第1359号 1997年05月16日(金)

《 interest rate oriented 》

 ドルは今週、最安値で114円台の後半(114円70銭、昨年12月末の相場水準)を記録しました。日本時間の木曜日の夕方でした。先週のニューヨークの引けが120円前後でしたから、一週間弱で5円円高になったことになる。しかし、これは明らかに「ドル安」ではなく、「円高」でした。ドルは対マルクでは一貫して足取りはしっかりしていた。円はマルクやポンドに対しても大幅に値を上げた。

 今週円高に動く可能性が高いことは12日の当ニュースで取り上げましたが、それと併せて週中に出てきた要因を整理すると以下の通りです。

  1. 日本の円金利上昇と、逆に米での利上げ見送りの観測
  2. これらによる「日米金利差拡大」観測への見直し
  3. 市場での特に対円でのドル・ピークアウトの思惑とそれに伴う各筋の為替オペレーション
  4. 120円台での日米当局の一貫した「円安是正」発言

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 この中で、相場を一番突き動かし、今後も当面のドル・円相場を動かす大きなな要因であり続けるだろうと思うのは、「円金利の上昇見通し」です。既に何回も指摘している通り、世界でもっとも金利水準が低い国での金利の上昇は、世界中の金融市場に影響を与える。円はドルに次いで流動性の高い通貨で、その低金利故に世界中の投資資金のファンディングに使われている。その国の金利が上がりだしたことは、ファンディング・コストの上昇を意味しますから、資金が他の調達を探すことになります。他で調達するとなれば、借りていた円を返す動きが出る。これは円高要因です。

 今週見られたいくつかの報道は、円資金調達組のいくつかがスイス調達に乗り換えつつあると指摘している。これは円高・スイス安要因です。スイスの国内短期金利は日本と同じように低い。日本より金利上昇の危険性の少ないスイスからの調達を増やそうという動きです。むろん調達をどのタームでやっているかが重要です。日本の金利が上昇したと言っても長いところが中心で、短期は上がっていない。しかし、今週は日本の公定歩合の引き上げ説まで出た。公定歩合が上がるとなれば、金利水準自体が上に動きますから、円調達組は不安になる。

 

《 yen interest rates will decide 》

 12日のレポートでは、「ドルは110円から115円の間に落ちる可能性がある」と書きました。そのような展開になったのですが、今後ここまで来た相場がどう動くかは、円金利の動向に大きく左右されると思います。

 円相場の当面の落ち着き所に関して市場の一般的な観測は、昨日のNando Timesにも出ていましたし、今朝のウォール・ストリートの市況記事にも出ているのですが、「115円割れは一応の達成」という見方が強い。Nando Timesには、

 "So basically there is a comfort zone that both the U.S. and Japan would be happy with, and when the dollar gets down to around 115 yen, the Japanese will say 'no more'," Davies said.

 という記述が見える。Daviesとはsenior strategist at Societe Generale Strauss Turnbullです。しかし、私が見るところ本当に日米当局がより満足するのは(市場がそう動くかどうかは別として)、まあ113円でしょうか。日本もアメリカも、115円の近辺から為替相場に不満を述べていますから、本当は110円台の後半は許容範囲であっても、理想的なレベルではない。113円は110円割れにも余裕のあるレベルです。

 しかし、そこまで行かずにドル・円が110円台の後半に戻るのか、それとも110円でも止まらずに100飛び台(例えば108円)に行くのか、それとも113円くらいに落ち着くのかは、円金利の先行きに対するマーケットの見方が一番重要だと考えます。円金利が上がると市場が見れば見るほど、円は上昇する。Yen fundingの返済があるからです。

 Yen fundingという面では、「アジア各国が抱えている円ローン」の問題を忘れることは出来ません。95年に円が80円割れまで上昇した大きな要因は、アジアの中央銀行の円ローン返済資金手当や外貨準備の入れ替えに伴う円需要です。このstockとしての為替が動き出してしまったら、相場は止まらない。

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 ということは、「so far so good」だと考えている日米通貨当局にとって、相場に誘因を与えるよりも、落ち着かせ場所探しが難しいと言うことです。その難しさをかいま見せてくれたのは、木曜日の東京市場。そこではしばしば「two-way market」が失われていた。Offerbidのどちらかが消えているケースが見られた。ニューヨーク連銀は市場が「秩序を失ったかどうか」の一つの基準を「two-way market」が失われたかどうかに置いています。そういう意味では、木曜日の東京市場は「秩序を失っていた」と言える。日米金利差に関する見通しが安定しないうちは、ドル・円相場の不安定は続くということになる。今のマーケットの状態だと、「円金利の上昇はそれほどないし、ましてや政策金利が上がることはない」と多くの市場関係者が考え始めて初めて、ドル・円相場は110円台で落ち着く可能性が高いと考えます。

 

《 lower U.S. interest rates 》

 「日米金利差」という観点でもう一つ重要なのはむろんアメリカの金利です。12日に書いたとおり筆者は「利上げなし」と見ています。それは5月8日のグリーンスパンFED議長のニューヨーク・プラザホテルでの講演から判断したものですが、

 

  1. 利上げを強く正当化する発言をしているが、それは3月25日の措置に関してであ って、5月20日に言及しているわけではない
  2. 3月25日以降に出た強い経済指標にも関わらず、グリーンスパン議長は米経済に対 する見方そのものは変えていないと言っている
  3. 金融政策がいまはやりの「冷や酒効果」を持つものであるとしたら、3月の一杯の効 き目が少し分かってから手を打つのが妥当である

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 というものです。<1>については、議長は一応の挨拶をして直ぐに

 
 A central bank's raising interest rates is rarely popular. But the Federal Reserve's action on March 25, to tighten the stance of monetary policy, seems to have attracted more than the usual share of attention and criticism. I believe the critics of our action deserve a response. So tonight, I would like to take a few minutes to put this action in the broad context of the Fed's mandate to promote the stable financial environment that will encourage economic growth.

