INTERNET EDITION

  第1339号 1997年02月14日(金)

Dow ..... over 7000

 今週の最大のニュースと言えば、ニューヨーク株のダウ工業株30種平均での7000ドル台乗せでしょう。13日のニューヨーク時間の午後になって買いが強まる中で、株価は大きく上昇、午後3時半ごろ7000ドル台に乗せた。その後も続伸、引値は60ドル81セント高の7022.44ドル。6000ドルに乗ってからわずか4ヶ月後。5000ドルから6000ドルに上昇するのには11ヶ月かかっていますから、上げのペースは加速している。過去2日間の上げ幅は170ドル前後に達した。

 米経済の順調な拡大に対する確信、企業業績の伸びに対する期待などが株価上昇の背景。こうした見方を背景に、「市場には大量の資金が流入している」(市場関係者)との見方が多い。ダウばかりでなく、他の指標も大幅に上昇しており、Standard & Poor's 500-stock index9.06ドル上昇して、811.83ドルの史上最高、New York Stock Exchange Composite Index 4.54ドル高の424.42ドル。上げ銘柄1,722に対して、下げ銘柄828で、出来高は、5億8810万株。

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 米経済にみなぎる楽観論は、日本のマスコミではあまり大きく扱われなかった大統領経済報告を見れば明らかです。英ファイナンシャル・タイムズの表現を借りれば、

 「The US economy is set to continue at its current strong
rates of growth and job creation, and there is no risk
of a resurgence in inflation in the foreseeable future.

というのが経済報告のメッセージであり、楽観論に満ちている。少し内容を拾ってみると、

  1. 現在の拡大は、今後少なくとも5年間は持続可能である
  2. 今のアメリカ経済は、過去数十年で一番強い
  3. 米経済が低インフレと低失業率を持続できる可能性は、過去10年でもっとも高まっている

 などなど。米経済は過去5年間で1100万以上の職を生み出して失業率を5.4%に引き下げる一方で、消費者物価指数を3%を下回る水準に押し下げたままで推移しました。それが、本当にあと5年続くとしたら、それはやはり企業業績の拡大見通し、経済の成長見通しにつながるでしょう。

 こうした、見方が株価上昇の背景にある。株価を引っ張っているのは、ハイテク株などです。アメリカが、世界の市場で覇権を握っている企業群。なお、日本の株この数日間上げ基調ですが、欧州の株も、アジアの株も上げ基調で、株は世界的に高値追いになっている。

"some degree of rational exuberance"

 この大統領経済報告の、「低インフレ、低失業率持続見通し」は、グリーンスパン連邦準備制度理事会議長の公表された見方とは食い違うものです。同議長は、繰り返し「現在の低インフレ・低失業率の組み合わせは、一時的なものである可能性がある」と述べている。むろん、同議長としてはそうとしか言えない、という事情もあるかも知れませんが。 

 また、連邦準備制度理事会が現在の株価の急ピッチの上げに懸念を抱いているのは、間違いありません。先週金曜日に発表された前回12月の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録によれば、委員達が強く株価の上昇に懸念をもっていることが示されている。過去においては、5.7%を下回る失業率が一定期間持続すると、FEDの利上げを誘うような強い賃金上昇圧力が生じていた。

 しかし、クリントン政権は楽観的です。Stiglitz大統領経済諮問委員長は、

"Profits have been very, very high, the underlying
fundamentals of the economy are very, very strong,
interest rates are low. Those factors are consistent with a strong
market."

 と述べている。つまり、「これだけ経済や企業業績が良く、金利が低ければ、マーケットが強いのは首尾一貫しているだろう」というわけです。同委員長は、勢いに乗って、グリーンスパンが昨年末に、ダイレクトな形ではないもののニューヨークの株価の "irrational exuberance".の危険性に触れたのに対して、

 There are "some degree of rational exuberance" in the US economy.

