《 many offsetting factors 》
今週も新たな要因が数多く出た週でした。しかし、為替相場について言うと、既に市場で認知されている要因と合わせて、それぞれがしばしば相対峙し、全体的にはレンジにとどまったという展開。ニューヨーク時間木曜日のグリーンスパン証言で、ドルは上げ基調になりましたが、それでも大きくレンジを抜けてはいない。ドル相場を動かした主要な新要因は次のようなものでした。
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マーケットが右往左往しているのは、昨日一日のニューヨーク市場を見ても明らかでした。米貿易収支が発表されたのが日本時間の20日午後10時30分。この段階で、ドルは大きく売り込まれました。ドル・円は122円台の17銭に。ドル・マルクは1.67マルク台の前半。しかし、それから一時間半後のグリーンスパンFED議長の上下両院合同経済委員会での証言後は、同議長が一歩踏み込んで利上げを示唆したと取られて、今度は日独との米金利差拡大の思惑からドルが大きく買われた。
今週一番注目されていたグリーンスパン議長の証言は、全文を読む限りでは「利上げに一歩踏み込んだ」と理解した市場の判断が正しいように見えます。議長は、「2月に年二回のハンフリー・ホーキンス法に基づく見通しを提出しているので、今回は米経済の現状に関していくつかの重要な側面に焦点を当てる」と断った上で、
と述べている。要するに、「理想的には、金融政策は予防的に発動した方が良い」「労働賃金には上昇圧力が既にかかっている」「これを相殺してきたのは、生産性の伸びだ」「しかし、生産性の伸びは公式統計によれば、賃金コストの増大にマッチしていない」「従って、今後の供給への圧力増大はインフレ圧力を生むと思われるので、この点を25日のFOMCでは検討する」と言っているのである。
グリーンスパン議長の証言で圧巻なのは、次の二つの表現でした。第一は、
「These types of results are why we stressed in our monetary policy testimony the importance of acting promptly--ideally pre-emptively--to keep inflation low over the intermediate term and to promote price stability over time.」の中にある「ideally pre-emptively」という表現。今までは、「pre-emptively」はあったものの、「ideally」はなかった。これは証言録の第三パラグラフの最後に出てくる。この部分は、「早めに利上げするのが、"理想的"である」と言っているように見える。 第二は証言の終わりの方に出てくる二つのパラグラフである。少し長いが、
「The Federal Reserve, of course, will be weighing these and other influences as it makes future policy decisions. Demand has been growing quite strongly in recent months, and the FOMC, at its meeting next week, will have to judge whether that pace of expansion will be maintained, and, if so, whether it will continue to be met by solid productivity growth, as it apparently has been--official figures to the contrary notwithstanding. Alternatively, if strong demand is expected to persist, and does not seem likely to be matched by productivity improvement, the FOMC will have to decide whether increased pressures on supply will eventually produce the types of inflationary imbalances that, if not addressed early, will undermine the long expansion.
Should we choose to alter monetary policy, we know from past experience that, although the financial markets may respond immediately, the main effects on inflationary pressures may not be felt until late this year and in 1998. Because forecasts that far out are highly uncertain, we rarely think in terms of a single outlook. Rather, we endeavor to assess the likely consequences of our decisions in terms of a reasonable range of possible outcomes. Part of our evaluation is to judge not only the benefits that are likely to result from appropriate policy, but also the costs should we be wrong. In any action--including leaving policy unchanged--we seek to assure ourselves that the expected benefits are large enough to risk the cost of a mistake.」
