住信為替ニュース
INTERNET EDITION

 

第1321号 1996年11月11日(月)

trying to change the image on Japenese economy

 榊原・大蔵省国際金融局長の先週木曜日の発言を契機に、「日本の景気はそれほど悪くない」という雰囲気作りと、それを受けた市場での「株価の回復、債券相場水準の見直し」、それに「ドル・円相場の適正水準探し」が進行し始めたようです。この「雰囲気作り」の構図が明確に見えているわけではありませんし、その持続力、さらにはその雰囲気そのものがどのくらい実体を反映したものかは今後の問題ですが、市場の一部にも、このシナリオに乗ろうという向きがでてきている。金曜日には、株買い・債券売りの傾向が見られた。

 「日本の景気はそれほど悪くない」というイメージ作りは、前回の総選挙後の市場の悲観論に対するアンチテーゼとして存在し、政府サイドからも、官庁サイドからも宣伝され始めているように見える。むろん、政府も出来たばかりで、統一がとれているわけではありません。週末に読んだインターナショナル・ヘラルド・トリビューンの経済面には、新任の三塚・大蔵大臣が「景況判断で部下の国金局長と相反する発言をした」との記事が大きく出ていました。日本の景気は良いのか、悪いのかに関する海外の関心が高いことを示すと同時に、新しい政権が景気に対してどのようなスタンディングをとるのかに関する世界の市場の関心の強さを示していると言える。このヘラトリの記事は、「三塚新蔵相は、自らの部下である国際金融局長より景況にははるかに慎重だ」という取り上げ方をしていた。

 しかし、経済企画庁の景況判断も、徐々に景況判断を一歩進めたものになりつつあるように思える。ソニーなど名だたる企業の業績が急速に回復しているのは確かで、自動車メーカーの収益環境も非常に良い。確かに一部には回復の兆しは見える。こうしたイメージ作りが目指すのは、株価の回復です。金曜日の日本の資産市場では債券を売って株を買う動きがみられましたが、市場参加者の中にも、このシナリオに乗ろうという向きが出ている兆しが見える。ヘッジファンドの中にも、この戦略に乗ったところがあると報じられている。

 今週の市場の最大の関心事は、こうした動き、つまり「債券から株への資金の動き」、さらには「ドル・円相場の水準見直し」がどの程度進むか、または止まってしまうのかです

trying to assess the strength of the economy

 従って、今週の市場では「いったい日本の景況はどこにあるのか」が強い関心の的になるでしょう。「やはり悪い」ということになれば、債券を買い戻す向きも出てくるでしょうし、「良いようだ」という見方になれば、債券売り・株買いに拍車がかかる可能性がある。12日に発表になる月例経済報告(企画庁)、9月の機械受注(同)などが注目され、近く発表される予定の日銀短観には従来にない高い関心が払われることになるでしょう

 総選挙後の日本経済に対する悲観論が、「自民党の単独政権ではなにも変わらないのではないか」という見方にも基づいているとしたら、新政権は「いや日本経済の先行きはそう暗くない」ということを実際の措置、たとえば法人税の見直し、規制緩和などで示さなければなりません。日本の株式市場の悲観論は、日本企業の競争力そのものに対する懸念に基づいていますから、どうしても長期的に株価を引き上げようとしたらこの長期的な問題への取り組みが必要になる。市場は、総選挙後は少なくとも「改革への悲観論」を強めて「株売り・債券買い」を進めたのですから、実際にこうした根強いパーセプションを変えようとしたら、力がいるはずです。

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 政権の枠組みが決まった日本に対して、クリントン第二期政権の枠組みはかなり混沌としています。ライシュ(労働長官)も、カンター(商務長官)もと次々に経済閣僚が辞任を発表して、二期目のクリントン政権に残りそうな主要経済閣僚はルービン(財務長官)とバーシェフスキー(通商代表)だけとなっている

 今朝見たニューヨーク・タイムズの記事には、「Assembling a New Team on Economy」という記事がありましたが、確かにクリントンの今週の仕事は辞めていく主要経済閣僚やクリストファー(国務長官)の後任を見つけることです。パネッタ(ホワイトハウス首席補佐官)の後任は、ボールズになりましたから、彼を中心に政権の枠組み作りが進むはずです。このニューヨーク・タイムズの記事は、二期目のクリントン政権がとりあえず来年直面する三つの大きな課題として

