INTERNET EDITION

  第1343号 1997年03月10日(月)

waiting for a FOMC meeting

 今週のポイントは

  1. 3月25日の次回FOMC(連邦公開市場委員会)での0.25%の利上げ観測が高まる中で、今週出る多くの指標がこの観測を支持するかどうか、それとも逆の目が出るか
  2. 再び史上最高値(ダウでは2月18日に記録した7067.46ドル)に接近したニューヨーク株式市場が再び新値追いになるかどうか
  3. 対マルクで1.7210マルクと94年4月18日(1.7220マルク)以来の高値をつけたものの、その後は上げ足を鈍くしているドル相場の行方

  などでしょうか。

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 「利上げ」観測は、先週一週間で多くの指標がいずれも強い経済の拡大ペースを示すものだったこと、株価が再び新値に近づく中で、グリーンスパン警告を連想した市場が、
pre-emptiveな利上げを連想していることから出ているもの。

 確かに米国経済の拡大力は引き続き強い。先週金曜日に出た2月の経済活動を最も早く示す同月の雇用統計も、非農業部門就業者数は33万9000人という大幅な増加になり、失業率も5.3%に低下した。天候に恵まれて建設労働者の雇用が増加したという背景があったにせよ、経済の強さの証拠であることには変わりはない。雇用統計以外の米国の経済指標も総じて強かった。

 一方株価は、0.25%の利上げ観測を織り込むような形で、週末には7000ドル台に再び乗せてきている。今の市場は、株が上がるほどグリーンスパン議長の警告が現実化すると見ており、「利上げ観測」が強まる背景がある。

 利上げに関しては、例えばニューヨーク時間の7日の夜作成されたモルガン・ギャランティ・トラストの「Global Data Watch」は、

「今年第一・四半期の米GDP実質伸び率の見通しを2.5%から3.0%に引き上げる。強い経済指標と当局者の発言を総合すると、3月25日のFOMCでフェデラルファンド金利の誘導目標が0.25%引き上げられる可能性が高まっている」
 と述べている。同行は、景気、株価以外に、「景気が今後鈍化する兆しがほとんどみられないこと」を利上げ予想の根拠に挙げている。

some hurdles for rate raise

 しかし筆者は、今週から来週にかけて出る物価統計などをみなければ、景気が強く、株価も上昇しているからという理由で「利上げがある」との見方には、まだ無理があると見る。それはまず第一に、「景気が強くても物価・賃金は上がらない」パターンが依然として続いていることである。極めて強い雇用統計のあとに米債券相場が買われたのは、同統計でも時間当たり賃金などから見て、賃金に目立った上昇の気配が見られなかったからである。物価が落ち着いており、かつ先行きも上昇の気配がなければFEDとして利上げをする十分な理由はない。

 第二に、グリーンスパン議長は株価の上昇を懸念を示しているものの、同議長が株価の水準を調整するために利上げという行為をどの程度使えるか、またその有効性に関しては疑問が残る、という点。実際のところ、先週末の段階でニューヨークの株式市場は0.25%のフェドファンド引き上げ程度は、かなりの程度織り込んできている。

 上院の時の議会証言と違って、下院では株に対する懸念を弱めたかのような発言をしているが、これは考えてみれば当然である。FEDとして、株価のレベルと金融政策をあからさまにリンクさせることは危険である。そもそもグリーンスパン議長が言っているように、株価の水準はFEDが直接責任を持つものではないし、長期債相場と同じで短期金利の水準だけで思い通りの方向に動かせるものでもない。グリーンスパン議長は2月26日の議会証言でも述べているとおり、「企業業績が今の見通し通りに伸びるのなら、今の株価は必ずしも間違った
valuationではない」とも考えられる。

 株価と金融政策を直接リンクさせると、「ではダウ8000ドルでは、短期金利をどうするか」といった議論になってしまう。また、FEDとして「株価殺し」の利上げを事前に宣伝してしまうのは、得策でもないし、政治的にも危険である。

 グリーンスパン議長は、上院、下院の両方の証言で、「金融政策が実体経済に影響を与えるのには時には長い時間がかかり、インフレが公表数字に表れてからでは遅い」と述べており、結局は議長が現在得られる数字の傾向から将来のインフレ圧力をどの程度見ているかがポイントです。最後は、やや曖昧な「判断」の問題となる。

