INTERNET EDITION

  第1342号 1997年03月03日(月)

 3月7日のNews and analysisは筆者出張中のため、ありません。次号は3月10日号の予定ですが、今週のポイントしては @欧州、特にドイツの景況悪化とその為替相場への波及 A円相場に関しては、日本の貿易黒字に対するアメリカの懸念増大をそれに関する発言ーーということでしょう。その結果として、欧州通貨・円が大幅に円高に移行した。週初はドル安観測が強かったことは月曜日のNews and analysisで指摘しましたが、そこでも指摘したとおり相場観が一致したときは気をつけた方が良い。今週は、その例でした。しかし、「ドルの対円の頭は重いだろう」という観測は当たっている。

 ドイツの景況悪化と、株式市場の高値更新については「奇妙なこと」(NHKテレビの解説者の言)という受け止め方もあるようですが、失業者の増大は見方によれば企業のリストラの進展ともとれる。相場は常に、「先取り」が原則です。また、上げ一服したニューヨークからの資金の流入もあるでしょう。今週の締めくくりは、7日夜の米雇用統計ですが、非農業部門就業者数については予想が上方修正されているようです。米利上げ観測が強まっているようですが、筆者は依然として「利上げ発言」も、FEDの株式市場との「 a tug of war」(綱引き)の一環だと考えています。


more pressure on the dollar ? 》

 週末の海外要人の発言で注目されたのは二つでした。

  1. 日本の内需中心の景気回復を要望した中でのサマーズ財務副長官の、「日本の黒字の再拡大は許されない」との発言
  2. ドイツがG7(97年2月8日)以降マルク安に反対している理由として、ティートマイヤー・ドイツ連銀総裁が「マルク安が通貨統合後のユーロ安につながる危険性」を指摘

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 でしょうか。前者は、ニューヨークの午後にかけてドルが大きく下げる原因になった。G7の時のスタンスもそうですが、アメリカとしては日本の景気回復はあくまで内需主導ですべきであって、そのためには財政の出動や規制緩和を求めるという姿勢です。日本での議論がどちらかと言えば財政再建に向いているのが気にくわないのでしょうが、それを最初から言っては内政干渉になる。従って、「対米黒字が増えるような形での日本の外需主導の景気回復はアメリカとして許容できない」と言って、「内需主導が望ましい」と間接的に言っているわけです。

 アメリカの国内経済運営面では、ドル高が良いという意見は強いものの、株もそうですが、「相場の行き過ぎ」を懸念する立場から、ドル高と株高への警戒感は強くなっていると言えるでしょう。

 ティートマイヤー発言は、景気悪化に悩み、全体としてはインフレもない状況でまだマルク安を望んでいるのではないかと思われていたドイツが、最近マルク安に不快感を示している理由の有力な手がかりを示している。ブンデスは本来は、「今のドイツの景気悪化はそもそも経済構造が柔軟性を欠くという構造的なものであって、金融措置で治癒する余地は少ない」との考え方である。だから、利下げにも慎重です。特にマルク安の間は。

 今日のウォール・ストリート・ジャーナルの為替予測記事の書き出しは、

 「The tides are changing in the
currency market and for the second week in
a row the dollar is expected to lose ground
especially against the yen.

 というものですが、海外勢が注目しているのはa.日本の景気にほの見えてきた回復の兆し b.期末を控えた日本の機関投資家などのrepatriation(資金の国内への戻し)――などです。チャート的に言ってもドルは弱いとの見方が強い。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は更に

 「In general, analysts believe the market's
trend this week will be strength in the
yen. Any good news for the dollar probably
will lift it higher against the mark than
against the yen.

 と述べている。

numerous indicators

 ただし、今週発表される経済指標の多さを考えると、この一週間が終わるまでにドルの当面の方向が決まるとも思えない。一時の圧倒的なドル高観測が今週当たりから急に、「ドル下値トライ」という見方に傾いてきているのも気になります。主な予定を拾ってみても、ずらっと並ぶ。これらの指標が、まだドルの行方を右左に動かす可能性があるからです。

今週の材料

 3月3日(月)  全米購買部協会(NAPM)景況指数
          米1月の個人所得 
              消費支出
              建設支出
          フィリップFED理事講演

 3月4日(火)  環太平洋6カ国・地域金融・財政協議初会合
          米1月の景気先行指標
              新築住宅販売
          クリントン大統領記者会見

