INTERNET EDITION

  第1341号 1997年02月28日(金)

Greenspan : a risk preacher

 そうだ。彼は名前をRedspanに変えるべきだ。その方が、彼の「リスク説法」に効果があるかもしれない。
Greenだからみんな「渡ろう」とする。でももう「皆さん、そろそろ赤信号ですよ....」と。そうすれば、ニューヨーク・タイムズにWhen the Fed speaks, Investors don't listenなんて書かれなくて済むかもしれない。

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 日本時間27早朝のグリーンスパン連邦準備制度理事会(FED)議長の議会証言をつらつら読み返しながら、議長言うところのbenign economic environment」(極めて理想的な経済環境)な今のアメリカで、「リスクの在処」を真剣に考えているという意味では、やはりこの人が筆頭だろうと思いました。彼は、

「(過去15年でリセッションは6年前の一度しかなかったが)景気循環が消えたわけではない。いつの日か、政策担当者や金融市場関係者がともに見過ごすか、既に見過ごした環境変化によって、新たなリセッションは間違いなく起きるであろう」

「インフレも、労働者の職維持に対する不安感、コンピューターなど新技術の進展・普及、グローバル・コンペティション、国内の規制緩和などによって押さえられているが、こうした好環境は一時的なものかもしれない。従って、インフレ再燃の兆候が出れば、金融政策はその効果がラグしがちだから、pre-emptiveに引き締めを行う」

 と一生懸命「リスクの所在」を説いている。私が、彼にrisk preacherの称号を与えるのは、こうした背景からです。

warning to the markets

 大部分のマスコミは「グリーンスパンは株に警告」となっていますが、証言をよく読むと彼は三つの金融環境に警告を発している。

  1. 株価=現在のvaluationが必ずしも不当だとは言っていないものの、過去2年間の上昇ペースには不快感を表明
  2. 債券間の利回り縮小=ほぼリスク・フリーの財務省証券とhigh-risk, high-returnの“junk bondとの間の spreadが小さすぎると指摘
  3. 大企業に融資をしたいがための銀行の a.担保掛け目の引き下げ b.借り入れコストを引き下げるためのその他の措置

 を挙げている。つまり、あまりにも良い経済状態が続いているが故に、投資家も、銀行も「適切なリスク・プレミアムを取っていないのではないか」と警告しているのです。「リスク・プレミアム」を見直せと。

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 グリーンスパンは証言の最後の方で、「(私がこうした警告をするのは)アメリカ国民が最大限の繁栄を享受できる金融環境を持続させるためである」と述べている。つまり、現在の環境が概ね良好なことを認めながら、それを「株価上げ過ぎの反動による暴落」「ジャンク債バブルとその後遺症」「銀行の安易な融資とそのつけ」などによって、破壊したくないと言っているわけです。投資対象の急激な値下がりの後には、必ず「膨大な債務」が残る。その債務が、その後の経済の回復の足かせになる。今の日本もそうです。

 この三つのリスクの中で、グリーンスパンが今回の証言でターゲットに選んだのは「株」でした。彼は、12月05日の講演での疑問であった

 「"...how do we know when irrational exuberance has unduly escalated asset values, which then become subject to unexpected and prolonged contractions ...?"
 を今回もう一度繰り返したあとで、
Is it possible that there is something fundamentally new about this
current period that would warrant such complacency? Yes, it is
possible. Markets may have become more efficient, competition is
more global, and information technology has doubtless enhanced the
stability of business operations. But, regrettably, history is
strewn with visions of such "new eras" that, in the end, have proven
to be a mirage. In short, history counsels caution.
 Such caution seems especially warranted with regard to the sharp
rise in equity prices during the past two years. These gains have
obviously raised questions of sustainability

 と述べている。日本にも80年代にいろいろ「株価新時代」を吹聴する理論が登場しましたよね。中には、「7万円になってもおかしくない」という人がいた。理屈は抜きにして、やはり相場がそこに行かなかったというのは、「新理論」が間違っていたんでしょう。今のニューヨーク市場でも、最近読んだ記事などによれば「new eras」論が結構出てきている。

but investors don't listen

 しかしどうでしょうか。投資家はあまり聞く耳を持っていないかのように見える。過去2日間の下げも併せてせいぜい100ドル強。7000の100ですから、1.4%。

 なぜ投資家は聞く耳を持たないのか。第一は、グリーンスパンが言うほど、市場参加者は株価がover-valuationだとも考えていないし、たとえそう思っていたとしてもそれはminorだと考えていることでしょう。

