住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  第1323号 1996年11月18日(月)

foreseeing low inflation in U.S.A.  

 目立ちませんでしたが、私が「先週一週間で一番顕著だった」と思ったのは、誰も「アメリカの金利が近く上がりそうだ」と話題にしなくなったことでした。FOMCが開かれましたが、「据え置き」の見方が既定路線になっていて、金利据え置きはニュースにもならなかった。「当然」という受け止め方だった。前2回のFOMCの直前に金融市場が払った関心の高さや喧噪からすれば、驚くほどです

 先週の金曜日(15日)には、9月24日のFOMCの議事録が発表されました。このFOMCの直前には、「12連銀のうち8連銀が公定歩合の引き上げを要請している」などという内部情報が流されて、FEDCIAFBIに調査を依頼するなど大きな関心を集めました。しかし、金曜日に発表になった議事録によれば、この会議で実際に「インフレに対する保険としての短期金利の即時引き上げ」を主張したのはミネアポリス連銀のGary Stern総裁だけ。彼は過去3回のFOMCで常に、「据え置き」を決めた会議の全体意志に異議を唱えているという。

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 奇妙なことにこの「根強い利上げ圧力」の存在を示唆する“FED内部情報”のリーク以来、アメリカにおける「利上げ観測」は急激に萎んだといえる。そして先週は春から振り返ってみて、一番その観測が萎んだ一週間だった、と筆者は思います。二つ理由があります。景気そのものがグリーンスパン議長が予想した通りに「減速」してきたこと。そして第二に、仮に景気が結構強くてもアメリカはインフレに直面しなくても良いかもしれないと多くの人が認識し始めたこと

 もし前者だけだと、今でも金融市場は景気指標に一喜一憂していたはずです。しかし、後者があるから、そもそも指標に対する関心が低下してきたと考えることが可能。後者は、KNEE-JERK REACTIONを原則とする金融市場の行動パターンからしてなかなか浸透しないし、しばしば忘れられるのですが、静かに金融市場のピクチャーを変えつつあるように思える。アメリカの金利が静かに下がっているのは、その証左と見ます。

FED is very careful in raising rates

 その影響は、金融市場の各所で見られます。一つは債券利回りの低下。木曜日の段階では、アメリカの長期金利は6.41%にまで下がりました。昨日数日前のウォール・ストリート・ジャーナルの記事(HTMLファイル)を整理していたのですが、そこには「当面アメリカの長期金利は6.60%から6.75%の間で推移しそうだ」と書いてあった。アメリカの金利は、一般に予想されていた以上に急速に下がったのです。金曜日には利食いも入って6.45%に上昇しましたが、基調は金利は低下にある。おそらく、あと数ヶ月したら、アメリカの金利は次にどちらに動くかという議論が出てくるでしょう。今はまだ「次は上げ」という人が多いでしょうが。

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 株にもこの金利見通しの変化の影響は強く出ていると思われます。ニューヨークの株は、8日連騰している。背景に、金利に対する楽観的な見通しがあってこそと思われます。

It's a combination of the benefits of a very strong bond
market, along with the low inflation, low interest-rate
scenario," said Andre Bakhos, managing director of
institutional sales at E. H. Smith Jacobs & Co. "This has
become a momentum run."

 という見方をここでは紹介しておきましょう。加えて、企業の業績は良い。今のニューヨークの株はまさに、momentum runです。

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 ドルが、アメリカ・サイドからのドル支持発言にも関わらず、先週一週間印象としては「軟調」だったのも、アメリカの金利見通しと関係があると思われます。まず、政府高官のドル支持発言を見ると、ルービン財務長官は

Mr. Rubin said Friday he is "very optimistic"
about prospects for U.S. exports given the current
competitiveness of the U.S. economy.

 と述べている。「アメリカ経済の競争力は非常に強い。だから(私は)アメリカの輸出には楽観的だし、ドルを武器に使う必要などない」と述べているわけです。第二期のクリントン政権になれば、「アメリカはドル安・円高を武器に使う」といった見方が誤りであることを示している

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 しかしそれでもドルが上がらなかったのは、次のような見方があるからだと思われます。これもウォール・ストリート・ジャーナルに載っていたものですが

   

U.S. interest rates are on hold for the time being, but are on
an upward path in Japan and Germany, where economic
activity is picking up.

 つまり、アメリカと日独間の金利差の縮小見通し。これまではモメンタムとして

「アメリカの金利は上昇」「日独の金利は弱含み」

だったのですが、今はそれは

「アメリカの金利は据え置き」「日独の金利は上昇トレンド」

 という理解になっている。この両サイドにおけるパーセプションの変化は相場には響きます。日本に関しては、「利上げが近いのでは」という見方も海外で特に強い。ドイツに関しても、「利下げの余地」という連銀高官発言にも関わらず、市場はマルク金利の反転を読み込み始めている。

not foreseeing rate increase in Japan and Germany

 しかし、この見方に関しては筆者は「やや性急に過ぎるのでは」と思います。日独の金利が実際に本格的に上昇を始めるのは、かなり先になると思うからです。今の日本やドイツを見ると、景気は過度に悲観することはないにしても、とても良いとは言えない。物価情勢も安定そのもの。むしろ、依然として物価は低下基調にあるというのが実感です。従って、日独、特に日本では名目金利が極めて低い水準のまま続くと見ます。

