INTERNET EDITION

第1357号1997年05月02日(金)

 このnews and analysis は5月中旬まで筆者の休暇の関係でお休みです。最新情報は、diaryです。
《 well-balanced growth 》

 アメリカ経済の強さと、しかしそれが少なくとも当面はピークアウトする兆しが見えてきた一週間でした。今週は同国経済に関してほぼ毎日重要な指標が発表され、それらは日々の新聞に出ていますから詳しく繰り返すことはしませんが、目立ったところは「今年第一・四半期の実質GDPの5.6%の拡大」。予想が「4.0%拡大」でしたから、クリントンが歓迎声明を出したのも当然でした。日本であまり報じられていないニュースとしては、「こうした米経済の急速な拡大の結果、歳入は大幅に増えて今年の米連邦財政赤字は750億ドル前後と対GDP比で約20年来の低水準になろう」との米政府高官の見通し。

 今朝の新聞に出ている通り、2002年に財政赤字を均衡化するための協議が議会で進み、合意はかなり明るい見通しになってきましたが、こうした協議以前に経済実態が「財政赤字の削減」に向けて動き出している。今週は後で取り上げる米経済急拡大のピーク越えの観測もさることながら、この「財政赤字」を巡る議会の動きと実体経済の動きを受けて、アメリカの債券市場は大幅に価格上昇・利回り低下となった。昨日の米指標30年債の利回りは6.93%と、今回の上げのピーク7.18%近辺に対しては、24bpもの低下となっている。

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 しかし、「今年一年間の成長率は96年の2.5%を上回るだろう。しかし、今後しばらくは米経済はペースダウンするかもしれない」(アトランタ連銀の
Jack Guynn総裁)という言葉が示すとおり、当面のスローダウンを示唆する数字が出たのも確かでした。「5.6%」という今年第一・四半期の高い成長率についても

  1. 今年の冬は例外的に暖かく、建設業の活動が活発であったこと
  2. 昨年冬は政府機関の一時閉鎖があったが、今年はそういうことはなかった
  3. 所得税の還付が例年より早く行われたことから、これが2〜3月の個人消費を押し上げた可能性が高い
  4. 企業の在庫投資の増加が290億ドルに達し、成長率の伸びの三分の一近くを占めている

 などの理由。個人消費の伸びは今後鈍化し、企業の生産活動も在庫の積み上がりで今後落ちてくるとみられていることになる。この結果、先週までは「5月20日の次回FOMCで利上げになるのは確実」との見方が強かったのに対して、「見送りも」という見方が急速に台頭している。FEDが一番懸念している雇用コスト指数の伸びが予想を下回る0.6%にとどまり、この統計が入手可能になった82年からでは過去最低の上昇率になったことも、インフレ懸念を弱めた。アメリカの物価情勢は引き続き落ち着いている。

 

《 paying more attention to Japanese interest rates 》

 これに対して、上昇圧力がかかって来たのは円金利で一番低いときに比べて、10年債で0.30%前後の上昇となった。消費税引き上げ後の景気の落ち込みに対する悲観論が解消され、株価が堅調になるなかで、金利に上昇圧力がかかってきているもの。輸入物価の上昇を気にする向きもある。

 円金利の上昇は海外の投資家の間でも関心が高いようで、今ボストンの運用会社に研修に行っている筆者の友人によれば、「日本から来たと知ると、かならず日本の金利はいつ上がるんだ」聞いてくるそうです。今までの例を見ても、世界でアンカー的に低い金利を設定している国の金利が上昇を始めると、世界の資金の流れが大きく変わる。94年のアメリカの例を見てもそうです。むろん、低金利国の金利はただ上がるだけではなく、持続的に一定幅以上上がったときが世界の資金の流れを変えるわけで、日本の金利がそれほど大幅に上がるかはまだ確信がもてないところがある。しかし、下方硬直性が出てきたことだけは確かです。