 第二は、要するに株式投資は「結果」だということでしょう。株に慎重になったファンド・マネージャーの成績は、少なくとも過去2年間は悲惨です。相対的に。「不安だが、full-investmentだ」という運用担当者は、いっぱいいる。

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 グリーンスパンも、今の株価について「絶対に不当だ」と言っているわけではない。

It is not that we have a firm view that equity prices are
necessarily excessive right now or risk spreads patently too low.

 と述べている。紹介した英文の中にもあったが、株価がnew eraに入った可能性として、グリーンスパンは「市場が効率性を高めたこと」「世界的な市場の登場と競争」「情報革命」の三点を挙げていた。

 また、株価についても今の長期金利(発言直前時は6.55%程度)に加えて、企業の収益目標が極めて強くあり続けるなら、valuationは正当化されうるとしてしており、必ずしも今現在の株価の水準を問題だと言っているわけではない。ただし、「こうした環境が変化する危険性をどの程度お考えになっているのですか」と問いただし、過去2年間の上げペースはextraordinaryだとしているわけである。

 こうしたことを考慮すれば、彼の「株への警告」が直ちに「利上げ」につながると考えるのは間違っていると思います。すくなくともグリーンスパン議長は、「自分が警告している間に、株価が調整してくれれば良い。債券投資家も、銀行も適切なリスク・プレミアムを取るようにしてくれれば良い」と考えているに違いありません。当面は、「様子見」だと考えます。

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 ニューヨーク・タイムズによれば、本来金利、通貨供給量、財政、雇用などに関心を集中している連邦準備制度理事会が、株価に関して警告(または“らしきもの”)を発したのは、過去2回しかないという。1929年と1965年。直後には株価は下がったものの、その後しばらくして高値を更新。1929年の場合は、警告前より8.4%上がったところでピーク、1965年の場合は19.2%上がったところでピーク。そのピークをつけたのは、FEDからの「警告」から7〜8ヶ月たった時だったという。もしこれが例になれば、今回は今年の秋から冬にかけてか ?

 その後はどうなったか。この記事によれば1965年の場合、当時のマーチンFED議長の警告から8ヶ月後にニューヨーク株はダウでピークの1000ドル弱になったあと急落、この1000ドルのレベルに永遠にお別れを告げることになったのは1982年になってからだという。

 私は昨日の日中にネット上で読みましたから、新聞紙ではどこにどう出ているか知りませんが、このニューヨーク・タイムズの記事は非常に面白い。インターネット上では、

http://www.nytimes.com/yr/mo/day/news/financial/fed-assess.htmlです。ご興味のある方はお読み下さい。為替カスタマーにも渡しておきます。

occupational responsibility is to stay on the lookout for trouble

 グリーンスパン議長は、本来の職分であるインフレについても述べている。まとめると以下です。インフレに対する見方は、昨年末から変わっていない。株に対する警告の度合いは明らかに変わりましたが。

1.(景気好調の中でも)インフレ抑制に役立っていた要因
   労働者の職維持に対する不安感
   コンピューターなどの新技術の進展・普及
   グローバル・コンペティション
   国内の規制緩和

2.上記要因は「一時的」である危険性
  労働者は自信を深めている
  労働賃金も上昇気配

3.よって予防的(PREEMPTIVE)引き締めも

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 というもの。しかし、グリーンスパンは「インフレ抑制に役立っていた要因」は「一時的なものである可能性がある」と指摘しながらも、実はかなり持続的なものと考えているのではないかと思われます。

 彼の立場で「インフレは心配ない」などと言えるわけがない。ですからいつでも、「インフレは心配だ」と述べます。彼が「(景気好調の中でも)インフレ抑制に役立っていた要因」として挙げているものが、グリーンスパン議長が言うように「一時的」とも思えない。今後は「労働者の職維持に対する不安感」の強弱が、の連邦準備制度理事会の政策を占う上で極めて重要になってくるでしょう。それを図る単体での良い指標はないでしょうが、まあ労働者が「もう安心」と「大幅な賃上」を要求し始めて、それが通り始めたら、状況は変わってきたと言えるでしょう。しかし、私の予想ではまだこれは先のことのように思えます。

 彼は言っています、

a central banker's occupational responsibility is to stay on the lookout for trouble

 だと。今彼がもっとも「troubleだ」と思っているのは、「株」でしょう。

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 株に対する強い警告や、インフレに対する「職業的警戒感」を除けば、グリーンスパン議長は米経済に極めて強気です。彼のエンディングの言葉はおもしろい。

 「 I must admit that our economic prospects in general are quite favorable.
The flexibility of our market system and the vibrancy of our private
sector remain examples for the whole world to emulate..

