住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  第1324号 1996年11月22日(金)

 出張中の為、11月25日(月)の「News and Analysis」はありません。最新情報は、diarychatの「情報戦争」です。29日の「News and Analysis」は通常通りの予定です。

higher stocks  

 阪和銀行に対する業務停止命令や、債券相場の水準に関する政府高官発言などありましたが、日本の市場は全般に静かに推移した一週間でした。株もあまり水準を変えた印象はせず、債券も神経質ながらレンジ相場で、為替はドル・円という意味では111円台を行ったり来たり。債券について言えば、来週に「短観」を控えていて動きにくかったという面が強い。

 これに対して、アメリカの市場は活況でした。株は引き続き基調的には高値追いを続けており、一方で同国では金利が大幅に低下してきた。株の上昇に関しては、企業業績が良いこと以外に、「年金の確定給付から確定拠出への変更」「企業の銀行離れによる証券化商品の拡大」「低金利による銀行預金離れ」「若年層の将来の雇用不安に対する貯蓄志向」などが指摘されている。朝鮮戦争などあって、アメリカでベビーブーマーと言われる世代は、1946年生まれから1964年生まれまでと日本のわずか4−5年と比べて非常に長い。

 この年代に属する世代が、将来への備えもあって株式投資を活発にしている。「demographic pressure」(人口動態的な圧力)を伴った株高だといえる。長銀証券の調査によると、1996年時点の「総資産比較」では、アメリカの銀行は合計4.6兆ドル、これに対してミューチュアル・ファンド業界のそれは3.1兆ドルでまだ銀行の資産の方が大きいものの、伸び率は銀行資産が年6〜7%なのに対して、ミューチュアル・ファンドの資産はたとえば1990年と比べると3倍にもなっているという。『アメリカは「銀行」より大きな「ミューチュアル・ファンド業界」を持つ世界最初の国になる可能性が高い』(同証券)という。

 最近のニューヨークの株は、「下げるときは控えめに、上げるときは大幅に」と、「朝下げても、午後反発」というのを繰り返しており、昨日も朝方ダウで30ドル以上下げたものの、午後に反発して終値は11.55ドル安の6418.47ドルで、6400ドルの大台を維持。

and lower bond yeild

 アメリカでは、金利が目立って低下してきました。今朝見たニュースでは、同国の住宅貸付金利(Home mortgage rates)が先週3月以来の低水準を記録したという。30年の固定貸出金利は先週、5週連続の低下で7.53%となり、これは今年3月以来の低水準。15年の固定では7.06%。これは3月8日の週の6.87%以来の低水準だという。アメリカでは指標30年債の利回りも着実に下がって、6.50%を下回る水準で推移している。昨日のニューヨークの引け6.39%。

 昨日ちらっと「The Death of Inflation」という本に目を通しましたが、世界で一番景気が良いと言われるアメリカでこういう名前の本が出てくることが、物価情勢の変化を物語っている。日本は「The Death of Inflation」という意味では、世界でも最も傑出した存在で、これはあちこちでの講演で述べているのですが、

  1. 市場経済のスパン拡大による大競争時代
  2. デジタル革命

の二つが大きな理由だと見ています。

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 為替は総じて小動き。世界を見渡すと、アメリカのドルは勢いをなくしてきましたが、全体的にはアングロ・サクソン通貨が強い。イギリスのポンドやオーストラリア・ドル。他の諸国に比べると景気が良く、金利がそうは言っても高いのが好感されている。

   各国通貨当局者の自国通貨に関する発言が今一つ明確さを欠くのも、為替相場の小動きの原因。例えば、今週は全く同じ日にErnst Welteke(ヘッセの地方連銀総裁)が、

German exporters would like to see a stronger dollar, but that
there is no reason for the dollar to rise further
against the mark.

「ドルがさらに上がる理由はない」と述べてドル安・マルク高を引き起こした直後に、

the Bundesbank would like to see the dollar
higher against the mark and less volatile as well.

