INTERNET EDITION

 第1350号 1997年04月04日(金)

 来日したルービン財務長官は、「貿易問題で日本への批判強める戦略はとらない」「日本の黒字が世界経済の阻害要因にならないことが重要」「米国を含め、どの国も貿易政策のため為替を利用すべきでない」などと述べている。「(日本に)押し付けがましいことは言わない」という事前の発言通り、慎重なもの。市場の反応はこのニュースが伝わった段階で、ドルが上昇。しかし、だからといってドルを大きく買い上げる動きはない。円安になれば、日本の黒字が増えることは明らかで、その面からのキャップがかかっていると思われるため。また、今夜発表される雇用統計など重要指標を待とうという空気もある。

 ルービン財務長官が対日姿勢を厳しくしなかった背景としては、ニューヨークの資産市場が不安定になっている折りだけに、今は為替であまり波風を立てたくなかったという事情もあるのかもしれない。仮にドルが大きく下げたら、週末のニューヨーク市場はかなり不安定になったと思われる。


《 more news to come 》

 安いドルに対する「買い需要」と、日本の内需主導経済政策の欠如と対外貿易黒字増加への懸念を強めるアメリカの姿勢、それにドルの高値警戒感を受けた「売り圧力」で、為替は狭い範囲の動きにとどまった週でした。しかし、「期初はドル高」と言われていた分だけ同通貨が弱い印象を与えた。週半ばにあったニューヨーク市場での121円台は、久しぶりの円高。しかし、その近辺ではドル買いの需要も強かった。

 今週は東京の金曜日日中から土曜日にかけて、「実はこれから」と言っても良いほど相場に影響を与えそうな材料が多い。

  1. ルービン米財務長官の来日と日本政府首脳との会談
  2. 日本時間4日夜10時30分の米3月の雇用統計発表
  3. オランダでの金曜日夜から土曜日にかけての欧州各国蔵相による通貨統合に関する会議

など。

 ルービン財務長官は、先週末から注意深く日本政府、及びマーケットにシグナルを送っている。それは、概ね今週月曜日のこのニュースで取り上げた通りで繰り返しはしませんが、この一週間でもいろいろなチャンネルを通じて、「日本政府への内需主導経済運営への要望」「それをしなかった場合の、日本の対外収支黒字増加への懸念」、さらには「現在より円安になることへの不快感」が伝えられている。特に木曜日には、マーケット・ニューズのSteven Becknerという記者がもう一歩踏み込んで、

 「ドルは日本円に対して強すぎるとの認識がクリントン政権内で強まっており、この認識は財務省もある程度共有している」

 との長い記事を流している。この記事は、「事情に詳しい筋」(knowledgeable sources)の話として書かれているもので、さらに「米財務省はあまりにも長い間“強いドル”を望む旨の発言をしてきたために、円は弱すぎるとあからさまに言うのを躊躇しているものの、現在のドル・円・レベルへの彼らの不満は、日本は内需を喚起して貿易黒字を減らすべきだとの主張の形で伝えられている」とも伝えている。

 この見方は、既に今週月曜日のこのニュースで伝えた趣旨と同じで、別に目新しいものではありませんが、今週一週間の動きとして注目されるのは、アメリカ・サイドの発言が日を追うごとにステップアップしているという点で、日本政府がアメリカが希望しているような「内需主導」の経済運営をただちには採用しそうにない現実を考えれば、今後一層「為替」への関心をアメリカが強めることを予感させます。日本政府はルービン長官との一連の話し合いで、「日本経済の足は遅いものの着実な回復基調にあり、新たな刺激策は必要ない」旨を強調するでしょう。これに対して、ルービン長官がどう反応し、どのような言葉を使って日本に対する要望を明らかにするか注目です。来日直前に同長官は、「日本に押し付けがましくはしない」と述べている。従って可能性は低いものの、ドル・円の為替相場に直接言及したら、それは大きな材料になるでしょう。

 ただしBeckner記者の記事でも、「米経済のファンダメンタルズが非常に強いこと、FEDが新たな利上げに踏み切る可能性が強いことを考えれば、日本円が米ドルに対して大幅に強くなる可能性は小さいことは財務省も認識している」となっている。

 

《 European finance ministers meeting 》

 指標では、やはり米3月の雇用統計が大きい。3月の経済指標としては最初に発表される大きなもので、2月に関して出た強い指標が今後も続くかどうかを見る上で重要です。様々な予想が出ていますが、直近では「率は変わらずの非農業部門就業者数は20万人の増加」との予想が多い。

 この雇用統計を前にして出た3月29日まで一週間の新規失業保険申請者数は、久しぶりに1000人増加した。しかし、同申請者数が32万人の水準を8週間連続で下回っている事態に変わりはない。同申請者数が32万人を8週間連続で下回ったのは、1989年以来だという。3月22日までの申請者数は、当初の31万から31万3000人に上方修正された。

