INTERNET EDITION

  第1336号 1997年02月03日(月)

G7 this weekend..........a kind of decision point

 今週の最大の注目点は、何と言っても土曜日8日にベルリンで開かれる先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)でしょう。週末に読んだウォール・ストリート・ジャーナルの記事に

  「 "The G-7 conference is being looked upon as
  a kind of decision point in whether the dollar rally
  is going to fizzle or continue."

 という表現がありました。確かに「当面」という意味では、ドルの対円、対マルク相場の先行き、さらには欧州通貨と円の為替相場の先行きに大きな影響を与えるでしょう。為替相場水準は、長期的にはやはり基礎的な経済条件に左右されるにしてもです。

 今週はこのG7を直前にしていろいろな発言が出てきそうですし、その中ではアメリカ、特にルービル財務長官の発言が一番重要ですが、既に一週間前の現在の段階でいくつか発言が出ている。金曜日にドイツ連銀のpolicy-setting councilのメンバーであるGuntran Palm氏は、

 「The dollar's strength against the yen
  will be a particular focus for the
  officials gathering at the coming meeting
  of the Group of Seven major industrialized
  countries.

 と述べている。G7の焦点の一つがドルの円に対する強さ、逆に言えば円の弱さにある、と欧州の中銀関係者が述べたことが重要。議題になることが、決まっているということです。欧州の通貨関係者にしてみれば、、欧州各国通貨に対しても安くなっている円への不満もあるのでしょう。

 伝えられるところによると、欧州各国は、円が対マルクで70円を割るレベルまで強含んで欲しいと考えているという。対ドルでの欧州通貨安を進め、この面でかなりの進展があった欧州にとっては、欧州通貨を円に対しても安くすることが残る大きな目標です。

 その意味では、「円安」是正は日本ばかりでなく、欧州の関心項目でもある。

"normalization process" will end soon

 一方、ドルと欧州通貨の関係に関しては、欧州の通貨関係者からいくつかの発言が出ています。ティートマイヤー・ドイツ連銀総裁は先週

 「The mark's "normalization process" against the dollar will end soon

 と述べた。いいところまで来た、ということです。

 一方、先週末にダボス(スイス)で開かれた世界経済フォーラムに出席したドイツ連銀のJohann Wilhelm Gaddum副総裁は、現在の為替相場の正常さの度合いに関し聞かれたのに対して

  no reason to talk the dollar up or down,

 と答えている。つまり現状を変える必要はなく、「ほぼ満足である」と言うこと。ただし、「(正常化の)完了が近い」「ほぼ満足」というこれらの発言は、急激な調整後の一時的なものかもしれない。財政赤字が、GDPの2.9%にまで増大している中で、ドイツが今後景気悪化、雇用悪化に対処して発動できるとしたら、金融政策と通貨政策しかなく、さらなる金融緩和と通貨安を頼りにせざるを得ない局面があるのは十分予測できるからだ。

 複雑なのは、「ほぼ満足」というドイツの現在の意向も、それが欧州全体の意志であるかというと必ずしもそうではない点。メイヤー・スイス国立銀行総裁は先週

  「スイス経済はドル高に救われている。当面は現在の金融政策を維持する。スイ
  スの景気後退は終わっていない」

 と述べている。これは、ドイツよりもスイスの景況の方がさらに悪いことの反映。フランスもスイスと同意見でしょう。ということは、欧州は全体としては依然として、従来よりは弱まったものの、「ドル高歓迎」のムードの中にある。

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 日本の立場は、一般的にはよく知られている。「円安はせっかく減り始めた対外収支の黒字を増大させ、輸入インフレを引き起こす」ので良くないというものだ。対外進出している日本の多国籍企業にとって、今までの海外戦略が逆目に出る、という事情もある。

 しかし、財政政策を出動する気がなく、金融政策面でも息詰まっている今の日本のような国が通常の状態で景気回復に抜け道を見つけようとしたら、まっさきに上がってくるのは「自国通貨安」という選択肢の筈である。そういう意味では今回のG7では、どこかの国から必ず、「日本は本当は円安を歓迎しているのではないか」という疑問が投げかけられるに違いない。日銀の情勢判断に関するコメントの中にも、「円安は全体としては、日本経済にプラスである」という表現が出ている。むろんこのコメントは、「円安の影響で、対外収支の動向に変化が見られる」というコメントを逆サイドに配置してはあるものの。

 いくら原材料の輸入が多いと言っても、これだけデフレ圧力が強い国が、多少の円安でインフレになるとはとても思えないし、対外収支の黒字も基調的には依然として減少基調である。仮に日本が、このままでは円が相当安くなることを先に読んで、「競争的切り下げを行っている」との非難を避けるために、早めに「円安阻止」の方針を打ち出していたとしたら、それは相当高等戦術だったといえる。

