しかし、このままの強い数字が今後も続くかどうかはこれからの問題(5月20日の次回FOMCを睨んでの)であり、また「経済が強い」ということがそのままインフレの高進につながるものでもない、という認識が必要でしょう。この面では、現在のアメリカの「生産性論議」などに注目したい。今週出た数字としては、新規失業申請者数(予想より大幅な4000人の減少)、中古住宅販売戸数の予想外の大幅増加(9%増)、数日前の耐久財受注などがいずれも市場の予想を上回る強さだった。ドルはこれだけアメリカの資産市場が売られるとやはり売られる。特にマルクに対して弱い。
米連邦準備制度理事会が発表した0.25%のフェデラルファンド金利誘導目標の引き上げ(新目標は5.5%)に関する声明全文は以下の通りです。
Release Date: March 25, 1997For immediate release
The Federal Open Market Committee decided today to tighten money market
conditions slightly, expecting the federal funds rate to rise 1/4
percentage point to around 5-1/2 percent.This action was taken in light of persisting strength in demand, which is
progressively increasing the risk of inflationary imbalances developing
in the economy that would eventually undermine the long expansion.In these circumstances, the slight firming of monetary conditions is
viewed as a prudent step that affords greater assurance of prolonging the
current economic expansion by sustaining the existing low inflation
environment through the rest of this year and next. The experience of the
last several years has reinforced the conviction that low inflation is
essential to realizing the economy's fullest growth potential.No change was made in the Federal Reserve discount rate, which remains at
5 percent.
以下は、その翻訳です。――――――――――米連邦公開市場委員会(FOMC)は本日、フェデラルファンド金利が0.25%上昇して5.5%前後になることを期待して、金融市場環境をわずかながら引き締めた。
今回の措置は需要の持続的な強さに照らして実施されたもので、この根強い需要は米経済の現在の長期拡大をいずれ損なうであろうインフレ的不均衡のリスクを徐々に増大させている。
こうした環境下での金融の若干の引き締めは、今年の残る期間、さらには来年を通して現状の低インフレ状態を保持することにより、現景気拡大の持続をより確実にするための、賢明かつ細心の措置だと思われる。過去数年間の経験は、米経済の潜在成長力をフルに発揮させるためには、低インフレが必要不可欠であるとの確信を強めさせた。
現在5%になっている連邦準備公定歩合は、変更されなかった。
《 markets reacted calmly to the hike 》
米東部時間の午後2時15分に発表された利上げ発表に対して、株、債券、為替などの市場は比較的冷静に受け止めました。利上げ直後には、ドルが上昇し、株と債券も上がりましたが、引けにかけてはこの3商品とも反落した。ドルは、ドル・円で見て124円近辺まで行きましたが、ニューヨークの引けは123円70銭程度。
株は、利上げ発表直後には材料出尽くしから上げ、ダウは45ドル高。しかし、引けにかけては再利上げを懸念する声も出て、引けは 29.08ドル安の 6876.17ドル。債券も同じような動きで、30-year bondは利上げ当初に1/2ポイント以上上がったものの、その後は反落して、引けの利回りは 6.95% で、月曜日引けの6.92% を上回った。
今後のポイントは、「今後の米経済指標の出方」と、この利上げに対する海外市場の反応でしょう。海外市場の反応は、「米再利上げのペース」を巡ってどのような観測が出るかにかかっている。しかし、FOMCは先に指摘した通り、次は一ヶ月開いて5月ですから、その間は様子見になる可能性が強い。
今回の米利上げに関しては、既にカナダは追随の予定はないと報道されており、追随の可能性が一番高いのはイギリス。しかし、イギリスの利上げも、5月1日の総選挙後と予想されている。その他の主要国での政策金利の引き上げ予定はないものと思われる。
なお、FEDの短期金利誘導目標の引き上げを受けて、米銀は一斉にプライムレートを0.25%引き上げて、8.50%とした。こうした措置により、FEDとしては若干強すぎる「需要」が冷えてくれることを期待していると思われます。
《 Greenspan is trying to play with the market 》
今回の米利上げに関しては、FEDは議会関係者や一部の市場エコノミストから、「不必要な利上げをした」との批判を浴びることになるでしょう。FEDの声明そのものが言っているように「インフレ」は現在のところない。もしこのままインフレがなく推移したら、「不必要な利上げだったのではないか」と。たとえば、日経ビジネスの3月17日号にエドワード・ヤルディニ氏は、「グリーンスパン議長のインフレ観は誤りである。冷戦の終結による国際競争の激化や生産性の向上により、インフレは抑制される」と述べている。
しかし、グリーンスパン議長としてはそうした批判があり、またその議論には十分注意を払うべきポイントがあることはわかった上で、利上げするメリットの方が、利上げしないメリットより高いと判断したと思われます。グリーンスパンの議会証言や講演(そのほとんどは彼自身が書くと言われる)を読めば、米経済が直面している冷戦後の新しい経済環境、とりわけ国際競争の厳しさや、デジタル革命の影響に関して同議長が深い知識を持ち、関心を払っているのがわかる。従って、過去の例からは即断できない環境に米経済が置かれていることを同議長は十分知っていると思われる。
にもかかわらず利上げしたのは、「マーケットとの駆け引き」の面があると思われます。これは前号でも述べましたが、既に米金利は一年以上据え置かれている。こうした中で、インフレはなくても景気は強いし、この事情は今年に入っても変わらない。思考の慣性を引きずる市場は、景気の強さだけでインフレに身構えます。グリーンスパン議長は、昨年からの警告の中で、市場の懸念の行方を見ていたと思われる。しかし、景気が強い基調を続けている中で、この市場の懸念は弱まらなかった。とすれば、3月に利上げを見送ったら、完全に「催促相場」になってしまう。米金融市場は利上げがあったときよりはるかに不安定になったはずです。つまり、インフレ・リスクの増大とともに、マーケット・リスクも高まった危険性が高い。グリーンスパン議長は、それを予防しに来たと見ます。
<ycaster@gol.com>