と述べている。ここは辞書を片手に訳しても、それだけの価値があるセクションである。グリーンスパン流の表現。ただし、「生産性」について言うと、グリーンスパン議長は去年の10月16日のコンファランス・ボード(ニューヨーク)の80周年記念大会で、「生産性に関する統計については、(最近の成果を織り込めていないのではないかという意味で)大きな疑念を持っている」と述べており、必ずしもアメリカの生産性の伸びが公式統計通り労働コストの上昇にマッチしていないとは考えていないようである。
《 heightened likelihood of rate increase 》
グリーンスパン議長が証言の中で自ら言っているように、25日のFOMCでもう一度現在の金融政策を「leaving policy unchanged」にし、その後の経済の推移を見る可能性もあります。しかし、素直に証言を読むならば、利上げの可能性は高まった言える。
難しいのは、何(FF金利だけか、公定歩合もか)をどのくらい(0.25か0.5%か)、そしてその後どのようなペースでという問題だろう。何をについては、公定歩合をいじるのは避けて、「フェデラルファンド金利を0.25%」という見方が強い。しかし、そうだと確信できる材料はない。もっと大幅かもしれない。一つはっきりしているのは、経済の自動調整機能が高まり、実際のインフレがすこぶる落ち着いている現状では「矢継ぎ早の利上げ」というのはないだろうという点です。現在のアメリカの公定歩合は5.0%、公表されているフェデラルファンド金利の誘導目標は5.25%。アメリカの政策金利は既に一年以上据え置かれたままである。
――――――――――多分、日本でもそうであるように、中央銀行の短期金利誘導目標が5.25%であることを知っている米国民は極めて少数でしょう。議長の議会証言の全文を読む人は、米国民の1%もいないかもしれない。としたら、具体的に動いて、「リスク」の所在を知らせるのは賢明なことかもしれない。しかも、経済にそれを正当化する十分な理由がある場合には。マーケットとのゲームという意味でも、「動いて様子を見、また機敏に動く」というシナリオ。
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今回の証言では、「株と資産効果」については触れているものの、株価水準については一言も触れていない。これは、今回金融政策を動かすと要因として株価を前面に立てれば、議会から権限逸脱だと指摘されかねないからだと思われます。政治的リスクを避けた。グリーンスパン議長自身が今回の証言で言っているとおり、アメリカの株価保有所帯の裾野は広がっており、株価が急落した時の経済的、政治的影響は大きい。株価と金融政策の切り離しを図ったと言える。
これは、来週の月曜日に詳しく検討するが、ドル・円について言うと、アメリカが利上げしてもドルがそれだけを理由に大きく上昇する可能性はまだ少ないとみたい。それはアメリカの赤字が拡大し、日本の黒字が増加し始める中では、政治圧力としてドルの一段高は難しいと考える。
また他の市場への影響という点では、債券相場は短期債の売り、長期債の買いという形で、長短金利差が縮小する可能性がある。長期債は、むしろFEDのインフレ姿勢を評価する可能性が高い。前日の米フェデラルファンド金利は、5.41%と、5.25%から5.50%程度への引き上げを既にかなり織り込んでいると言える。長期債は、指標銘柄の利回りで7.0%にタッチしたものの、その後利上げ観測が高まると同時に買い戻され、引けは6.95%とむしろ水曜日の引けより買われた。
グリーンスパン証言前後で為替以上に右往左往したのは、株式市場でしょう。20日の市場では今週ずっと下げていたNASDAQのハイテク株が主に午後だと思いますが急速に値を戻して反発、同指数は9.95ドル高の1259.26ドルとなった。これに対して、優良株中心のダウ工業株は、一時80ドル近く下げた後、多少戻したものの57.40ドル安で、6820ドル28セントの引け。この下げには、フィラデルフィア連銀の地域景況指数の大幅上昇も手伝っていた。
《 have a nice week 》
今日は、連休の谷間のような一日ですね。今日一日で、また明日は休み。今日を休みにしている人もいるのではないでしょうか。いよいよ桜の開花が接近してきました。週末は外出するのが気持ちよいのかもしれない。
ところで、阪神ファンにはちょっと「安心」なジョークを今日は一つ。私のインターネットのページ(http://www2.gol.com/users/ycaster)を見ている人は気が付いたかもしれませんが、今年の阪神に触れて「阪神の新監督である吉田さんはフランスで苦労してきた分だけ、今年は注目されるのではないでしょうか」と書いたところ、「寒い国から来た預言者@南洋駐在」さん(シンガポールに駐在されている方ですな)がパリ駐在の会社の同僚と話をしていて気付いた...といってジョークを送ってくれた。以下がそれ。
記者:「吉田新監督、今年の阪神はいかがでしょうか?」
吉田:「いろいろフランスで苦労してきましたから、私に御任せいただければ安心
かと....」
記者:「本当に大丈夫ですか?」
吉田:「はい。フランス語ではHを発音しませんから...
(と胸の”HANSHIN”の頭のHを隠す)
これで”安心”です。」
少しは、気休めに。では、皆様には良い週末を。