course, it puts
us at a competitive disadvantage. I would prefer
not to see it increase in value" against the yen."

 つまり、「仮にドルが現在以上に大幅に上昇するなら、当然それはアメリカ(企業)を不利にする。ドルは対円では上昇しないことを望む」というもの。94年1月のベンツェン発言の再来のような印象さえ受ける内容で、knee-jerk reactionが常の為替市場は、この発言でドル売りが殺到、ドル・円は一時112円台を付けた。

 しかし、ベンツェン氏のこの発言には裏話があるようです。ベンツェン氏はこのあとAP-Dow Jones News Serviceとのインタビューでこの間の事情を、

 Elaborating on his remarks later in an interview
with the AP-Dow Jones News Service, Mr. Bentsen
said he resisted the television interviewer's
repeated attempts to prod him into calling for a
weaker dollar. He said "a substantial increase" in
the dollar would hurt the U.S. competitive
position, but described the currency today as "a
strong dollar and quite stable."(下線は筆者)

 つまり、ロイター・テレビのインタビューアーはかなりしつこくベンツェン氏に「ドル安志向」の発言をさせようとした、というのです。同氏はこれに抵抗した上で、「現水準より大幅なドル高」は、「当然ながらアメリカ(の企業)を不利にする」といっただけだと弁解している。悪い言葉で言えば、ちょっとロイターのやらせくさい。

 もっとも、このベンツェン発言のあとルービン現財務長官が「強いドルはアメリカの権益にかなう」と繰り返し発言、ドルは急速に戻っている。ドル・円は月曜の海外の市場では、ポンド・円、マルク・円での円売りを受けて、一時114円近くまで下げましたが、市場が「ベンツェン」という単語に反応したことは確かです。もっとも、このドルの下げは、米大統領・議会選挙を控えたポジション調整としては自然だったと考えられます。

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 先週末に発表になった一連の指標は、アメリカ経済の順調な「軟着陸」ぶりを示しました。工場受注は2.7%の増加と過去2年ぶり以上で最大の増加となりましたが、その他の統計はすべて、「成長率の望ましい持続的ペースへの鈍化」と、「インフレの心配なき」ことを示している。10月の非農業部門就業者数は21万人と予想をやや上回ったものの、時間当たり労働賃金は11.91ドルで前月と変わらず、週平均労働時間は0.4時間減少して、34.3時間となった。

 全米購買部協会(NAPM)の景況指数は、50.2%で、これは前月の51.7%を大きく下回った。同協会の価格指数も低下。この結果、13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、現行レベルに金利が据え置かれることがほぼ確実となりました。この間の「利上げ」を見送った連邦準備制度理事会の政策運営は極めて的確だったことになる。

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 今週のその他の予定としては、7日のドイツ連銀理事会が注目でしょうか。同日には、英仏首脳会談が開かれる。11月6日にはリッチモンドとカンザスシティの連銀総裁が講演をする。

have a nice shortened week

 ところで、米大統領選挙にはクリントン、ドールの他に実は非常に多くの候補が出ているそうです。ご存じのペローとかラルフ・ネーダーなどの名前の他にです。

 どうやれば「候補」になれるか、という記事をネットワークで見つけましたので、ちょっと紹介しておきましょう。簡単な2枚の用紙に必要事項を書き込み、連邦選挙委員会(Federal Election Commission)に届け出ればよいそうです。今年の米大統領選挙には、クリントン、ドールの他に231人が出ているという

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 How do you become a candidate for the Office of President? Essentially, it involves filing two forms with the Federal Election Commission in Washington, DC -- the Statement of Organization ("Form 1") and the Statement of Candidacy ("Form 2"). With these two one-page documents, any citizen can declare his intention to run for the Oval Office and be officially recognized as such.

 In addition to the big-name candidates like Clinton and Dole, to date 231 people have taken the plunge -- and that's not counting candidates like Pete Wilson or Dick Lugar, who have since dropped out, or the political bigwigs (i.e. Colin Powell & Co.) who filed but never ran. PoliticsNow has highlighted the names of candidates who have provided additional information. Take a look and pick your own favorite longshot -- who says it's a two-man race?

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 3連休はいかがでしたか。初日だけは天気が悪かったのですが、あとの二日は良かった。ゆっくりされた方が多かったのではないでしょうか。月曜日に新宿の高島屋の近くに出来た紀伊国屋に行きましたが、大きな本屋でした。一階から7階まで全部本。何処に何があるか探すのに時間がかかりました。Times Squareは相変わらず混んでいて、車で来た人は相当待たされたようです。紀伊国屋の売場にはもう来年(1997年)の手帳がずらっと並んでいた。その時期というわけです。

 それでは、皆様にはよい一週間をお過ごし下さい。            <ycaster@gol.com>