第1362号 1997年05月30日(金)

 6月9日分は、明日10日に掲載します。
《 the importance of Japanese yen rates 》

 今週のドル・円市場は、円金利の影響の大きさを如実に示しました。週中一貫して、円金利が上昇基調の時にはドルが売られて円が買われ、円金利が低下しているときにはドルが買われて円が売られた。この円金利とドル・円相場の関係はしばらく続くでしょう。

 中でも、ドル・円相場を一番動かしたのは木曜日に発表になった4月の日本の鉱工業生産速報でした。「100.8、前月比0.4%減」という数字に、市場はドル買い、円債買いに転じた。日本の景気の弱さを見たからです。通産省は「生産は足元の一時的要因の影響から低下となったものの、前年同月比では高い伸びが続いており、総じて見れば穏やかな上昇傾向で推移している」としている。消費税引き上げ前の駆け込み需要の反動が出たためとみられているが、市場が1%前後の増加を見ていたところに「前月比0.4%」という数字でしたから、市場の日本経済への景況感は大きく変わった。

 今朝の日経は、「4〜6月期の鉱工業生産指数は、前期に比べて0.7%の低下」との見方を明らかにしている。また、今朝のニュースによれば、日銀高官が「日本経済には利上げは尚早」と述べたという。

 こうした一つ一つの指標の動きは別にして、円金利については年初の「上がれない」「だから下がるしかない」という見方がここに来て大きく変わってきたことは確かです。

  1. 年初の「日本経済総悲観論」が、「日本経済二極化論」に変わってきて、活力ある部門の存在が広く認知され、それが景況感に影響を与え始めていること
  2. 実際問題として、日本企業の中に再び世界で注目されるいくつかの企業が出てきて、「日本経済見直し論」が海外からも出ていること
  3. こうしたパーセプションの変化の中で、日本の株式市場が全体的にも強さを取り戻し、堅調に推移していること
  4. 国内政界には、非経済的要因を主な背景としながらも、「金利引き上げ論」が根強く、それが無視できない力として存在していること
  5. 経済指標の中にも、経済の基調の回復を示すものが散見されるようになり、今後もこうした指標が増えるとの予想もあること

 これは指数化する事が難しいのですが、日本に対する見方は「総悲観論」から確実に「二極化論」に変わってきている。「むろん悪いところもある」、しかし「力強いセクターも、成長力のある企業も、そして世界に誇れる製品もある」という見方。後者が見方としては妥当ですが、「総悲観論」の時に比べれば景況感の改善は間違いない。そういう意味では、日本の金利には徐々に下方硬直性が出てきている。

 

《 German fiasco 》

 金・外貨準備の再評価益を財政赤字の穴埋めに使おうというドイツ政府・与党の案は、予想通りドイツ国内で激しい論争を巻き起こしている。28日にはドイツ連銀が、「(年内に再評価を予定する政府・与党の政策は)マーストリヒト条約違反であり、連銀の独立性に対する干渉である」と声明。これに対して政府・与党は「(金・外貨準備の再評価は)ドイツ連銀の独立性に対する干渉ではないし、同連銀の金融政策遂行の独立性を損なうものでもない。今年再評価を行う方針は変えないし、必要な連銀憲章の変更も行う」と述べている。これだけ見ると、ドイツ連銀と政府・与党が真っ向から対立したように見える。

 しかし事態は複雑で、ドイツ連銀は同日出した声明の最後の方で、「もっぱら1990年のドイツ再統一に関連して発生した同国の公共債務残高を減らすために再評価益を使うことについては、原則的に同意する」と述べている。ドイツ連銀はまた、再評価を今年ではなくそれ以降に行うべきであるとしている。ドイツ連銀は、再統一コスト関連債務削減の為に来年以降に再評価益を使うのは賛成だが、1997年のドイツ財政赤字をマーストリヒト条約に決められた「GDPの3%以内」に収めるために年内に再評価するのは許せない」と言っているのです。

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 欧州市場は、この両サイドの声明を巡る解釈の振れや、ポジションの投げ合いで特に28日には大きく変動した。上下150ポイント程度の動き。結局ブンデスが政府与党に押し切られて金・外貨準備の再評価益が財政赤字埋め合わせに使われるようなことになれば、他の諸国もまねをしてユーロの参加基準が緩やかになり、マルクも弱体化する可能性があると読む。

 今朝のウォール・ストリート・ジャーナルの記事には以下のような文章があるが、市場の空気をよく伝えている。  

「Currencies are in for a choppy session "as various interpretations of the gold scenario in Germany and the French elections emerge," said Ben Strauss, assistance vice president of foreign exchange at Bank Julius Baer & Co.

    "The market is clearly confused over the recent developments in the EMU process and a divergence in opinion is growing, which is being reflected in the market," said Bob Near, vice president of foreign exchange at Bank of New York.」

 ドイツでは、この「再評価」を持ち出したワイゲル蔵相に対する「辞任要求」まで出ている。ワイゲル蔵相は木曜日にババリアで、「再評価は必要。作り出された益は、1マルクたりとも、ドイツの財政赤字埋め合わせのためには使わない。ドイツは、再評価益がなくともマーストリヒトの条件を満たすことが出来る」と述べている。この問題は、来週以降も欧州の為替市場を揺さぶりそうです。

《 have a nice weekend 》

 今週は海外市場が休みだったにもかかわらず、相場が大きく動い一週間でした。来週も相場は神経質な動きを続けそうです。欧州も来週は今週ほど休みは多くない。ちょっと、寒い日が多いですね。天候もそうですが、オフィスで冷房が走り出したせいかもしれない。ちょっと体調を崩している人が多いようです。

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 今朝見たニューヨーク・タイムズのインターネット版の一面に大きく「Irabu's a Yankee -- Four years, $12.8 Million 」という記事がありました。今朝の日本の新聞には載っていないので紹介しておきます。115円で換算して「4年間で14億7200万円」。年間3億6800万ドル。日本の最高年俸選手をちょっと上回るくらいですか。しかし、所得税率を考えれば、伊良部の方がよほど高給取りです。伊良部とヤンキースは最終的な詰めを現在行っている最中で、詳細はニューヨーク時間の金曜日に記者会見で発表になるという。あとニューヨーク・タイムズには以下のような記事がありました。

 
The 27-year-old right-hander, who has 59-59 career record in Japan's Pacific League, will receive the largest contract ever for a major league rookie, a deal that averages $2.7 million a season. He likely will be assigned to the minors for a week to a month. Depending on when injured Dwight Gooden is ready to return, Irabu could take the place of Gooden or Kenny Rogers in the Yankees' starting rotation.

 

 大リーグで実績のないピッチャーとしては破格の扱いと言うことでしょう。大リーグはピッチャー不足なんですな。この混乱の中で、彼の体がどの程度実践への備えが出来ているかが注目です。多分、

「野茂で俄然注目が高まった日本からの選手」

「一連の騒動」

「伊良部の球速に対するアメリカでの一種の神話」

そして「ヤンキースという名門チーム」

 などから、彼が大リーグのマウンドに上る時にはもの凄く注目されるでしょう。映画になるかもしれない。伊良部がこの期待に応えられるかどうかがまずの関心事項です。

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 来週は月、火と札幌出張ですので、このニュースはお休みです。皆様には良い一週間をお過ごし下さい。  
                 ycaster@gol.com