 と今度は「ドルが(対マルクで)上昇してほしい」と述べた。これでは市場はどちらを信じて良いか分からない。日本の通貨当局者の発言も、ちょっと聞くと禅問答のようになっている。事情を知らない人には分からない。しかし本音も、貿易収支の黒字の減少が再びペースを取り戻し、株が強さを取り戻すまでは「あまり動かないで」ということで、本音が分かってもあまり動けない。アメリカはルービンの意向は明確ですが、次の内閣の組成が明確にならないうちは不安定感が残るでしょう。

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 グリーンスパン連邦準備制度理事会(FED)議長の銀行協会における今週月曜日の講演会は、既に内容が新聞などで報じられています。しかし、私の第一印象は、テレビの議会証言の映像などで見た「小柄な人だ」(たぶん多少猫背だからだと思いますが)というイメージが覆るものでした。実物は結構大きかった。180センチはあるかもしれない。

 話は9月、10月に連邦準備制度理事会(FRB)のインターネット上のホームページで見つけて読んでいたものとかなりの部分重複する内容で、むしろ「どうして同じことを繰り返して言うんだろう」というところが関心の的。これは彼の特長ですが、すべての問題を根本に帰って考えようとする。今回もそうで、銀行にとってリスクとは何か、新技術の導入の中でのリスクの数量化はどうか、監督当局は新しい銀行業界を取り巻く環境の中で、どう対処すべきかなどを繰り返し取り上げていた。

 一つ面白いと思ったのは、銀行が行う取引が複雑さを増し、経営管理システムは精緻化されていると見られているものの、銀行における問題の発生はしばしば単純な原則が守られていなかったり、一つの単純な管理がなされていないことに起因している、と言っていた点。

 Q & A は面白かった。こちらの方は、ジョークを交えて。相場など微妙な問題にはむろん触れなかった。

 グリーンスパン議長が言ったことで、二点だけ指摘しておきましょう。

 @エレクトリック・バンキングが伝統的な銀行業務にすぐにでも取って代わってしまうと考えるのは、
premature」で、かつ「exaggerated」だ
 A日銀の独立性と日本政府が現在進めている金融市場の自由化(日本版ビッグ・バン)を強く支持する

 前者については、消費者段階のエレクトリック・バンキングは既存の業務形態の電子への置き換えをしているにすぎないこと、紙幣、チェックなど「紙」は優れた利便性をもっており、需要も強い点を指摘していた。後者は、グリーンスパン議長が日本に残した一番強いメッセージのように思いました。規制を残しているのは発展段階の資本主義国であって、「競争市場」には規制はそぐわないとも言っていた。ここが印象的でした。

two trade figures

 今週は二つの貿易統計に関心が集まりました。日本の10月の貿易統計と、アメリカの9月の貿易収支。前者は上中旬の黒が前年同期を上回っていたことから注目されていましたが、全体ではやはり黒は13%弱の対前年同月比減少。ただし、対米黒字は増大。自動車中心に輸出が伸びている。これがトレンドかどうかはちょっと様子を見なければならない。だから相場も「様子を見ている」ということでしょうか。

 アメリカの9月の貿易統計は赤字が113億ドルで、これは史上2位の大幅赤。石油輸入が急増したことと、対中赤字が対日赤字を再び上回ったのが特徴。8月は103億ドルの赤だった。最悪は、7月の116億ドル。予想は、「景気鈍化を受けて輸入需要が減退するから、赤字幅は縮小する」というものだった。今年これまでの赤字のペースは年率1140億ドルで、これは昨年の1051億ドルを大幅に上回る。

 アメリカの対中赤字は拡大している。

For September, the deficit with China edged up 0.4 percent to $4.7 billion, the
second straight monthly record. It was also the second straight month and the third time this year that the deficit with China has surpassed the imbalance with Japan, something that had never occurred before. Based on current trends, some analysts predict the deficit with China could surpass that with Japan on an annual basis by next year.

 来年までに、アメリカの年間対中赤字が対日赤字を上回るとのアナリストの見通しが掲載されている。9月の対日は、37億8900万ドルの赤。

have a nice weekend

 週の後半に入って、天気が落ち着いてきました。週末は部のゴルフコンペですが、天気はどうでしょうか。そろそろ、少しでも雨が降ると「ゴルフはごめん」という季節。来週は週初に松山出張がありますから、月曜日の当ニュースはないと思います。

 昨日はあまり市場も動きそうもないし、珍しく予定もなかったのでとっとと家に帰って人から薦められていた「上海ルージュ」を見ました。なかなか迫力のある、1930年代の上海がよくわかる映画。なかなか良かった。中国は11億でしたっけ。それだけで大映画市場。「さらば、わが愛」も良い映画だった。ついでに借りてきて一気に二本立てで見た「Fair Game」はシンディ・クロフォードの為に作ったような映画で、筋書きはいい加減だし、アクションと彼女の足だけですかね、見所は。

 ところで、ドイツ連銀も近くホームページを公開するようです。今見れるのは、非公開版。

 それでは、良い週末を.........
             <ycaster@gol.com>