G7 will try to stabilize forex here

 むしろ、日本の通貨当局にとって心配だったのはドル・円のそのときそのときのレベルよりも、「歯止めなき円安」発生の危険性である可能性が高い。日本の一部機関投資家のドル買い遅れや、「外債買いの成功体験の積み上がり」がもたらすドルなど外貨へのスパイラル的需要増大を予測すれば、日本経済全体にとってalarmingで、足早な円安が進む危険性があるからだ。強い悲観論を伴った円安は、株価にも、景気にも打撃になる。

 日本の何人かの通貨当局者は、ニュアンスの違いこそあれ110円プラス・マイナス5円の為替相場が妥当だという表現をしている。しかし、今回のG7でドル全体について「ドル高反転合意」ができる可能性は少ないとみたい。95年4月25日のG7での「(ドル相場の)秩序ある反転」(orderly reversal)方針を今の時点で180度ひっくり返すには、各国の思惑は一致しないと見る。メリットを受ける国があまりにも少ないからだ。85年のプラザ合意の時は、参加国の思惑が一致した。

 「ドル・円」に絞った「ドル反転合意」の可能性はどうだろ。仮にドル・マルク相場が現状(1.6350マルク)のまま、ドル・円だけが急落して110円になったら、マルク・円は67円30銭で、日本はドル・円で、欧州諸国はマルク・円で喜ぶ。

 しかしこれは、ドルの他の通貨との関係、他の市場との関係の複雑なつながりを無視した意見だ。アメリカも喜ばないにちがいない。GDP統計を受けてやっと落ち着きだした米債市場も、動揺する。

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 結局、一番ポイントになるのは、アメリカの立場である。これまでのところ、ルービン財務長官は

 「"A strong dollar is in the interest of the United States."

 と一貫して「強いドル」は「米国の利益」と述べている。「インフレを抑制する」「金利を引き下げる」「国民の購買力を高める」「海外の資金を流入しやすくする」などがドル高のメリットで、一方で「アメリカの産業界の輸出競争力は、多少のドル高でも揺るがない」という自信もあるという。事実、アメリカの貿易統計を見ると、同国の輸出は好調である。統計のゆがみが指摘されているものの、昨年第四・四半期の米経済成長率が年率で4.7%にも達したのは、純輸出の大幅な伸びがあったため。

 しかし、ここまでドルが急激に上げてくると、さすがに迷いも出ているに違いない。ドルがあまりにも上がれば、輸出に依存しているアメリカの企業の株価に響き、ひいては株式市場全体にも打撃になる。ドル相場の急激な反落への懸念も出てこよう。ルービン長官としては、例えば年率で数%の「穏やかなドル高の継続」を望んでいるはずだ。ドルは、過去一年間に円、マルクに対して15%近く上昇していて、かつここ一ヶ月ほど上げ足を速めている。

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 とすれば、G7の場で出てくる結論をあえて予想すれば、次のようなものになる可能性が高いと思われる。

  1. 95年4月のG7以来の「秩序ある反転」(orderly reversal )方針が、かなりの成果を生んだことをうたう
  2. その上で、最近の為替相場の変動のスピードに懸念を表明する
  3. そして、為替市場の行き過ぎた相場変動を監視し、今後の為替相場の無秩序な変動には市場で緊密に連絡をとり、協調して行動する旨を表明する

 つまり、とりあえず現状維持を狙ってみると言うもの。ただし、この程度だと直後にはドル買いが優勢になるかもしれない。

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 もっとも、G7にはいつでも意外性が伴う。今のドル高のベースとなっている95年4月のG7(25日)声明を想起してみると、事前の予想は「アメリカは何もしない」というのがエコノミスト、マスコミの圧倒的な見方だった。その予想を覆して、コミュニケには「秩序ある反転」(orderly reversal)というその後有名になる言葉が盛られた。しかし、最初の一ヶ月くらいは市場はこの言葉に関心を払わなかった。同年5月の末に、12カ国が20億ドルを使った介入をして初めて、注目した人が多かった。同年6月の中旬に行われたサミットは4年ぶりに為替に言及して、このG7声明を再確認。そしてそれが、秋からの本格的なドルのreversalに繋がる。

well-balanced

 ただし、こうした「ドルをそろそろ落ち着けたい」という当局の意図にもかかわらず、世界の資金にとってアメリカは当面もっとも投資価値のある市場であり続けそうである。

 それを端的に示したのが、先週の金曜日の日本時間の夜10時30分に発表された昨年第四・四半期のGDP統計。その主な内容は日本の新聞などで既に報じられているが、少し確認すると

  1. 成長率は4.7%で予想を上回り、96年一年間でも2.5%と95年の2.0%を上回った
  2. 高い成長率にもかかわらず、デフレーターで見た第四・四半期のインフレ率は1.4%で、前期の1.7%を下回った
  3. 成長率上昇の主因は、消費の増大(3.4%増)と、輸出の好調(25%増)