 斜線の部分などは、クリントンでも言わない。グリーンスパンのアンドレアさんとの結婚式は、確か4月6日です。実は、彼の心の中は「exuberance」であるのかもしれない。今のアメリカ経済のように。数字で見ると、米経済の現状と先行きについては、「CPI伸び率=2.75−3.0%」「失業率=5.25−5.5%」「実質GDP伸び率=2.0−2.25%」というのが見通し。

yen is regaining its strength

 ドルは今週、特に円に対して軟調に推移しました。円は、対ドルばかりでなく、対欧州通貨でも大幅に上昇。根底にあるのは、

  1. 125円近くまで円を売ったexuberanceへの反省
  2. 「一辺倒な日本悲観論」「日本売り仮説」の後退
  3. 日本の強さ見直しの空気と、改革や手術に対する楽観論の台頭
  4. 期末を控えた利益確定の外貨売り
  5. くすぶる日米貿易摩擦

 などでしょうか。「日米貿易摩擦」に関しては、今朝のウォール・ストリート・ジャーナルなどには日本の港での荷役問題を巡る日米紛争が「ドル安の原因」などと出ている。しかしこれまでも指摘してきたとおり、2月08日のベルリンG7を契機に、それまでの「円売り一辺倒」という流れが、大きく変わったと考えるのが妥当です。昨日も、トライした120円のレベルを抜けずにドルがいったん戻ってきていますが、向こう2週間くらいでは120円を割るケースもあるでしょう。ただし、一方的な円高にもならないでしょうが。

have a nice weekend

 去年の末に続いて、今週初めは風邪でダウンしていました。昨日の12チャンネルの朝6時15分からの「マーケット・ライブ」(フォーカスじゃないですね)も、ひどい声で聞き難かったのではないかと思います。失礼。結構あの番組に出るのは、つらいんですね。5時には車が迎えに来ますから、それまでにグリーンスパン証言の場合は、全文を読まないといけない。以前は、ニューヨークの支店やテレビ局に送ってもらっていた。今は楽です。インターネットで連邦準備制度理事会のページに渡って直ぐとれる。しかも夜は回線が安い。便利です。

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 ところで、今週は面白いジョークを送って下さった方がいましたね。私のインターネットのホームページ(http://www2.gol.com/users/ycaster)にジョークのコーナーがあって、その人はまだアクセスできないものですからファックスで送ってやったら、ナイスなリターン。眠らせてしまうのは、もったいない。よって紹介します。

グリーンスパンFED議長とガールフレンドの会話

(グリーンスパン) 今日は、是非話したいことがあるんだ。

(ガールフレンド) 何かしら、アラン。

(グリーンスパン) この私でさえ、貴方と私の関係に関する見通しがかつてない

          ほど良好であることは認めざるを得ない。

(ガールフレンド) ?

(グリーンスパン) 貴方に対する私の感情が、不合理な熱狂(irrational

          exuberance)であるか否かという問題についての答えは未だ

          出ていないが、私たちはこの問題をこれからもテーブルの上

          に乗せていかねばならないだろう。

(ガールフレンド) ?

   

 彼女が帰ったあと、グリーンスパン議長の独白

(グリーンスパン) ああ、あんなにはっきりとプロボーズしたのに、彼女は「イ

          エス」と言ってくれなかった。僕の何が悪いんだろう。

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 アンドレアさんには、議長のメッセージは伝わっている。とすると、頭が悪い、またはセンスのない「彼女」は「.o○市場」の方々の事かな.o○ .o○ .o○ 

 ではでは。今週末が皆さんにとって、良い週末でありますように。

  

                 

                    
           <ycaster@gol.com>