住信為替ニュース
INTERNET EDITION

  第1326号 1996年12月06日(金)


 この号を書いて以降の市場の最新の動き、特にグリーンスパン連邦準備制度理事会議長の発言内容に関しては、DIARYに掲載してあります。そちらをご覧下さい。

decline of European currencies  

 たくさんの噂や報道、それに発言が飛び交う一週間となりましたが、外国為替市場でトレンドとして出てきたのは、「ヨーロッパ通貨安」でした。今週特にマルクやスイスなどの欧大陸通貨は、まずドルに対して、次に円に対して大幅に下落した。

 欧州通貨安のきっかけとなったのは、様々な高官発言。ティートマイヤー・ドイツ連銀総裁を始め、同国の高官が軒並み「マルク安賛成」を明確にした。先々週のフランス高官のフラン安期待発言に続くもので、スイスの高官も同フラン安への期待を表明している。つまり、ヨーロッパからは「欧州通貨安期待の大合唱」が聞こえた一週間でした。当然、市場はこの声に反応した。

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 ヨーロッパが「自国通貨安」を期待する理由は十分にあります。全体的に言えることは

  1. 国内景気対策の手詰まりから、輸出に対する期待の増大
  2. 欧州全体での金利一段低下期待

 だったと言える。ドイツ連銀の木曜日の理事会では利下げを見送りしましたが、reserve policyはゆるやかにした。顕著になっているのはアメリカ市場に続いての著しいインフレ「期待」、または「警戒」の後退です。ドイツ連銀はインフレ・ファイターとして有名ですが、その連銀でさえ明確には述べていないものの、ドイツの物価の先行きにはかなり自信を深めているようで、遠からず欧州金利の一段引き下げの見通しが出てくるでしょう。こうした動きを受けて、欧州では株と債券が上昇している。今週のドイツの株価は週央に一時下げたものの、週を通じては強い動き。DAXは2900に乗った。債券も強い。

 一方のアメリカの立場も、対欧州通貨に対してはドルが上昇しても問題ないという見方のようです。今週一週間の動きから見れば、日本では昨年夏以降しばらく続いた「円高是正」の欧州版がスターとしたように見える。「マルク高是正」「フラン高是正」です。

 この間の事情を、今朝の「 Dollar Boom: How Nations have Bolstered Greenback」という見出しのウォール・ストリート・ジャーナルの記事
http://interactive4.wsj.com/edition/current/articles/SB849798212414575000.htmがよくとらえている。この文中には、以下のようなセンテンスがある。

 Much of Europe, and especially France, is in a
bind: It is burdened with slow growth and high
unemployment-an average jobless rate of 10.8% for
the 15 nations of the European Union, compared
with 5.2% in the U.S. Yet the strict
budget-deficit criteria mandated by the
Maastricht Treaty to qualify for Europe's single
currency, planned for 1999, severely restricts
government spending.

 "There are more and more signs of desperation
from European policy makers that they need
growth, and the only way out is to weaken their
currencies against the dollar," says James
O'Neill, chief currency economist at Goldman,
Sachs & Co. in London. A stronger dollar,
explains Ulrich Beckmann, a senior economist at
Deutsche Bank AG in Frankfurt, will stimulate
economic growth by spurring exports, "not only to
the U.S., but to countries whose currencies are
tied to the dollar, such as Southeast Asia."
 失業率は高い、そこで財政を出動したいが、マースリヒト条約の制約で出来ない。唯一の手だては自国通貨安(特に対ドルとドル・リンク通貨に対して)というのが欧州の現状。スイスのように今の日本と非常に似た経済情勢の国もある。

hoping stable Dollar-yen

 これに対して、ドル・円に関しては「円高是正一巡」がますます顕著になってきた一週間でした。昨夜ワールド・ビジネス・サテライトに出演した榊原国際金融局長は、「108円から110円を望むと発言するのではないか」という事前の噂は否定、これが市場でのドル反発のきっかけになったものの、「為替相場はファンダメンタルズを反映したものになるべきだ」と述べた部分は、明らかに減少のペースを落とし始めた日本の対外収支バランスの動きを意識したもの。昨日の松下日銀総裁の発言(「このまま円安が続くとは思わない」)も、その線で考えるべきものと思われます。従って、当局の意向は日本の対外収支の動きに変化がなければ、110円前後での安定にある。オーストラリアで為替・債券について発言した内海元財務官も、この線での発言でした。