 アメリカ経済は1991年3月にリセッションから脱した後、景気拡大局面は丸6年が過ぎようとしている。今年の春からは、7年目である。アメリカの景気拡大が現在の拡大局面以上に長く続いたのは、第二次世界大戦後では「1961年から69年まで」と「1982年から1990年まで」しかない。にもかかわらず、大部分のエコノミストが「well balanced」と述べ、「まだ相当続く可能性がある」と予測しているわけで、世界中の投資家から注目を浴びても当然である。

 今のアメリカ経済では過去の常識では理解できないことがいくつか起こっている。

  1. 成長率とインフレ率の関係の希薄化(高成長でも起きないインフレ)
  2. 失業率とインフレ率との関係の希薄化(低失業率でも起きないインフレ)

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 こうした見方が強まるに連れて、アメリカの債券相場は徐々に買い進まれるものと思われる。成長率や失業率とインフレ率とのリンクが切れた背景は、「経済のグローバル化」「労働市場の変化と労働者の意識の転換」「技術革新」など。

the gospel of the U.S. model

 こうしたアメリカ経済の「理想的成長」は、スタートしたばかりのクリントン政権の閣僚にも大変な自信を与えているようです。GDP統計が発表された金曜日には、「世界経済フォーラム」がスイスのダボスで開かれていたのですが、そこに出席していた同政権の3人の閣僚は鼻高々だったらしい。

 Stiglitz大統領経済諮問委員長は、

 「It's fantastic. We have a lowest inflation in a decade. For
the next year at least there are absolutely no clouds on the
horizon.

 と述べて、先行きの懸念のなさを強調。一方、Eizenstat商務次官(国際貿易担当)は、

 「Europe's problems will not be solved alone by reducing budget
deficits.

 と述べ、「より柔軟な労働市場を含む構造改革」「一層の規制緩和」「研究開発への一段の投資」「欧州の成長余力を高めるためのその他の措置」を要請したという。説教調子である。

 サマーズ財務副長官も、

 「We have low inflation, high investment, and no financial strains

 と述べている。この会議も他の国際会議もそうですが、わずか数年前には国際会議と言えばアメリカの膨大な「双子の赤字」が議題になり、「労働者に冷たい」「企業の視点が短期的すぎる」などと欧州や日本がアメリカに説教していたのを思い返せば、隔世の感がある。なぜ短期間にこうなったかは、この間に急速に世界に普及した「技術革新」や、「資本主義のタイプの違い」がもたらしたものと考えるのが自然です。

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 もっともサマーズは「慢心」を諫めて面白いことを言っている。

  「The American system also has its social costs.

 と述べた後、「アメリカ人の成人男子のまるまる2%は、刑務所(jails or prisons)に入っている」ことを示す統計があると指摘した。「no financial strains」でも、「social strains」は充満しているということでしょうか。ただし、アメリカの犯罪率そのものは落ちてきています。

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 今週はG7以外でも、予定が多い。3日にはアメリカの全米購買部協会(NAPM)景況指数が発表になる。4日は連邦公開市場委員会(FOMC)で、6日がドイツ連銀定例理事会。同日には、ドイツでは1月の雇用統計も発表される。実数で、450万人程度に増えるとの見方が強い。12月は418万人だったから、大幅な増加。厳冬の影響などだという。「雇用」は、ドイツのアキレス腱になりつつある。政治問題化は必至。

 7日にはもう1月の米雇用統計が発表になる。日本では、経済企画庁から「月例経済報告」も出る。4日のFOMCについては、「利上げなし」でコンセンサスができている。GDPデフレーターを見ても、利上げする理由はない。利上げすれば、ドルは一段高になる。7日の雇用統計については、非農業部門就業者数の増加幅の予想は大きく割れているものの、センターは18万程度の見通しか。12月は26万2000人の大幅増加だった。
 

have a nice week

 土曜日から既に2月。その月になったと思って会社に行ったら「もう3日」というのも、確かに月日の早さを感じさせる話です。でも、本当に雨が降りませんね....と思ったら、夕べは雨でした。しかし、今年になって「これは本格的」と覚えている雨は一度くらい。夕方えらく降っていたやつです。利根川では取水制限が始まっている。

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 毎年この時期にスイスのダボスで開かれる「世界経済フォーラム」の関心事項は3つだったそうな。@日本の金融不安 A欧州の通貨統合挫折への不安 Bアメリカの株価が高すぎる事への不安――。世の中、心配しはじめると、心配しなければいけないことはいっぱいある。でも、この中では欧米のマスコミが一番取り上げているのは、@のようで、今週の英サンデー・タイムズもこの三つの「心配」を扱いながら、見出しは「Fears grow of collapse in Japan」となってました。

 この「日本が心配」という世界のマスコミの声には、日本のマスコミもちょい手を貸してますな。なにせ、日本の新聞の見出しに「The Japan is vanishing」などと載ったわけですから、海外のマスコミは当然飛びつきます。 この悲観論。グリーンスパンFED議長もちょっと驚いている様子。自分で自分に悲観してるんだから、どこかに抜け道はあるでしょう。

                     
           <ycaster@gol.com>