 と述べ、今回の講演が3月25日の利上げの正当性を改めて主張するものであることを明確にしている。上にクウォートした文章などは、「強い調子だ」という印象を読む人に与え「また利上げか」と思いがちですが、これらはすべて3月25日に関してのものである。

 <2>について気になった文章は

 I wish it were otherwise, but there is no alternative to basing policy on what are, unavoidably, uncertain forecasts. As I have indicated to the Congress, we do not base policy on a single best-estimate forecast, but rather on a series of potential outcomes and the possible effects of alternative policies, including judgments of the consequences of taking a policy action that might, in the end, have turned out to be less than optimal.

 I viewed our small increase in the federal funds rate on March 25 as taken not so much as a consequence of a change in the most probable forecast of moderate growth and low inflation for later this year and next, but rather to address the probability that being wrong had materially increased.

 という部分。これはつまり3月の利上げ時も米経済が彼の言うところの「transitory growth」であったのか、それとも「sustainable growth」であったのかは実際にはよく分からなかったが、「利上げは、行動しなかった時に生ずるかもしれないリスクに対する保険だった」と言っているわけです。だとしたら、「第一・四半期の高い成長は季節要因や天候に基づくもの。これから景気は鈍化する」という見方がむしろ強くなっているこの時期には見送って、また7月に考えれば良い。<3>の冷や酒効果も同じことです。通常、通貨当局が一度政策決定をして、次の理事会でまた同じことをすると言うのは前回の判断が間違っていたことを示すようなもの。だってそうでしょう、なぜその時2回分をやる決定が下せなかったのかと。だから、小生は今の状態では、5月20日の利上げはないと思います。昨日発表のの消費者物価指数のコアが多少大きかったとか言うのは、全く関係のない話だと考えます。

 

《 bias is for higher yen 》

 既にドル・円のフォワード・レートで見ると、つい最近まで1 year で700(7円)あった幅は、600程度まで縮んでいる。これは頭が大きく円高に動いたことが大きいのですが、この幅はもう少し縮小すると思います。ニューヨークでは木曜日に一段と長い金利が下がって、指標30年債の利回りは6.86%(前日は6.88%)になっている。これはもうちょっと下がると予想します。筆者は、アメリカがインフレになる可能性は極めて低い、という見方。

 日米金利の動向や、今までに世界中で積み上がった投資に占めるドルの割合の高さ、今回の相場がまだ若いこと、円金利の底打ち感は強いと予想されることなどから、基調はまだ円高でしょう。むろん、116円前後が将来の一つの有力な落ち着き場所ではありますが。

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 ニューヨークの株は、引値で初めて7300ドルを上回って引けました。今週何回かザラ場では乗っていたものの、維持できずに反落して終わっていたもの。当然、史上最高値。引け際一時間の上げが目立ち、銘柄ではハイテク株が買われていた。DEC(デジタル・イクイップメント社)がMPUの処理速度向上に関する10件の特許権侵害でインテルを訴えたことで、ハイテク株は気迷い気分でしたが、昨日は力強く上げた。この結果、木曜日段階のニューヨークのダウ平均は、7333.55ドルとなった。

 昨日のニュースでおもしろかったのは、SBCウォーバーグが米Dillon Readを約6億ドルで買収することになったというもの。ウォール・ストリート・ジャーナルは、「最近の一連の欧州投資銀行による米投資銀行業務への参入の動き」の一環と書いている。企業の国際化や世界経済のグローバル化が急速に進展する中で、金融も「グローバル」な対応を迫られていると言うことでしょうか。世界的な金融のネットワーク化への動きの一環と思われます。

 

《 have a nice weekend 》

 今週は相場が動き、いろいろ噂が飛び交った。結構面白い一週間でした。なかには笑ってしまう噂もあった。「噂」のない「市場」はない。レーガンは任期中に私の記憶だと5回も殺されている。しかし、市場の噂が街の噂と違うのは、「三日」なんてとんでもない。「数時間」で消えると言うことです。あまりお品のよくない rumor factoryがあるんでしょう。

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 「噂」程度には、ちょっとパンチの効いた「駄洒落」をかませば (^_^;) 十分でしょう。我が家の団欒の席での会話。これは私のインターネット上のHPでは既に紹介したのですが、大勢の方から座布団もらいました。(子供は小6で競馬好き。今の小学生にはファミコン・ソフトの影響で「競馬好き」が結構多い)

 

子供:      ねえねえ、任天堂64は、64ビットでしょ。やっぱり綺麗だよ...

         馬も本物みたいで...

小生:      そう、やはり32ビットとは違うか。スピードも違うだろう。動きも...

我が家のもう一人:なにそれ、「ビット」って。

子供:      """^_^"""

小生:      ビットってのは、情報の最小単位で、要するにこれが多いと綺麗なわ 

         けよ..... パソコンもスーファミも.....

子供:    (わかってないくせに) そうだよ、そんなの知らないの....

小生:    (ちょっと威張って) 分かった....!!!!

我が家のもう一人:ウーン、ちょビット.......

小生・子供:   (.) ( ) §^^§ (^O^) _(._.)_

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 それでは皆さん、良い週末を。忘れてました、住友信託銀行のインターネット上のホームページが模様変えしました。つい最近です。今までのはちょっと暑苦しかった。今回のは涼しい。まあまあですかね。URLhttp://www.sumitomotrust.co.jp/。ドメインを獲得したと言うことです。  
                 ycaster@gol.com