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 欧州では、金曜日の夜から土曜日にかけて各国蔵相が集まって通貨統合に関するフォローアップの会議を開く。昨年12月にダブリンで合意された「安定協定」(stability pact)で抜けていた部分についての合意を目指す。加盟国間では、マーストリヒト条約で決められた財政赤字の上限(対GDP比)を上回った国に課される罰金に関して、意見の不一致があると言われ、こうした点に関してどの程度合意が成立するかは、統一通貨の先行きを見る上で極めて重要です。

 統一通貨成立の見通しが高まれば、マルク買いの圧力は弱まる。一方、ドイツ連銀は昨日の定例理事会で2.5%の公定歩合、4.5%のロンバードレートを据え置いた。また、昨日発表になった2月の鉱工業生産は1.9%の増加と、予想を上回った。これがマルクを一時的に押し上げた要因。

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 一方、ニューヨークの株は一週間を通して不安定な動きを続けました。主な懸念材料は、

  1. インフレ懸念を受けた金利上昇への懸念 
  2. 企業業績の先行きに対する懸念
  3. 株式市場に流入する資金が減少するのではないかとの懸念

 など。今週の株価の下げは債券市場の動きを嫌気したというより、株価の先行きそのものに懸念が高まった結果とみられる。先週末からアメリカのマスコミに出たニュースと言えば、「Is The Great Bull Market Finally Over ? 」(ニューヨーク・タイムズ)といった記事ばかり。金利先行き懸念に加えて、株価の水準に対する懸念、資金流入に対する懸念、収益懸念などが取り上げられている。

 資金流入については3月の統計はまだ暫定であるものの、昨年の3月に比べて約半分強に落ちてきているという報告も出ている。ただし、今回の下げはbear marketの始まりではなく、「調整」だという見方が強い。市場がbear marketになるためには、リセッションが近くなければならないが、その兆しは見えないため。では「調整」はどのくらいか。10%〜20%という見方が多い。チャート的には、6270ドルがポイントという。木曜日のニューヨーク株式市場のダウ平均は、39.66 ドル下落して6477.35ドルと、6500ドルを下回った。

 

《 polarization of Japanese economy 》

 2日に発表された日銀短観は、日本経済で進む「二つの二極化」を鮮明にしました。二極化の一つは、「製造業」と「非製造業」の間で出た業況判断の差に示され、もう一つは目先を見た場合の悲観の度合いでの「主要企業」と「中小企業」の違いに示された。ここでは、景気回復は「元気な中小企業から」という従来の日本経済の姿はまだ伺えない。日本銀行が「足下は底堅い」と言ってみても、円金利が大きく下げたのは当然の反応と思われる。

 「製造業」(化学・鉄鋼・非鉄・繊維など素材産業と、自動車・精密機械・重機・食料品など加工産業)と非製造業(建設、不動産、商社、小売り、運輸・通信、サービスなど)の業況の差は、大まかに言えば株価にも現れているもので、「急速に変わる経済環境への対応力の差」により生じているものと思われる。製造業は大きく言えば、常時国際競争に晒されてきたこともあり、また技術革新の最前線に置かれていることもあって、新しい経済環境への対応が進んでいる。

 これに対し、非製造業は国際的な競争環境が生まれたのはつい最近であること、不良債権など過去の重しを引きずっていることなどが、業況感の悪化につながっている。主要企業の非製造業種で、「11月→3月」で業況の変化幅がプラスになった業種は一つもない。これに対して、主要製造業では、同変化幅がプラスになった業種が多かった。

 非製造業の多くが抱えている「負の資産」が大きいことを考えれば、今後しばらくの日本経済はこの「二極化」を引きずったままで推移することになるでしょう。ただし、いままでさして動きがなかった銀行業界でいくつかの動きが出ている。今後こうした動きがどう広がるかも景況に大きく影響しよう。

 

《 have a nice weekend 》

 桜があちこちで満開です。我々のオフィスのある青山では、やはりまとまって見られる桜は、青山墓地でしょうか。墓地と言っても、ここは整然としていて桜の綺麗さが引き立つ。昨日も夜でしたし、雨も降っていましたからはっきりは見えませんでしたが、それでもまだ盛りであることはわかりました。

 春休みの最中で、電車が普段の混み方とちょっと違う。なにか「ごつごつ」する。荷物を持った人、電車の中で居場所をうまく見つけられなくてやたらに動く人。まあ、あと数週間はこんな状態が続きそう。大リーグに続いて、今日から日本のプロ野球も始まる。楽しみが一つ増えます。     


ycaster@gol.com