INTERNET EDITION

  第1354号 1997年04月18日(金)

 21日のNews and analysis は都合により休みますが、以下に21日朝現在のちょっと簡単な分析を。

 21日の朝起きてこれを書いていますが、週末の日経さんの記事は見事に無視されている。相場(j・円、j・マルク、マルク・円など)は、金曜日の段階とほとんど変わらず。まあ、もう何回も避難訓練してますし、あとは実際にどういうタイミングで、どこ(介入したあとの落ち着きどころ)を狙ってやるかだけでしょうが、やるにしても矛盾の多い介入になる。

 あまり強くやると、ニューヨークの金融市場が動揺、株や債券に悪影響が出る。せっかく落ち着きだした債券が売られるのは、ルービンとしては見たくないでしょう。では、中後半端にやれるかというと、逆に「当局は、jをあまり落とせない」というパーセプションが市場に広がり、実際に日米間、米欧間で金利差があるわけだから、この魅力には抗しがたくj買いが入る。またjはジリジリ上がる。そしてG7の権威は失われる。

 正しい政策は、日本やドイツが景気を刺激して経済成長率を高めて金利が上がっておかしくない環境を醸成することですが、日本については財政についてはこれはやらないと言っている。ドイツはできない。財政が出れないときは、今までは大蔵省当局の間接的な言い方は、「金利でやれ」と言うケースが多かったのですが、日本ではこれ以上引き下げられる環境にはないうえに、先週のフォレックス大会での榊原・国際金融局長の話では、「日本の金利は上がってしかるべきだ」となっている。もっとも、同局長には「日本の景気は強い」という認識があり、その論法では「(アメリカが言っているような)景気刺激は必要ない」という判断になる。

 「するする」と言って出来ないのは、それだけの理由があるからですが、環境的には2月のG7の時には122円前後だったのが、今は126円で4円円安になった、マルクは1.69半ばだったのが、今は1.71マルク台になっているという数字の違いが一番大きい。あまり円高にしたら、日本の株も先行き懸念される。精一杯警告するが、なかなか(介入は)できないというのが今の環境でしょう。まあ、今週の市場は25日のクリントン・橋龍会談にまず注目して、それからG7の声明に気を配ると言うことになりそうです。2月8日のG7の声明は以下の通りでした。また、2月G7についての解説はここにあります

 ("We discussed the developments on currency and financial markets.")

 "We believe that major misalignments in exchange markets, noted in our April 1995 communique, have been corrected.”
 "We reaffirmed our views that exchange rates should reflect economic fundamentals and that excess volatility is undesirable."
 "We agreed to monitor developments on the currency markets and to coooperate as appropriate."


《 within a range 》

 為替について言うと、「がちがち」だった一週間でした。レンジ的には、一週間ほとんど変化なく過ごして、今朝もその真ん中にいる。126円前後。証券会社経由の個人の外債投資需要もひとまずは一段落し(個人も賢くなって、利食えるところでは利食っていると言われる)、また日本の機関投資家も円安を追いかける形で対外投資を一気に増やす雰囲気ではない中で、ドルも介入懸念を振り切ってまで上値を追う形にはなっていない。

 日本の通貨当局は引き続き一段のドル高に懸念を表明している。ここ1〜2週間の特徴は、言葉のトーンが上がってきていること。トーンが上がってきているのに何もしないから言葉の持つ重みが徐々に薄れてきている印象はするのですが、そこを補っているのが「やるときは勝つ」(榊原局長)という一段と”パワーアップ”した発言でしょう。しかし、実際に「勝った」と言える介入をしてドル・円相場が数円落ちたときには、日本の株式市場、そしてニューヨークの株・債券市場にどう影響が出るかなど、そう軽々しくは介入を実施できない環境がある。何らかの形で再び外貨(米ドルなど)需要が誘発されたときには、どのような形で、どのような強さでやるか日本の通貨当局は難しい選択を迫られるでしょう。

 もっとも、今の日本の通貨当局は具体的行動に出なくもよいように努力しているように見える。

 ――――――――――

 ドル高を警告しているのは、日本の通貨当局ばかりではない。昨日はティートマイヤー・ドイツ連銀総裁も年次記者会見で

「為替相場の是正は終わった。マルクは十分弱含んだ」

 と述べている。もっとも、いつもだったらこの発言への反応は大きかったはずですが、ドル・マルクも数十ポイント下げただけで、直ぐに止まってしまった。ドイツの場合は、日本よりもマルク安を実際には懸念していないことが明らかですから、市場もその辺は咀嚼している。

 こうした当局からの警告にも関わらずドルを下から支えている要因は基本的には

「アメリカの金利が上昇気配にあり、5月にはまた上がるかもしれないという思惑の中で、日独から金利差を目当てにした対米投資が入っていること」

 でしょう。まだ上昇する懸念はあるものの、7%の利回りがある米国国債は魅力だし、ドルがそれほど大きくは崩れない見通しのもとではなおさらです。

 

