INTERNET EDITION

第1330号 1997年01月10日(金)

sharp contrast

 年明けの一週間としては、大きな動きがあり、ちょっとヘビーな感じのする一週間でした。日本の株式市場は、銘柄別には上げているものも結構あるのですが、指数としては大きく下げ、木曜日の引けまでに日経平均で18000円を割り込む直前まで来ている。連日の大幅な下げが特徴で、しかも午後になるとへなへなと下げるのが目立つ。

 これとは対照的にニューヨークの株は、指数で見て大きく上げました。水曜日に一休みしたものの、木曜日の引けでは6625.67ドル(前日比76.19ドル高)と引き続き高値更新を続けている。東京、ニューヨーク以外の市場を見ると、ヨーロッパの株は、パリ、フランクフルト、ロンドンが小幅もちあい、シンガポール、香港は強含みもみあいとなっていて、東京の弱さとニューヨークの強さが突出していた。ただし、そのニューヨークでも債券相場は「経済が強すぎることへの懸念」と「インフレ懸念、利上げ懸念」で週を通じての基調は軟弱な動き。

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 ドルは、大きく上げました。特に欧州通貨に対して。

  1. 米経済が強く、利上げの可能性まで指摘されている
  2. 一方で、ドイツの金利は上がりようがなく、下げの可能性もある
  3. エリツィンの健康不安

 などが背景。「2」については木曜日にドイツの12月の失業者数が発表になり、予想より大幅な増加(4万8000人)となった。今週のブンデス理事会では見送ったものの、近くドイツが利下げを行うのではないか、との見方が強まっている。昨日の段階では、ドル・マルクは欧州市場で1.5806 marksと1994年12月27日(1.5830 marks)以来のドル高値を付けている。エリツィンの健康不安については、大統領府は「風邪のこじらせ」と言っているものの、体調不良による政権空白が続いており、「退陣」を要求する声が強くなっている。

 ドイツばかりでなく、通貨統合を目指すヨーロッパ各国は財政で大きな枠規制にあっていて、景気を刺激しようと思ったら、金融政策か通貨政策に頼らざるを得ない。ドイツが今週金利引き下げを見送ったのは、マルクが対ドルで下げている現状では、金融政策まで発動する必要はないと考えた可能性が大です。マルクが逆に上げ始めたりしたら、金利を下げてくる可能性が高い。とすれば、通貨市場参加者としてはなかなかマルクは買えないということになる。その通りの展開で、欧州通貨ではマルクばかりでなくスイス・フラン、フランス・フランなども対ドル軟調。

yen under selling pressure against dollar

 円も今週は117円を一瞬うかがうなど、軟調な推移でした。しかし、対欧州通貨では円はむしろ上げていて、下げは欧州通貨ほど目立たなかった。株が大きく下げ続け、日本経済に対する悲観論が強かった割には、下げはきつくなかったと言える。

 これは、今週初めの小川大蔵事務次官の発言にも示されているとおり、日本の通貨当局が金融政策の行き詰まり、財政政策の不発動主義にもかかわらず、景気の浮揚を外需に求める姿勢を拒否して、「円安基調は好ましくない」という姿勢を鮮明にし、行動も辞さないことを表明しているため。大蔵省は、かなり真剣に円安を懸念しているようです。懸念しているのは次の点だと思われます。

  1. 「日本経済に対する悲観論」が、極端な円安になって現れることの危険性
  2. そのプロセスの中で、経済運営が困難さを増すことに対する危機感
  3. 円安が株価に好影響を与えなくなったことへの懸念
  4. competitive depreciation批判への懸念

 ただし、株が下げ、債券価格が上がらなくなった状況のなかで、長く資金を日本に置いておく誘因が依然として少ないことは確かで、この面への取り組みを着実にできるかどうかがポイントでしょう。その取り組みの中には、短期的な株価押し上げ措置ではなく、市場の環境整備をし、税制などを国際基準にあわせる努力が必要のように思えます。有価証券取引税など、世界の先進国にはあまり例のない税制もあるし、法人税も高い。結局のところ、ニューヨークと東京の株価の違いは、国際競争に耐えうる企業がどちらに多く上場されているかという差であって、それは企業の実力差でもあるのですが、制度面で日本の株式市場に上場されている銘柄に不利があるとしたら、それを取り除いていかなければ、市場に活力は戻らないと思われます。