 今週の指標では、金曜日に出る卸売物価など、一連の数字が注目である。

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 株価の水準については、今週末も「New World」とか「New Era」とかいう単語がけっこ記事の見出しに踊っていた。グリーンスパン議長が、2月26日の議会証言で「しかし歴史が示すところによれば、こうしたnew era論は.....」と述べて警告した、その「株価新時代論」である。例えば、yahooの経済のページに載っていたロイターの記事などは、見出しは
Brave New World on Wall Street」と「brave」まで付いていた。

 もっとも、グリーンスパン議長自身も、「新時代」の可能性を否定はしていない。同議長は、株価が新時代に入ったかもしれない背景として、

  1. 市場が効率性を高めたこと
  2. 世界的な市場の登場と競争
  3. 情報革命

 の3点を上げていたが、市場の一般的な見方もこれに近い。ただし、グリーンスパン 議長と市場の「new era」に対する確信の度合いは、かなり違っている。当然ながら、グリーンスパン議長の方が、疑念が強い。結局、企業業績が一部のアナリストの予想するほどに伸び続けるかどうかです。

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 為替に関しても、0.25%程度の利上げは、既にかなり織り込んでいると思われる。従って、ドルが金利の上昇を背景に大きく上昇することは、特に対円ではないでしょう。日米の貿易収支不均衡の拡大が、再び市場で関心を集めているし、米政府高官も繰り返し「日本の黒字拡大傾向の再燃は許さない」と述べている。

 今朝のテレビ東京の「ビジネス・レーダー」で吉野さんが取り上げていたワシントン・ポストの記事は見出しは、「For Japan Inc., Beginning of the End」(「日本株式会社、終わりの始まり」)というもので、ネットワークに載っていたので読んでみましたが、最近の日本の動向を好意的に取り上げた記事。日本国内でも、今までの「日本株式会社」的やり方ではダメだとの共通認識ができつつあり、中小銀行の行き詰まり、製造業の海外からの部品調達、大炭坑の閉鎖、ディスカウンターの伸張などかつては想像もできなかった変化が起きている、という内容。日本の新聞が無いので、「何か読みたい」という向きには良いかもしれない。

 今週の主な予定は以下の通りです。

10日(月)      2月の日本の卸売物価(日本銀行)

11日(火)      1月機械受注(企画庁)
            1月の米卸売り売上高
           96年10−12月の米労働生産性

12日(水)      タンブック発表(地区連銀景況報告)

13日(木)      2月の米小売売上高
           96年10−12月の米経常収支

14日(金)      2月の米鉱工業生産・設備稼働率
            2月の米卸売物価

have a nice week !!

 だいぶ暖かくなってきました。先週は姫路・大阪に伺いましたが、特に週の後半は汗ばむほどの暖かさ。桜の開花も早まりそうとのことですが、まだまだ寒い日は来るでしょう。時間を見つけて神戸にもお伺いしましたが、ちょっと見には分からないほど回復していました。ただし、タクシーの運転手によれば、裏に入ると傷跡がまだかなり残っているそうです。神戸の街がもとの神戸らしい「つや」を取り戻すのには、もうちょっと時間がかかりそう。

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 出張から帰ると、日本銀行の長崎支店から「アジア効果で活気づく長崎」(東洋経済新報社)という本が送られてきていました。この本は、日銀長崎支店の田邊支店長以下が、同地の民間研究所などと協力して「全国に比べても明るい長崎経済の背景や長崎の有利なポジションを分析」したもの。

 そのポイントとしては、

  1. アジア効果=高度成長を続けているアジア諸国からの発電プラントや船舶といった資本財に対する根強い需要を、うまく捉えたこと
  2. 情報化効果=情報化により、日本の最西端という地理的・時間的ハンディを解消できたこと
  3. 港湾・海洋効果=巨大な保冷庫ともなる海の活用や伊万里湾の優位性

 など。長崎経済は、鉱工業生産の伸びで8年上期は前期比2割強の増加と全国一であったという。またアジアとの水平分業の中で造船、重電需要の取り込み、ハウステンボスなどでの観光客誘致に成功した結果、停滞気味の日本経済の中でも強い活力を保ち得たという。マクロから見ると今の日本経済は、あまり面白くない。ミクロが面白いのですが、この本も地域経済を論じながらも、アジアとの関係、情報化効果、それに規制緩和効果などが日本経済全体に与える影響を的確に分析しており、非常に参考になると思いました。値段も1600円ちょっとと手頃で、推薦です。

 それでは、皆様には良い一週間をお過ごし下さい。

          <ycaster@gol.com>