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 さらに、日本の国内の「運用難」という実体には変化がないということです。この国内の「運用難」は、確かに代替投資先の金利が高い方が流出の魅力は高くなりますが、そもそもは絶対的問題、つまり「日本国内では回らない」という問題として存在する。各種の財団は、3%の運用利回りがなければ、回りませんが、今の日本の長期金利は上昇して2.7%程度。問題は、「金利差」ではないのです。どこで、「運用」の名に値する名目金利を得られるかです。今朝の日経新聞の一面には、「生保、外債投資を拡大」という記事がある。明治と第一生命。

 多分日本の通貨当局が懸念しているのは、こうした圧力が遅ればせながら高まってきたことによって、日本経済に好ましくない形で円安圧力が高まる危険性だったと思われます。貿易収支の黒の減少ペースは確かに鈍ってきた。今朝8時50分に大蔵省から10月の貿易統計が発表され、全体の出超幅は4708億円と、出超幅は前年同月を12.9%下回りました。今年10月は上中旬の黒字が対前年同期比で22%の増加していましたので、月全体の数字が注目されていましたが、これで23ヶ月連続の対前年同月比減少となった。

 しかし例えば10月を取ると、対米黒字は3547億円で、これは20ヶ月ぶりの増加だという。中身をまだ詳しく見ていないので分かりませんが、日本の黒字減少ペースが鈍ってきたと考えざるをえない面もある。今年の4月を境に、減少ペースは落ちてきています。貿易面では「円安」の理由は少なくとも当面は希薄にはなりつつあるということです。ただし、資本面では円安圧力は強く残っている。

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 今週の主な予定は、

 18日(月)       10月の貿易統計(大蔵省)
              グリーンスパンFED議長講演、
                 日本政府首脳と会談

 19日(火)       10月のマネーサプライ(日銀)
              10月の米住宅着工

 20日(水)       松下日銀総裁会見
              9月の米貿易収支

 21日(木)       9月の景気動向指数(企画庁)
              ドイツ連銀理事会

 22日(金)       10月の米財政収支

have a nice week

 寒くなってきましたね。この週末は晴れていて良かったんですが、寒かった。土曜日は今ニューヨークの立花の結婚式でアメリカン・クラブまで行きましたが、寒くなったせいか街が閑散としていて、タクシーの運転手が「今日はお客さんがいないんですよ...」と嘆いていました。風邪ひきさん多くなっている。お気をつけて。

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 日銀のインターネット上のホームページ(http://www.boj.go.jp)が話題になっているので、初めて渡ってみました。最初は仕方がないのですが、重い。「重い」というのは、なかなか絵柄が完成しないと言うことです。インターネットでは、絵が出るのに時間がかかることを「重い」というのです。

 そしてやっと出てきて中央に見えたマークを見て、「ゴルフゴールのと同じだ」と思いました。ご存知ですか。「日銀ゴルフボール」ってのがあるのを。小生は日銀の人にもらいましたが、日銀の上の階の売店で一般にも売っているのだそうです。あの、ライオンが二頭取り付いたような絵柄のやつです。ウーン、金利操作の見通しを間違ったときは、このボールを思い切り打ってナイスショットを取り戻すってのはいかが..。

 でも日銀のホームページはなかなか良くできてますね。フレームを使って。検索エンジンにまでつながっているのは、これは世界の中央銀行のホームページの中でも珍しいのでは。ブンデスはまだHPを持ってないようです。むろん連邦準備制度理事会などはある。

 一つがっかりしたのは、アーカイブが「LZH」になっていること。私もインターネットを一年近くやっていますが、アーカイブが「LZH」になっているのは、初めてです。ソフトウエアとかでなく、一般のページで。というのも、個人的なことで恐縮ですが、LZHの解凍が苦手なんです。パスを通すだとか、よく分からない。夕べ試しに11時過ぎでしたがダウンロードしてみました。8月の短観です。ものすごく時間がかかりました。概要(tk9608k.lzh)と種別計数(tk9608h.lzh)の両方を落とすのにたっぷり一時間以上はかかった。ラインはISDNを使っているのにです。日銀さん、お願いですからHTMLファイルにしていただけないでしょうか。表はGIFにすればよい。「LZH」アーカイブはNiftyserveの「GO BOJ」がそうだったので、こちらでも使ったのではと思いますが、インターネット・ユーザーで「LZH」の解凍ができる人は少ないでしょう。それから、昨日のFKINYUNiftyserveの金融プロフェッショナル・フォーラム)の会議室にも出ていましたが、印刷するとこれがA3。一般家庭でA3の紙を持っている例は少ないのでは。これも、A4サイズにしていただければ幸甚です。

 来週ですか、日銀の短観は。今までは日銀さんに並んでいた人が多かったようですが、発表時間も朝になったし、もう並ぶ人もいなくなるでしょう。日銀の短観は、Niftyserveでは「概要」の部分は、最初から解凍されています。インターネットでも見れるとなると、並ぶ人はいなくなるでしょう。ナイスです。

 それでは、皆さんには良い一週間をお過ごしください。             <ycaster@gol.com>