と述べている。

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 昨日の市場では、債券相場も大幅に上昇しました。今のところ、グリーンスパンよりも大統領経済諮問委員長の方に、マーケットの動きは味方しているように見える。直接的背景は、昨日の30年債で一連の国債入札が終わり、しかも入札結果が良かったこと、あと小売売上高統計(全体が0.6%の増加、予想は0.7の増加だった)がマーケットが好感できるものだったことが背景。指標30年債の利回りは、6.63%と前日の6.70%から大幅に下落。

 個人的には、先週土曜日のG7以降のニューヨークの債券、株式市場に注目していたのですが、まったくドルの先行きに関しては懸念はなかったようです。むろん、ドルが堅調推移したと言うこともありますが。今週読んだネット上のニュースに、ニューヨークの株があまりにも上がるので、過去の株価基準があわなくなって、新しいvaluation手法が登場している、というのがあった。1980年代の後半の日本もそうでした。市場を取り巻く経済環境は違いますが。

Monetary authorities................only using words

 外国為替市場では、ドルが一貫して堅調に推移しました。「アメリカに資金を置いた方が投資効率が良い。儲かる」という事情がまったく変わっていないのと、日独経済を覆う悲観論に対して、アメリカが楽観論に満ち満ちているのを見れば、成功体験の積み上がりもあって、アメリカに資金が集まりやすいのは当然です。事実今週の市場に限って言うと、ドルを「buy on dips」した人の勝ち。

 これに対して、各国の通貨当局者は「言葉」をもってドルの一段の上昇に警告を発している。昨日だけでも、いくつかの「言葉」が飛び交った。バンコク出張中のドイツ連銀のJohann Wilhelm Gaddum副総裁は、

 「"It is not in the interests of the Bundesbank that
the dollar go further and further.

 と述べた。この発言までは、ドル・円に比較して、「マルク安は本当のところはドイツの当局も望むところであり、マルクは売れる」と読んでいた市場に比較的大きな打撃を与えましたが、この発言に伴うドルの対マルクでの下げも持続的な力を持ちえなかった。マルクについては、「ある高官がマルクは1.70−1.75マルクが妥当だと言った」といった報道が流れたこともありましたが、これに対してドイツ政府として正式な否定声明を出した場面もあった。

 一方、他のドイツ当局者の発言としては、ティートマイヤー総裁が

 「"The mark was too strong in the past two years.
 The recent weakening of the mark is a process
of correction, which also involves the mark
losing ground against the Swiss franc.

 と述べている。また、日米でも、ドルの上げに対する当局の発言が続いた。ルービンは、G7の直前の,

We've had a strong dollar for some time now.

 を繰り返しましたし、日本の通貨当局も一段のドル高に懸念を表明している。市場も、当局の懸念表明には敬意を払っているようで、ドル・円では125円、ドル・マルクでは1.7マルクがとりあえずのドル上限になっているようです。このままドルが上げれば、G7の権威失墜となりますから介入をしてくるのは目に見えていますが、それは前回のレポートでも指摘しているとおり、当局としては「最も市場にインパクトがある形」での実施を狙うことになるでしょう。過去の例で言うと、介入が始まった当初は市場はこれに強く対抗しようとする。

have a nice weekend

 今週も良い天気が続きました。しかし、日照時間も長くなったし、日差しも若干強くなっている。もうちょいですな。春になるのは。

 昨日はおもしろいパーティーに出席しましたね。「還暦前夜祭ディナーショー」。三原淳雄さんのそれで、赤坂東急に180人程度を集めて。「変なパーティーだな」と思って行ったのですが、良かったしおもしろかった。大勢で無事年をとれたことを祝うなんて、おもしろいじゃないですか。経済には、「祭り」が必要で、「これは祭りになる」と思いました。小池ユリ子さんとか、宮尾尊弘さんとか顔ぶれも多彩でした。テレビ番組の関係の人たちもいっぱいきていて懐かしかった。

 それでは、皆様には良い週末を。来週は、月曜日が名古屋でファックス版のこのニュースは多分ないと思います。                 

                    
           <ycaster@gol.com>