 市場もこの見方を強めているようで、先に紹介したウォール・ストリート・ジャーナルの記事の最後には、

 Mr. O'Neill adds that "a lot of people are
concluding that the dollar is close to peaking
against the yen, myself included."

 という一文がある。円を巡る動きと、欧州通貨を巡る動き。その二つの動きから見れば、今週これまでの外国為替市場での欧州通貨安・円高の動きは、極めて理にかなっており、今後も続くと考えるのが自然です。ただしドル・円についていえば、厳しい運用難の中で、当局が望むように「現行水準」で推移するかどうかは不明です。

 間違ってはいけないのは日本もアメリカも「ドル安」を望んでいるのではないという点。ドル安は、ニューヨークの金融市場を不安定にして(昨日のニューヨークの債券相場の下げは、ドル安を一因とするもの)、東京の株価の上げ期待にも大きな打撃になる。あくまでも当局の意図は「Please stay here」です。

rising bonds and stocks

 クリスマスを控えて調整局面に入ったアメリカの市場を除けば、世界的に債券と株式が買われた一週間でした。おいてきぼりをくっていた日本の株は昨日は珍しく大幅に上がった。一部の選別された株の上昇がやや広がりを持ち始めた印象。しかし、昔のように「全面高」なんてことはない。今朝の日経によれば、昨日も東証第一部の新安値(年初来安値と権利落ち後の安値)銘柄数は、157と高水準。各国の市場も、市場の中のそれぞれの銘柄も厳しい「選別」のさなかにある。出来高は、徐々に膨らんできました。

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 しかし、株が好調なのは債券が売られたからかというとそうでもない。日本の債券・株式市場の関係を見てもそうですが、世界全体の大きな動きを見ると、株も債券も買われている。ドイツの市場がよい例でした。東京市場も、これだけ叩かれているにもかかわらず(今の日本の債券市場は「バブルだ」という内海元財務官の発言が典型)、日本の債券市場は強かった。

 これは、結局のところ世界の先進国を取り巻くデフレ圧力が強く、市場も当局も徐々にこの事実を認識し始めている、という事実があるのだと思います。だから、簡単には資産としての債券は手放せない。一方株は、世界的基準で活動でき、収益を上げられる企業の株は強い買い圧力を受けているということでしょう。

 内海発言でもう一つ今週出てきたと報じられた言葉に、

  「松下・日銀総裁は、異常に低い日本の公定歩合を引き上げたがっている」

 というのがありますが、これは事実かもしれませんが、実際には時期尚早でしょう。インフレ状況を見ても、日本の短期金利を上げる環境にはない。

have a nice weekend

 明日は、初めての12月に入っての土曜日。あちこちにイリュミネーションが輝きだしました。赤坂のプリンス・ホテルのそれも綺麗ですし、最近では各レストランが飾り付けをする。今週末は寒くなるそうで、イリュミネーションが映えるかもしれない。

 面白い本を読んでいる最中です。講談社の「拒税宣言」。水木 楊さんの本。面白いですよ。文中にところどころ活字体を変えた説明文が入っている(税システムやインターネットについての)珍しい本ですが、伊丹映画のようなテンポの良さがある。推薦です。1500円。

 今週は、「劇団ふるさときゃらばん」の「裸になったサラリーマン」を見ましたが、これもおもしろかった。これは、今週木曜日の日本青年館大ホールでの公演が最終公演でしたが、また来年の春から新しい作品を上げるそうです。劇団四季の「借り物公演」よりよほど面白い。楽しみにしましょう。

 それでは、皆さんにはよい週末をお過ごし下さい。
             <ycaster@gol.com>