INTERNET EDITION

第1337号 1997年02月07日(金)

 G7から出てきた声明は、予想したとおりの内容(2月8日分のdiary参照)の、3ポイント文章でした。発表したワイゲルは、「3文章しかない。明確だ」と言っている。朝日などには、「ベルリン・メッセージ」という名が付けられたと書いてありますが、これを「3文合意」と呼ぶのも面白いかもしれない。
 ("We discussed the developments on currency and financial markets.")
 "We believe that major misalignments in exchange markets, noted in our April 1995 communique, have been corrected.”
 "We reaffirmed our views that exchange rates should reflect economic fundamentals and that excess volatility is undesirable."
 "We agreed to monitor developments on the currency markets and to coooperate as appropriate."
 ワイゲルも、フランスの蔵相も「満場一致」だったと述べている。しかし、昨日のDIARYで指摘した通り、「安定しろ」という方向性を与えない為替合意は、そもそも動くことをならい性にしている「マーケット」には無理です。「マーケット・エコノミー」を無視することになる。合意をどのように担保するかでしょうな。しかし、市場ではとりあえず当局の出方を見るために、高値警戒感が強まるでしょう。

 95年4月25日のG7合意から出てきた声明は次のようなものでした。参考までに。

 「大臣及び総裁は、為替市場における最近の動向について懸念を表明した。彼らは、また、最近の変動は、主要国における基礎的な経済状況によって正当化される水準を越えていることに合意した。彼らは、こうした変動を秩序ある形で反転させることが望ましいこと、また、そのことが国際的な貿易・投資の拡大を継続させることのより良い基礎を提供し、インフレなき持続的成長という我々の共通の目標に資するであろうということについても合意した。彼らは、更に、内外の不均衡を縮小する努力を強化するとともに、為替市場において緊密な協力を継続することに合意した。」
 詳しくはまたあとで。(9日午前9時)

G7 this weekend

 今週末土曜日にベルリンでG7(先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)を控えている中で、ドルが主に日本円に対して上げ続けた一週間でした。ドルはマルクなど欧州通貨に対しては基本的にはもちあいでしたから、この結果、円は対欧州通貨でも下げた。ポンド・円が200円に乗りましたし、マルク・円も一時75円台をつけた。ドル・円そのものも124円をつけ、今でもその近辺にいる。

 これは、G7での合意が「少なくともドルを強く押し下げるものにはならない。せいぜいドルの上昇のスピードに警告を発し、現状をフィックスしようとするだけだろう」という市場のコンセンサスに則っている。今朝読んだNando timesの「Dollar expected to be main topic at meeting of finance ministers」という記事も、その方向でした。

G7がドルを押し下げられないとしたら、投資家は「それではドルを買おう」と思うでしょう。

  1. 金利が日独よりはるかに高く、また株も堅調でアメリカの方が投資先として魅力があること
  2. 経済が堅調で、クリントン大統領の一般教書演説が「楽観論」にあふれる中で、資金を移動させることを正当化させやすいこと(資金を預けている人に対しての投資方針説明などでも)
  3. 抽象的に「魅力がある」ということだけでなく、実際に過去1年くらいの対米投資の成功体験が積み上がっていること

 などがその背景。例えば日本の投資家にとって、過去1年ほどの対外投資、具体的には対米、対英投資は、国内投資のリターンからみれば目がくらむようなものになっており、よほどの「円急騰(ドル急落)に対する恐怖」がなければ、その運用方針を変更できない環境です。今回のG7はまだその「恐怖」を振りまいていない。確かに、ドイツが置かれた環境、アメリカが置かれた環境、G7全体が置かれた世界経済の状況から考えると、今週月曜日のこのニュースで取り上げた通り、「ドル高反転合意」は難しい。ただし、G7が必ず市場の思惑の範囲内で動いてきたかというと、そうでないことは今週月曜日の号で指摘した通りです。

 アメリカにしても、対マルクで過去2年間に25%、対円で50%上昇したドルの上げとそのペースがこのまま続いて良いと考えているかどうかについては、疑問がある。ルービン財務長官の考え方はかなりよく知られており、彼は今週も「強いドルはアメリカの国益」という方針を変える意向がないことを表明しているが、少なくとも「ドル上昇のスピードに対する懸念」は持っているでしょう。それが、どういう形でG7声明に織り込まれ、行動が担保されるかです。

 なお、今朝ネット上で読んだウォール・ストリート・ジャーナルによれば、ドイツの大蔵省は以下のような記者発表をしているという。これがG7に対するドイツの基本的なスタンスと思われる。

  「"The developments of the past weeks and
months in large part represent a
normalization of the exchange rates
compared with the beginning of 1995, when
the dollar depreciated significantly
against important world currencies,
including the Deutsche mark. "
  「"This normalization of exchange
rates will have a positive impact on the
growth outlook this year."

Is Japan vanishing pessimism.......

 進む円安の中で、今週顕著になったのは「円安=日本経済だめ論」とも言える年初来の情緒的な悲観論に対する反省が出てきたことでしょう。海外の新聞に「Japan is vanishing....」(日本が消える....)としきりに引用された副見出しの日本悲観特集を組んでいた日本経済新聞は、火曜日と木曜日に、

「円レートの変化に過剰反応は禁物」(火曜日)
「クリントン演説にみなぎる楽観主義」(木曜日)

 という二本の社説を掲げている。社説を書いている人とあの特集を書いているグループの人たちとは、違うのでしょう。しかし、火曜日の社説は「冷静に考えると当面円安は経済にとってプラスである」と指摘して、「円安に日本の先行きの暗さが現れている」式の悲観論を排している。そして木曜日の「クリントン演説にみなぎる楽観主義」は、「悲観主義がみなぎる日本」への警鐘(自己警鐘 ?)として書かれているようにも見える。この社説は、