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 為替は、
G7の直後はドル堅調でしたが、木曜日の海外市場で大きく崩れました。米金利の一段上昇見通しが後退した、オプションからみの大きな売りが出た、円金利の上昇基調を気にし始めた向きが出てきている、中央銀行の介入の噂もあった、などが背景。しかし、金利差を狙った投資需要は強く、ドルがこのまま下げる兆しはない。ニューヨークの資産市場の足下が再びしっかりしてきましたから介入できる情勢は良好(ニューヨークの資産市場が不安定なときは、介入は難しい)ですが、今のところ少なくとも公表ベースの大規模な介入は行われていない。当局は、市場との綱引きの中で、ドルが落ち着いてくれればと思っている気配が濃厚です。ただし、そううまくいくかどうか。

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 連休の最中でもあり、本日は短めに。このレポートは筆者の休みの関係もあってしばらく間があき、次回は5月の中旬になる予定です。それまで、皆様にはお元気でお過ごし下さい。最近読んでいる本では、「ネアンデルタール」が結構おもしろい。まだ途中までしか読んでありませんが、地球外生物に関しては「これでもか」というくらいに本や映画が出ているのに、我々の祖先と少なくとも一時期は同時に生きていたと思われる親戚に関しては、あまり本も映画もなかった。このフィクションはニューヨーク・タイムズの記者が書いているもので相当厚いのですが、最初を我慢すればおもしろくなる。連休中の読書としては良いかもしれない。

資料として、米政府のサイトから取ってきたGDP統計を。単位は、10億ドルです。

Real Gross Domestic Product
  [Billions of chained (1992) dollars]                           
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                                             1995     1996 |   I 96 | III 96    IV 96     I 97
------------------------------------------------------------------------------------------------
                                                           |        |                 
     Gross domestic product.............   6742.2   6906.8 | 6813.8 | 6928.1   6993.3   7089.4
                                                           |        |                 
Personal consumption expenditures.......   4577.8   4690.7 | 4649.1 | 4693.5   4732.5   4806.0
                                                           |        |                 
  Durable goods.........................    579.8    611.4 |  599.2 |  611.6    619.1    647.9
  Nondurable goods......................   1421.9   1442.0 | 1436.1 | 1442.2   1448.6   1470.9
  Services..............................   2577.0   2638.3 | 2614.7 | 2640.6   2665.6   2689.0
                                                           |        |                 
Gross private domestic investment.......   1009.4   1056.6 | 1011.4 | 1093.1   1083.9   1139.4
                                                           |        |                 
  Fixed investment......................    975.9   1042.1 | 1013.3 | 1057.5   1066.6   1092.7
    Nonresidential......................    714.3    766.8 |  743.5 |  781.4    792.0    814.6
      Structures........................    181.1    190.0 |  186.6 |  188.6    199.8    204.4
      Producers' durable equipment......    534.5    578.6 |  558.3 |  595.0    593.7    611.9
    Residential.........................    262.8    276.7 |  271.1 |  277.8    276.6    280.3
  Change in business inventories........     32.7     13.6 |   -3.5 |   34.1     17.1     46.1
                                                           |        |                 
Net exports of goods and services.......   -107.6   -113.6 | -104.0 | -137.4    -98.4   -130.3
                                                           |        |                 
  Exports...............................    775.4    825.9 |  806.7 |  816.1    862.9    879.9
    Goods...............................    565.9    608.8 |  590.9 |  601.1    642.6    656.8
    Services............................    210.4    218.2 |  216.7 |  216.1    221.7    224.6
                                                           |        |                 
  Imports...............................    883.0    939.5 |  910.7 |  953.5    961.3   1010.1
    Goods...............................    744.7    796.3 |  768.4 |  810.0    817.0    861.6
    Services............................    138.8    143.8 |  142.8 |  144.1    145.0    149.3
                                                           |        |                 
Government consumption expenditures and                    |        |                 
 gross investment.......................   1260.2   1270.6 | 1254.7 | 1276.1   1273.4   1271.6
  Federal...............................    472.3    467.1 |  462.9 |  469.3    462.9    458.8
    National defense....................    319.6    313.9 |  311.9 |  314.9    309.4    301.3
    Nondefense..........................    152.3    152.8 |  150.6 |  153.9    153.1    156.8
  State and local.......................    788.6    804.3 |  792.6 |  807.7    811.4    813.9
                                                           |        |                 
Residual................................    -11.1    -27.3 |  -21.2 |  -29.6    -34.7    -39.3
                                                           |        |                 
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                   ycaster@gol.com