INTERNET EDITION

  第1338号 1997年02月10日(月)

three sentences-clear .....Waigel

 ベルリンで行われた先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議(G7)は、1995年4月25日のG7で決めた以下の方針に対して、3点の合意事項を持って「(ドルの)秩序ある反転プロセス」の終了を宣言しました。

 「大臣及び総裁は、為替市場における最近の動向について懸念を表明した。彼らは、また、最近の変動は、主要国における基礎的な経済状況によって正当化される水準を越えていることに合意した。彼らは、こうした変動を秩序ある形で反転させることが望ましいこと、また、そのことが国際的な貿易・投資の拡大を継続させることのより良い基礎を提供し、インフレなき持続的成長という我々の共通の目標に資するであろうということについても合意した。彼らは、更に、内外の不均衡を縮小する努力を強化するとともに、為替市場において緊密な協力を継続することに合意した。」

 この95年4月25日合意を、以下のように変更しました。

        ↓                ↓

  1. 我々は、1995年4月のコミュニケで指摘した外国為替相場の大幅な不均衡(major misalignments)が是正されたと信ずる
  2. 為替レートは経済の基礎的諸条件を反映すべきであり、過度な変動(excessive volatility)は望ましくないとの我々の考え方を再確認した
  3. 我々は外国為替市場の動向を監視し、それが妥当なときには協力する

 1995年4月のこのG7の直前につけた為替相場は、ドルの史上最安値(ドル・円では79円75銭、ドル・マルクでは1ドル=1.34ドル台)でした。それが先週末現在で、ドル・円は123−4円台の前半、ドル・マルクは、1.65マルク台(ともに先週末のニューヨーク引け段階)になった。そして、このG7を受けた今朝のシドニー外国為替市場では、ドル・円は120円台のロー、ドル・マルクは1.63マルク台となったあと、東京市場の朝は122円台、1.64マルク台と激しい動きとなっている。しばらく、市場は上下に激しく振れるでしょう。

 金曜日の米東部時間の午後にルービン財務長官が、「「強いドルはアメリカの国益にかなうと信ずる」と述べたあとに、

We've had a strong dollar for some time now. Some G7 countries have expressed concern about the recent declines in their currencies. We look forward to discussing these issues in Germany.」と述べるまでは、「先進国間の合意は無理」と見られていたG7が、この「3点合意」(一部では“ベルリン・メッセージ”と呼ばれている)に至った経緯は、やはり

  1. ここに来てのドルの上昇ペースの加速と、その結末に対する懸念
  2. アメリカ国内でも、主にメイン・ストリート(自動車、鉄鋼など伝統的産業)からの不満
  3. 日本など一部の国の要請に応える必要性

 などアメリカの事情が大きかったのでしょう。むろん、欧州も基調ドル高を望みながらも、「これ以上の為替の変動は、統一通貨実現にも障害」と考えた。当レターでは、ずっとG7を契機にアメリカの対ドル政策が変更になる可能性を指摘してきましたが、やはり最近のドルの上昇はアメリカにとっても「too far too fast」だったということです。

they don't want persistent lower dollar

 しかしこの声明は、「秩序ある反転」(orderly reversal)を「もう一度(ドル安の方向に)反転させる方針」を示してはいません。つまり、ドルに「現状で安定せよ」と言っている。G7後にいろいろな形で喋っている各国蔵相・中央銀行総裁の発言を聞いても、「現状が良い」とのスタンス。

 アメリカは、「金利を引き下げる」「インフレ率を引き下げる」という「ドル高のメリット」(ルービン財務長官)を熟知しているだけに、決してドルの持続的な下げを望まないし、それは強い通貨に悩み、自国通貨安にして競争力を高めたい欧州も同じ。日本も現状程度なら「景気全般に対してはプラス」という判断。今の世界各国が置かれた環境とすれば、「為替相場の現状維持」は、各国にとってもっとも望ましい。

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 プラザ合意にしろ、95年4月のG7合意にしろ、あとあと大きく思い出される「為替合意」は、相場に方向性を与えたものです。プラザはドル安、95年4月のG7合意は、「ドル反転」。方向性を与えられると、投資方針も立て易いし、マーケットも動きやすくなる。

 87年の2月に「ルーブル合意」というのもありました。プラザ以降のドル安に歯止めをかけようとした合意ですが、この合意は影が薄い。なぜなら、今回と同じく「もう十分。止まって」という合意で、動くことをならい性にしている市場はとまどうのです。明日から何をしたら良いか。ですから第一印象としては、この合意しかしようがなかったということは分かるにせよ、先進7カ国は非常に困難な道を選んだ印象が強い。ドルが本当に動かないとしたら、それは金利で高く、資産市場も活発なアメリカに資金を置いた方が有利という環境は変わらないわけですから、やはり資金はアメリカに集まりやすくなる。だから、週末に読んだ今週一週間に対するあちこちの相場見通しにも、「ドルはまだ上がる」という意見が多い。