「実態以上に見えるこの(アメリカの)楽観主義が、回り回って経済を一層力強い
  ものにしているように思える」

「その意味で、自虐的とも思える悲観主義が蔓延するわが日本とは対照的だ」

と述べている。

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 アメリカのドルを考えてみれば、360円が実に80円にまでなった。1971年から1995年の24年間に渡ってです。多少通貨が下げたくらいで悲観論に立たなければならないとしたら、アメリカにとってはこの24年間は悲観論がみちみちた四半世紀だった筈です。逆に言えば、日本人はハッピーで。でも、これが逆で、アメリカは基本的には「ドル安楽観論」だった。逆に、日本は24年間の通貨高の最中もずっとほぼ一貫して「円高悲観論」だった。そして今は、「円安悲観論」。悲観論が好きなんですな。日本では「悲観論」が売れる。でも、この間ずっと世界中の人から買ってもらえる製品を作り続けて、貿易収支は黒を続けている。年間1600万人も海外に行く。人口1億2000万の国でです。そういう意味では、日本人の悲観論はポーズなのかもしれない。

 ちょっと話がずれましたが、「悲観論のスパイラル」が切れてきたことは、株式市場の株価と円レートとの関係でも見られました。円安になると輸出株の一部が買われることが何回かあった。ある国の通貨が安くなれば、その国のモノ(株、土地、賃金、物価などなど)は、他の国の投資家にとって安くなります。日本は80年代の「圧力釜経済」の中で異常の高物価の国を作った。円レートの低下は、基本的には日本という国の競争力を高めます。むろん、最後の競争力は日本人一人一人、それぞれの企業の、そして日本というシステムの競争力に依拠していますが。

 円が安くなったら、去年は日本に400万人しかこなかった外国の観光客を増やす努力をしたらどうでしょうか。日本に留学に来ている学生は助かる。円高の過程で輸出業者が出来たことが、輸入業者にできないと考えるのは、難しい。

 日本の株価の下げについても、例えば去年の12月を起点に各セクターの株価を追ってみれば、「日本の株価全体」が下げていると思うのは一部の株が大きく下げてそれが足を引っ張っているだけで、「精密機械」にしろ、「電気製品」にしろセクター別には極めてしっかりしているのは一目瞭然です。

Euro pessimism ?

 昨日発表になったドイツの雇用情勢は、予想を上回る悪化でした。今朝の新聞にかなり大きく出ているので内容はそちらに譲るとして、今週月曜日の号で予想した450万人(12月は418万人)から一段の増加。寒波という特殊要因があったにせよ、雇用情勢の悪さは隠せない。昨日定例理事会を開いたドイツ連銀は政策金利の据え置きを決めましたが、今後も利下げはドイツが切れるカードとして残るでしょう。財政の赤字は、マーストリヒトで決められた対GDPの上限である3%に限りなく近い2.9%になっている。

 G7の前に注目されるのは、日本時間の今夜10時半に発表になる今年1月の米雇用統計。非農業部門就業者数の予想は徐々に増えて23万人くらいになっているらしい。昨日発表になった新規失業保険申請者数(2月1日に終わった週)は、1万2000人減少して、32万5000人となった。アメリカの雇用情勢は引き続き強そうです。ただし、市場は「経済の強さ」「雇用の強さ」が直ちにインフレ圧力につながる、との時代遅れの考え方からは徐々に脱しつつあるように見え、リアクションも画一的なモノにはならないでしょう。

Have a nice weekend

 一年間で一番寒い時期。ちょっとオフィスを出て外に出るときも、この時期はコートを忘れない方が賢明ですね。体が冷える。そして、それが風邪の引き始めになる。今週は月火曜日に仙台におじゃましましたが、10年ぶりの大雪で在来線がとまったりと大変でした。道もびしゃびしゃで、とてもまともに歩けるような状況ではなかった。そうしたなか、東北各県から、90人という大勢の方に講演を聞きに来ていただけました。2月の中旬には名古屋、3月の初めには姫路・大阪におじゃまします。「よう使ってくれる」と思いますが、出張そのものは好きですね。講演のたびに、何を話そうかと一生懸命考える。そして、今まで見落としていたものを見つけられる。日頃会えない方々の話を聞けるのも最高です。

 東北新幹線に乗ったのは久しぶりでしたが、雪は街ではじゃまでも、電車の中から見たら綺麗でした。宮城蔵王の近くが特に。

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 クリントンの一般教書演説は、日本では「新味が少ない」と言われていますが、全文を読むとなかなかおもしろいことを言っている。一見、「ハイテクぼうやの一般教書演説」という印象がするほどハイテクとその利用、それに関する教育に重点が置かれているのですが、特徴的なのは教育を「one of the critical national security issues」とまで言い切っている点。「national security」という単語が使われているのが、彼が大まじめなことを示している。

 規制緩和を進め、活力を民間に移し....としたら、平和の中で国家がやれることは福祉と教育しかなくなる、という考え方。「福祉」については、支給対象になる人の数を減らそうとしている。企業に福祉の対象となっている人を雇ってもらったりと言うことで。

 8才人口の4割が読み書きができない、成人でも読み書きの能力に問題がある人が多いという深刻な状態であるからこそ「教育」をこれほど重視している面もあるのでしょうが、

  1. 8才児が全員読み書きが出来るようにする
  2. 12才でインタネットにログオンできるようにする
  3. 18才で誰もが大学に行く
  4. アメリカ人が誰でも生涯教育を受けられる

 という具体的な目標まで挙げているのがおもしろい。クリントンは、数々のスキャンダルにもかかわらず、「教育大統領」「ハイテク大統領」として歴史に残ろうとしている。

                    
           <ycaster@gol.com>