INTERNET EDITION

第1349号 1997年03月31日(月)


《 Rubin restated his dollar policy 》

 今週来日するルービン財務長官が30日にCNNの 「Moneyline」という番組に出てドル相場や日本に関して発言していますから、それからまず取り上げましょう。ただし、筆者はこの番組を見たわけではなく、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事をもとに書きます。

 このウォール・ストリート・ジャーナルの記事の見出しは、「 Rubin Likes Strong Dollar And Sees Good Outlook」(強いドルを評価し、先行きに楽観的=ルービン)というもの。同長官はまず現在のドル高について

  「"A strong dollar gives us lower interest rates
in this country, lower inflation, increased
confidence, all of which I think have very much
contributed to very good economic conditions
we've had over the past four years," 」

 と述べている。ドル高がアメリカに低インフレ、低金利、それに自信回復をもたらし、それらは過去4年間に極めて良好な経済情勢を作り出すのに貢献した、とその意味を強調。これは、基本的にはこれまでの同長官の立場と変わってはいない。ただし、「increased confidence」という部分は私の記憶では、これまであまりなかった。そしてそう言ったあとで、

 
 「"What I've also said is that we've also had a
strong dollar now for some time."」

 と直ぐに付け加えている。これは、2月7日にG7を翌日に控えて同長官が言ったことの繰り返しです。『ドル高が、これまでのアメリカ経済の好調に役立ってきたが、「ドル高もかなり続いてきた」』と言うことで、ドルの一段の上昇には警告を発している。

 同長官の発言で注目されるのは、日本に関する部分です。少し長いのですがウォール・ストリート・ジャーナルのそれに関する部分を引用すると以下の通りです。

 「Mr. Rubin, who will be departing next week
for an April 4 visit to Tokyo, reiterated
his desire for Japan to pursue policies
that promote domestic demand-led growth.
He said he remains unsure whether recent
signs of a deterioration in the U.S.-Japan
trade balance will be a lasting trend or
not.

 He noted that the U.S. has had the
strongest economic performance among
 industrial nations in recent years and
that Japan has particularly been in the
doldrums for five years running.

 "That imbalance with respect to growth may
be, may be, beginning to increase Japan's
trade surplus with the United States," Mr.
Rubin said.

 "I think that it's very important the
Japanese be very watchful and monitor very
carefully what happens with respect to
what happens to their economy," he said.」


《 Rubin warns Japan 》

 要約すると、「日本は内需主導の成長を促す政策を採用すべきだ。最近の日米貿易の不均衡拡大傾向が持続的なものかどうかは分からないが、日米経済の成長格差(アメリカが強く、日本が弱い)から見れば、恐らく日本の対米黒字は増加し始めるだろう。日本が自国経済に何が起きているかを極めて注意深く監視することが極めて重要である」と述べている。

 言い回しは極めて慎重(第三パラで may be, may be, と2回述べている)ですが、気持ちは伝わってきます(最後の文章では、veryを2回使っている)。つまり、@日本は内需主導の成長を促す政策を取るべきである A景況の差から言って日本の対米黒字は増加しそうだが、それは許されるものではなく、日本政府は十分自国経済の動向を監視すべきであるーーというもの。詰まるところ、今の日本は「内需主導の成長につながる政策をとっていない」「それを取らないことによって、日本の対米黒字が増加したら、それは日本政府の責任である」というものでしょう。その「責任」の中には、どうも「円高」カードも入っているか、そうでなくてもちらつかせている気がする。ただしルービンは全体的にはドル高(貿易加重平均出見た、または対欧州通貨での)が好きだし、今のアメリカ経済には望ましいと思っているわけです。

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 ルービン長官が来日の直前に日本でも見ることが出きるCNNにわざわざ出演したというのは、今回の出演とその発言内容が、日本に対するメッセージであるということです。「内需主導をちゃんとやってますか」という。ここで日本政府が取れる姿勢は、「日本経済は大丈夫です」「黒字もそれほど増えないと思います」ということでしょう。4月2日に発表される「日銀短観」がよければ、それが援用されることになる。

 しかし、この点についてはそもそもアメリカ政府は「そうはならない、つまり日本経済が大丈夫なことはないだろうし、対米黒字は増加するだろう」と思ってルービン長官の口を通じて警告しているわけです。従って、4日の来日の際は、滞在時間は短いものの、相当突っ込んだ話し合いがもたれるはずです。去年の大統領選挙の期間中には見られなかったような緊張関係が生まれる可能性があります。この緊張関係は、基本的にはドル安・円高圧力です。