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 全体的に言えるのは、日本の場合は誰もが相場を語りすぎる弊害が出ているように思えます。例えば、為替(ドル)に関してアメリカで政権を代表してしゃべれるのは財務長官と大統領と決まっている。従って、市場もこの二人の為替に関する発言にもっぱら注目する。しかし、日本では皆為替に一家言があるようで、いろいろしゃべる。市場は、しばしばあちこちから出てくる「為替発言」に混乱します。トップダウンでない日本のような国では「皆意見あり」というのが実状でしょうが、多くの人がしゃべればしゃべるほど市場へのインパクトは小さくなる。

 株価についても、いろいろな人がしゃべりすぎるし、「今現在の相場」について語りすぎるように思います。相場は、一定の期間続いてはじめて経済に対する影響を与えます。一瞬の動きにマスコミは騒ぐでしょうが、明日はもう戻っているかもしれない。今の相場水準を語るよりも、今の市場環境を冷静に分析し、その一つ一つのファクターが今後どう展開するか、またはさせるべきかを見ることの方が必要に思います。

 政府が間違うのと同じくらいに、市場も間違います。しかし、市場は「行き過ぎる」ことはあっても、あまり「無駄なこと」はしない。お金を持っている人達の「これだ妥当だ」という判断・行動の集積です。レベルを問題にするよりも、今の市場の動きがなにを物語っているかを考えるのが必要のように思えます。

bull sentiment to the American economy

 アメリカでは、引き続き景気楽観論が体勢です。今週出た統計も強いものが多い。11月の工場受注は0.4%の減少と、1.0%の減少を見ていた市場の予想を下回る減少幅に終わりました。11月の消費者信用残高は季節調整済みで年率7.4%の高い伸び。また、11月の米卸売売上高は0.9%と大幅な増加になった。この結果、inventory-to-sales ratioは、11月は1.26月となり、これは1190年3月(同)以来の低い水準。こうした強い指標を受けてでしょうが、 J.P. Morgan Securities Inc. は年末までに連邦準備制度理事会による3回の利上げを予想している。

 木曜日に講演したシカゴ連銀のMichael Moskow総裁は、

  1. 今年のアメリカの経済成長率は実質2% から 2.5% になる
  2. インフレ率は3% 前後に
  3. 失業率は5.5%になろう

 と予想している。この予想は、最近連邦準備制度理事会の高官があちこちで述べているのと同じである。

 アメリカ経済について言うと、実際のインフレ再燃の兆候はまだ出てきていない。木曜日に発表になった12月の米卸売物価指数は、全体では0.5%の上昇と、市場のコンセンサス(0.3%上昇)を上回り95年12月以来の高い伸びになりましたが、食料品とエネルギーを除いたコアは0.1%の上昇と、市場予想の0.2%を下回った。これを受けて、木曜日のニューヨーク市場では債券が買われている。指標30年債の利回りは、6.76%と前日の6.84%から大きく低下。インフレ指標とされる金相場が、主にヨーロッパ中銀の売りを受けて下げ続けているのも、インフレ心理の再燃を抑制している。

 ただし、経済の拡大ペースが予想を上回っており、賃金インフレに対する懸念が強い事情は変わっておらず、市場の神経質な地合は続きそうです。当面の関心は、日本時間の今日発表になる12月の米雇用統計です。最新の市場の予想は、非農業部門就業者数で17万の増加。

have a nice weekend

 週後半は寒い日が続いていますね。今年もいろいろなタイプの風邪が出ているようですが、私が昨年末に一日だけかかったのは、「39度の高熱、無鼻水、無咳」というもの。しかし、長引いている人もいるようです。

 最近一つ英単語を覚えました。「closer」。スポーツ記事の中に出てきた。辞書にもでていない。実はこれは、「野球だ」と言えば想像がつくのですが、「押さえ」をいうのです。つまり最後にでてきて、試合をcloseする人という意味です。では中継ぎは何と言うか。残念知りません。誰かご存じ。先発はstarterですから。そういえば、relieverという単語もありますね。relief pitcherと同義。あえて言えば、これが「中継ぎ」かな。

 正月疲れもあるでしょうから、今週末はごゆっくりと。Good Day !!


             <ycaster@gol.com>