 3月5日(水)  米1月の住宅完工件数
          ブローダス・リッチモンド地区連銀総裁講演
          グリーンスパンFED議長HH法議会証言

 3月6日(木)  ドイツ連銀定例理事会
          2月のドイツ雇用統計

 3月7日(金)  日本の月例経済報告
          米2月の失業率・非農業部門就業者数

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 このうち発表される数字で注目されるのは、NAPM指数と週末の雇用統計です。2月のNAPM指数に関しては、53との予想が強い。1月は52だった。また、2月の非農業部門就業者数は、230,000人の増加予想。1月は271,000人の増加だった。この両統計について、予想より強い数字が出れば一時的にも金融引き締め観測が強まることになり、ドル買いの口実になる。

 グリーンスパン議長が、先の上院でのハンフリー・ホーキンス法に基づく議会証言で「job insecurity」を重要なインフレ指標としたことに関連して、日曜日の日経には「上院統合経済委員会に提出された報告書」を取り上げている。それによると、失業者に占める自主的退職者の比率の高まりと、インフレ率の間には偶然とは思われない「強い相関関係」があるという。景気が良くなれば、思い切って次ぎの仕事に飛び出していく人が多くなると言うことです。賃金も上昇気味になる。「job insecurity」という単語が極めて曖昧な概念しかもっていないだけに、今後この数字を含めて「具体的に何を見るか」の議論が出てこよう。

 2月26日の上院でのグリーンスパン議長の株式市場への警告以来、ニューヨークの株は三日間ダウで50ドル前後の下げを続けており、合計の下げは%にして2.3%ほどになった。株への警告は今週の下院での証言でも繰り返す可能性が強いが、この辺のa tug of war(綱引き)はしばらくの見物かもしれない。

 FEDは長期債市場に対してと同じように、株式市場に対しても間接的な調整手段しか持っていない。株価は、しばしば従来信じられてきたvaluationの算出方法の範囲を超えても上昇する。金利を上げても、「それは経済が強い証拠」という捉え方をしてまだ株を買うことだって可能である。

 週末に読んだレポートの中では、

  1. アメリカの株式ブローカーの平均年齢は28歳。最も直近の米リセッションは6年前だから、彼らは「リセッションを知らない子供達」であり、そうした連中の中から「景気循環」は無くなったというようなことをいう者も台頭してきている
  2. 株やミューチュアル・ファンドを保有する人々に、今後5年間の相場上昇が過去5年(毎年20%の上昇)よりも大幅なものになるかどうか尋ねると、「これを上回る」とするものが7〜8割いる

 というのが面白かった。グリーンスパンが誰と戦おうとしているかが分かろうというものである。ただし、グリーンスパン議長は彼らしく証言では、「100%俺が正しい」とは言い切っていない。歴史を大事にしている。

have a nice week !!

 今日は雛祭りですか。日曜日は病気見舞いで調布まで出かけたのですが、果物を買うために入ったスーパーに、お雛様に関連した花、お菓子、袋などが綺麗に飾り付けて売られていました。春らしくて、なかなか良かった。

 帰りは調布からJRの三鷹駅までの「三鷹通り」を通ったのですが、春の気配がしました。あの辺は、深大寺、神代植物園、航空宇宙技術研究所を取り巻く桜、ICUの桜などいろいろ春には楽しめるものがある。もうちょっとたったら行きたい場所ですね。

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 クローンに関する話題が多い週末でしたね。今朝の新聞には「クローン猿」が取り上げられている。世界のどこかで、「クローン人間」の実験が実は行われていたりして。不気味ですね。この話題はマスコミにも多かったし、ネットでもいろいろ取り上げられていた。全くの頼りない記憶ですが、70年代の後半に「Boy from Brazil」という名前の映画(日本語名は知りません)があって、それがヒットラーのクローンの問題をスリラー・タッチで扱っていたように覚えていますが(済みません、間違っているかも)、この問題ではフランスなどがえらく神経質になっているという。分かる気がします。

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 今朝の日経によれば、大蔵省は今日から「税関ホームページ」を開設し、貿易統計詳報や税関手続きなどの情報を提供するという。これは便利ですね。しかし、今朝「早速」と思って渡ってみましたが、大蔵省のホームページ(http://www.mof.go.jp/)には見あたらなかった。「税関ホームページ」で検索したら、「成田税関支署」というのが出てきました。まあ、夕方までには分かるでしょう。今まで貿易統計を分析するのには時間がかかった。これで楽になる。(その後http://www.mof.go.jp/~customs/と判明)

 ホームページと言えば、日本のマスコミにあまり載っていませんから紹介しますが、今月の6日にイギリス王室のインターネット上のホームページが開設されるそうです。ただし、URLはまだ未発表。URLそのものが「サプライズになる」(バッキンガム宮殿)となっていますから、ちょっと楽しみですな。

 今週は週半ばから関西出張ですから、多分金曜日のこのニュースはないと思います。皆さんには、良い一週間を。

          <ycaster@gol.com>