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 同長官は、利上げ後の米国経済については従来の楽観的な見通しを崩していないようです。番組では、米経済の先行きに関して「solid growth with low inflation」という言葉を使っている。しかし、同長官はアジアにいる間も、今週はニューヨークの株式市場や、債券市場に関心を払わざるを得ないでしょう。米経済に関しては、利上げ後に発表になった数々の数字はいずれも、米国経済がFEDが念頭に置いている「巡航速度」以上のスピードで成長していることを指し示しており、これが株や債券などの資産市場を動揺させる危険性があるからです。

 

《 important numbers 》

 そこで今週発表になるアメリカの経済統計をその他と一緒に見ると、

 31日(月曜日)                米2月の個人所得・支出

 1 日(火曜日)                全米購買部協会の3月の景況指数
                         2月の米景気先行指標
                         2月の米建設支出

 2 日(水曜日)                2月の米工場受注
                         3月の日銀短観

 3 日(木曜日)                新規失業保険申請者数
                         ドイツ連銀理事会

 4 日(金曜日)                3月の米雇用統計
                         ルービン来日
                         欧州連合非公式蔵相理事会

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 大きな指標が待ちかまえている。指標よりも、日本の金融機関にとっては、まず31日に日本の株式市場の引けが注目の的です。それが済めば、日銀の短観やアメリカの主要経済指標、そしてルービン来日。予想としては、期明けとともに日本の機関投資家がドル買いを行うとの見方もあり同通貨は強いかもしれませんが、125円をdecisivelyに、かつ持続的に抜くのはちょっと無理ではないでしょうか。ルービン長官の来日を控えていますし、ニューヨークの資産市場の動きも気になる。日本の機関投資家の懐に入ってきている新規資金はかつてと比べものにならなくらい減少している。

 ニューヨークの債券、株もそうですが、今週の日本や欧州の金融市場もかなり神経質な動きとなり、実際に動きもかなりあるでしょう。

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 最後に先週の金曜日はこのニュースを書きませんでしたから、先週末のニュースを拾っておくと、「米経済は依然として驚くほど強い」ことを示す数字が多く出ました。「耐久財受注」、「新規失業保険申請者数」、そして「existing home sales」など。これを受けて債券相場が急落、これを懸念して株価が大きく下げた。債券相場は木曜日の日中だけで利回りが0.1%上昇するほど大幅に売られて、引けの利回りは7.08%となった。指標30年債の利回りが引けで7%を上回ったのは約6ヶ月ぶり。

 「現在の景況が続けば、連邦準備制度理事会は再利上げを余儀なくされる」との見方を背景とするもの。株価の下げは、一時はダウで200ドル以上に達した。引けは、ダウで140ドル11セント安の6740ドル59セント。その他の代表的な指標も全部大幅に下げている。下げ銘柄数2044に対して、上げ銘柄数は550にとどまった。ニューヨーク市場は金曜日が休場で、月曜日をこの木曜日の市場を受けて始まる。欧州市場は今日も休みである。

 

《 have a nice week 》

 大分暖かくなってきました。特に昨日は、「半袖」が目立ちましたね。もう部屋も暖房は全くいらない。火曜日からは4月ですから、暖かくなるのは当たり前ということでしょうか。これはどこかに書きましたが、先週大笑いしてしまったのは、今度の日曜日(4月6日)に22歳年下のNBCの女性記者(外交問題担当)であるアンドレア・ミッチェルさん(50歳)と結婚するグリーンスパンFED議長(72歳)に関する記事。「あまりにも曖昧なしゃべり方をするので、アンドレアさんはグリーンスパン議長がプロポーズしているのに、最初の2―3回は何を言っているのか分からなかった」というもの。さもありなん、という感じですね。今のグリーンスパンのようなしゃべり方(曖昧な)をFED-speakというらしい。

 しかし、この曖昧なしゃべり方は例えば今回のルービンの発言などにも出ている。まあ、じっくり、事情を知っている人が聞くと、「これを言っている」と分かるのですが、普通に聞くと、またちょっと周辺環境に関する知識がないと、全部は分からない。アメリカ人も言葉を曖昧にする術を身につけてきたようです。ストレート一本ではない。グリーンスパン・ミッチェルの結婚式は、アンドレアさんが「天気だけが心配」といっていますから、野外でやるのでしょう。多分、4月初旬のワシントンは綺麗だと思います。ポトマック河畔の桜の下.......。

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 今日で今期も終わりですか。Time flies。お世話になりました。来期もよろしく。それでは、皆様には良い一週間を。


ycaster@gol.com