  1. a potential slowdown of the nation's economy(景気鈍化対策)
  2. change in entitlement programs (医療保険制度改革)
  3. growing tensions with China over trade policy.(中国との貿易摩擦)

 を挙げている。「貿易摩擦」の対象が「日本」ではなく「中国」になっているのが興味深い。中国とアメリカは現在モンゴルなどからの迂回輸出(アメリカの認識ですが)を巡る問題から、繊維の分野で制裁合戦に入ろうとしている。単月では、アメリカの最大の貿易赤字国は、日本から中国になろうとしていますから、日本はある意味ではクリントン政権の課題の中では降格になっている。

 話がちょっと横道に入ってしまいましたが、クリントンの二期目の政権では、ルービン財務長官の発言がより重きをなすと思われている。政権に残る主要閣僚が二人しかいないという環境では、前期政権の財務長官の発言権は大きくなるでしょう。為替市場の一部には、「ルービン辞任説」がありましたが、むしろ現在の状況ではルービン財務長官の発言権は、二期目のクリントン政権では強まると考えるのが自然です。しかも、ルービンはクリントンの信任が厚く、クリントンとしては首席補佐官に望んだ人物。

ho is Mr.Bowles ?

 ボールズ新首席補佐官に関しては、以下のような解説がありましたので、掲載しておきます。

 Bowles, 51, is a far closer, locker-room pal, one Clinton has relied on for delicate
tasks, from telling Dick Morris that he had to resign as the Clinton campaign's
political strategist after reports in August that he had a relationship with a
prostitute, to overseeing the president's preparation for campaign debates this fall.

 He has long been the president's first choice to succeed Panetta, but he had to be
persuaded, having just in January started a merchant banking concern that specializes
in buying midsized companies on behalf of investors. Bowles agreed to rejoin the
administration in a phone conversation Thursday night.

 ライシュ労働長官は、クリントン政権の労働政策や新産業育成策で大きな役割を果たしてきましたが、今回辞任を選んだ。もともとハーバードの教授で、家族は一年半前からボストンに戻っていて、ライシュはワシントンとボストンを行ったり来たりの生活だった。辞任の理由は、「 to spend more time with his family.」というアメリカ人らしいもの。

more focus on Japanese economic indicators

今週の主な予定は以下の通りです。

11日     9月の日本の国際収支(大蔵省)
        10月の卸売物価(日銀)
        ヨーロッパ連合蔵相理事会(ブリュッセル)
        米市場はベテランズ・デーで一部休場

12日     11月の日本の月例経済報告(企画庁)
        9月の機械受注

13日     米連邦公開市場委員会(FOMC
        10月の米卸売物価

14日     10月の米消費者物価
        10月の米小売売上高

15日     10月の米鉱工業生産・設備稼働率

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 アメリカでの予定の中では、今週の最大の焦点は13日のFOMCでしょう。しかし、二期目の最初の一年のクリントン政権の課題が、「鈍化しつつある景気にどう対処するか」であるとしたら、このところの米長期金利の低下は朗報だったはずです。連邦準備制度理事会も「景気は鈍化しつつある」という見方で一致している。また、最近の経済指標をみると、実際に「鈍化」の兆しが明らか。FOMCが予想外のことをして、せっかく進行し始めた長期金利の低下に水を差すとは思いません。今回のFOMCは、最近ではもっとも市場の「インフレ懸念」が弱い中で開かれる

 最初に述べたように、市場が注目するのはアメリカの景況指数よりも、日本のそれになるでしょう。

have a nice week

 寒くなりましたね。日曜日に新宿の高島屋の近くに行きましたら、あのデパートのビルの上に実に大きなサンタクロースが袋を担いで下を見ているのが目に入りました。本屋には来年の手帳が並び、デパートの屋上にはサンタがとりつく季節になったということです。でも、高島屋の上のサンタは本当に大きいですよ。山手線や中央線、総武線や小田急、京王線などからも見えるのではないでしょうか。東口から見て高島屋ビルの右はじに取りついていましたから。見た瞬間に心がなごむのが良い。

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 ちょっと忘れていましたが、モンデール駐日大使の後任にはフォーリー下院議長やナン上院議員の名前が上がっているようです。日本の大使というのは、かなりの名誉職になってきた印象ですね。もっともモンデールはあちこちに出かけて、大使としての役割はかなり果たしていたようです。

 長くなりました。皆様にはよい一週間をお過ごしさい。            <ycaster@gol.com>