《 NY stocks in a wide range 》

 為替が動けなかったのに対して、はでに動いたのはニューヨークの株です。生産や雇用での強い数字、卸売段階でのインフレ懸念で週前半は大きく下げたものの、今週発表された米消費者物価は予想外の落ち着きを示したことから、その後は反発基調になった。一度高値から10%の調整の範囲を超えて下げましたが、直ぐに反発していることから引き続き「調整局面」との見方が強い。

「5月に再利上げ」との見方が依然強いのですが、まだ先一ヶ月ある。次回のFOMCは5月の20日です。その間に市場の見方は二転三転するでしょう。昨日について言うと、4月の景況をもっとも速く知らせるフィラデルフィア連銀の地区景況指数は、3月の21.1から5.7に急落した。また今週について言うと、新規失業保険申請者数が予想(3000人減)外の8000人の増加となって、総数は332000人と過去3ヶ月で最高となった。久しぶりの弱い数字です。もっとも過去4週間平均では、1990年代の最低水準にある。今年第一・四半期の景況の強さについては、「かなりの部分、暖冬だった影響」(サム・ナカガマ)との見方もあり、今後1ヶ月ある期間に出てくる数字次第で、今は確実視されている5月のFOMCでの利上げは微妙になる可能性もある。

 来週は22日に「試験的CPI」が発表になる。「試験的CPI」は、「substitute factor」(代替要素)というのを組み入れている。ある商品が高くなるとする。消費者はずっとそれを買い続けるかというと、しばしば購買対象を変える。牛肉が高くなると、鶏肉に買う対象を変える。今までの物価統計というのは、ずっと牛肉価格を追った。しかし、これを一定の段階で消費者は購買対象を「代替品」に変えるという前提で組み立てた。これから、二つの「消費者物価」が出ることになります。市場がどちらを見るかは、これからの問題です。

 発表される様々な「指数」の合理性は大いに疑われていて、米議会もボスキン委員会を作って物価を調べさせた。労働省が今まで発表していた物価は、実体より1.1%ほど高めに出ていたのではないかというのが、その時の結論でした。去年のアメリカの消費者物価上昇率は公式発表された3.3%ではなく、実は2.9%だったという。たった0.4%の違いですが、各種の労使交渉がこの数字を土台に行われ、公務員の給与引き上げがなされ、各種給付が行われているとしたら、大きい。これは、政治問題そのものです。

 統計に対する疑念は、グリーンスパン議長自身が例えば「生産性」などの統計についても表明している。工場の生産性は捕捉が容易です。しかし、例えばホワイトカラーの生産性をどうやって捕捉するかは、難しい問題。生産性が、発表されている以上に上がっていれば、原材料価格や労働賃金が上がっても、最終製品が値上がりにならないのは不思議ではない。こうした経済の生産・流通プロセスの速い変化を検証しながら、ある意味で手探りの金融政策が続くでしょう。

 一般的に、企業が生産段階で生じている「値上げ圧力」をいかに回避しているかについては、「在庫管理の向上」「生産手順の簡素化」「より安い素材の調達」などが指摘されている。過去の米企業の体質から言うと、コストの上昇を直ちに値上げで賄うというのが普通でしたが、今は競争条件が厳しいためそれができない。

 ――――――――――

 昨日発表になった米3月の貿易統計は今朝の新聞に載っている通りで、2月より減少したものの史上2番目の大幅赤字。3ヶ月の赤字を年率ベースにすると、1456億ドルとなり、これは昨年の1143億ドルを大幅に上回る。最近の報道によると米議会では、この赤字の増大に「クリントン政権の対外政策の過ち」であるとの声が強まっており、米閣僚がこの赤字問題で対日姿勢を強めているのは、こうした議会の動きを受けたものと思われる。議会や政府に対する影響力は低下しつつあるものの、米自動車業界はドル高の問題をしつこくクリントン政権に突きつけているという。ただし、ルービンは依然としてウォール・ストリート寄りである。

 

《 have a nice weekend 》

 アメリカのマスコミは引き続きTiger Woodsの特集を続けている。日本の新聞もそうですが。まあ子供用ティーからですが、3才で48で回り、小さい頃からいろいろなショーに出ていて、そのままスターになった。希有な人材です。ゴルフ場の改造を試みる向きも出るかもしれない。今後の楽しみは、イギリスのコースで彼がどのようなスコアを出すかです。

 野球が結構おもしろい。「ダメ球団」と自ら言っていたヤクルトがぶっちぎりで走っている。実は私たちのディーリング・ルームは神宮球場から歩いて4分くらい。夕方はヤクルト・ファンぞろぞろ歩いている。しかし、巨人戦でなければまあ入れる。そのうち気持ちの良い夕方に行ってみようかと思います。

皆さんには、良い週末を。
                 ycaster@gol.com