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 しかしもう一歩踏み込んで考えてみると、名うてのトレーダーだったルービンや、「orderly reversal」を演出してきた日本や欧州の各国通貨当局が、この程度のことを知らないはずはない。ということは「安定」をうたいながらも、ドルを安心して買える環境をいつかの時点で意図的に壊してくる可能性が強い、ということです。介入は市場を恐れさせ、疑心暗鬼にしなくてはならない。今回のG7は、先進各国中央銀行に、「過度な変動」「ファンダメンタルズに沿わない変動」には手段を講ずるお墨付きを与えた。これは、少し前の号にも書きましたが、95年4月の「orderly reversal」合意は、最初市場から「この程度か」とあまり相手にされなかった。今でこそ思い出す人が多いものの。実際に、合意からしばらくは当局は目立った動きをしなかった。初めて各国当局が大きく動いたのは、5月下旬の12カ国による大規模介入です。そして、その時点からドルの「orderly reversal」が始まっている。今回も、市場と中央銀行との綱引きは続くでしょう。

 今回の「orderly reversalは終わった」合意に関して特徴的なのは、各国の首脳がG7直前のアメリカの姿勢変化、今回のG7での合意を、「極めて真剣にとらえるべきだ」と述べている点。イギリスの蔵相によれば、具体的な介入の方法やレベルに関しては「話し合いもされなかった」というが、当然ここまで合意した7カ国の威信を保つためにも、メニューとして用意されているでしょう。ドル・円相場の適正水準についての昨年秋からの日本の通貨当局者(三塚蔵相、小川大蔵次官、榊原局長など)の発言を見ると、「110円台の半ば」を意識しているように見える。

 なお、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストによると、ルービン財務長官はG7を前にしたワシントンでの記者会見で、「for some time now」のフレーズを、各回ごとに強調しながら、記者会見の間に合計4回使ったという。これは、ドルの上げがやや行きすぎるまでに達したと考えている証拠でしょう。

fragile economy and banking system

 G7で特徴的だったのは、日本の「脆弱な経済と金融システム」(fragile economy and banking system)に対する懸念がアメリカなどから明確な形で表明されたこと。ルービンは、この点について

 「They clearly have difficult issues to deal with. These concerns merit a fair bit of
 attention going forward.

 と述べている。アメリカは明らかに、日本の経済、およびシステムの行き詰まりの危険性と、それが自国経済と世界経済に及ぼす悪影響を懸念している。「円安の歯止め」に同意したことも、日本サイドに景気の回復と金融システム不安の早期除去を求める気持ちが強かったためと思われる。

 ある米政府高官はロイター通信に対して、

 It is real possibility that this would require further action on the part of  
 Japan

 と述べて、財政引き締めなどで景気見通しが悪化している問題に関して、日本の新たな措置を求めている。この点は、日本でも論議が盛んに行われているだけに、今後政策サイドにどう反映されるか見守る必要がある。最後の「為替対策」は、結局のところ日本に資金を入れたくなる環境を作る、ということでしょうから。

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 金曜日の午後にドルが大きく高値から反落する中でその動向が注目されたニューヨークの株、債券市場ですが、株はダウで82.74ドル上昇して6855.80ドルと、史上最高値にあと26ドルのところまで上昇した。IBMなどの株価好調が、ダウ平均を押し上げた。

一方、30年債は雇用統計発表の直後に大きく値をのばしたものの、金曜日の午後のルービン発言(We've had a strong dollar for some time now)でドルが急落する中で、高値からは反落。しかし、午前の上げ分の一部は残して利回りで6.69%と、木曜日の6.75%からは低下して終わった。

 雇用統計の内容は既にかなりメディアに出ていますから詳述は避けますが、最終的な見方としては「経済は強いが、インフレ圧力はない」というもの。非農業部門就業者数の大幅な伸び(27万1000人)にも関わらず、賃金の上げは小さく、雇用サイドからのインフレ圧力は小さいことを証明した。

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 今週の主な予定は、

10日(月曜日)     1月の日本の卸売物価
             96年と同年12月の国際収支(大蔵省)
             12月の機械受注

13日(木曜日)     1月の米小売売上高

14日(金曜日)     1月の米鉱工業生産・設備稼働率
             1月の米卸売物価

 火、水、木と3、10、30年の米国債入札がある。

have a nice week

 G7などがあって、気ぜわしい週末でした。今朝も天気が良い。日曜日には、親戚の法事が品川のお寺であったのですが、そのお寺が東京マラソンのコース沿いにあって、警備や観客でかなりにぎわっていました。マラソンは、タクシーのラジオで聞いただけで見てないのですが、アナウンサーの声がちょっと興奮気味でしたね。何年ぶりかで日本のランナーが優勝した、しかもシード選手ではないというのが良かった。

 今朝は、テレビ東京の内山さんに引っぱり出されて朝6時15分からの「マーケット・ライブ」に出ましたが、アナウンサーの吉野さんはテレビで見るより実物がいいですね。笑顔がかわいい。もっとも、朝4時半起きというのは、なかなかつらい。明日は休み。ちょっと楽ですね。皆様には、良い一週間を。          

                    
           <ycaster@gol.com>