第1367号 1997年06月23日(月)

 27日のNEWS AND ANALYSIS は週中出張などあり、ありません。短観などありましたが、ドル・円の基調は弱いとの23日の見方は変えていません。
《 Summit ended with two lengthy statement 》

 デンバーで開かれていたロシアを含む初の先進国首脳会議は、21日に「GROUP OF SEVEN STATEMENT ON ECONOMIC, FINANCIAL ISSUES」(いわゆる「経済ステートメント」)を、22日に「FINAL COMMUNIQUE OF THE DENVER SUMMIT OF THE EIGHT」(「最終コミュニケ」)を発表して閉幕しました。サミットが発表した声明はこれ以外にもカンボジア問題、ボスニア問題などあり、また主要二宣言はそれぞれが長い文章となっている。これだけ見ても、サミットが首脳達だけの「自由な討議の場」というよりも、長い事前準備を行った上でのシャンシャン会議になっていることを示している。

 それぞれの声明の全文は、アメリカ政府がインターネット上に作ったサミット公式サイト(http://summit8.gov/denver.htm)の文書サイト(http://summit8.gov/document.htm)にありますからそこで見てもらえば良いのですが、その中で一番注目される各国経済に触れた部分は以下の通りです。サミットが各国別の「課題」を列挙したのは1993年以来だという。「課題」列挙は、ステートメントの第7項です。

7. Our countries' circumstances and priorities differ.

-- In the United States, with a long recovery and
successful job creation, it is important to remain
vigilant against a resurgence of inflation, to achieve the
full promise of the agreement to balance the federal
budget, and to promote savings. Canada, with very low
inflation and impressive success in cutting budget
deficits, has recorded increasing growth recently which
should lead to further job creation.

-- Japan has the objective of achieving strong domestic
demand-led growth and avoiding a significant increase in
its external surplus. Further structural reforms,
including broader deregulation initiatives and appropriate
structural reforms in the fiscal area, are important over
the medium term to revitalize the Japanese economy
further.

-- France, Germany and Italy share the challenging task of
restoring strong employment growth. While pursuing efforts
toward restoring sound long-term fiscal positions, they
will need to deepen structural reforms to reduce barriers
to job creation and to increase efficiency of government
action and, where necessary, reshape its role in their
economies, including through reforms of the tax and social
security systems. The United Kingdom must keep inflation
pressures under control and maintain budget deficit
reduction while strengthening the economy's long-term
growth potential, particularly through education and
welfare reform.

 日本については、@力強い内需主導の経済成長 A対外収支黒字の大幅な増加の回避――の二つが「目標」であるとされ、「日本経済の活性化を中期的にさらに進展させる」ためには、「規制緩和努力、財政面での適切な構造改革を含むさらなるより広範な構造改革」が必要とされた。

 為替に関しては、週末のニュースの中に「play up play downもしなかった」とのルービンの発言が出ていましたから、サミットの場か蔵相会議の場では出たのでしょう。しかし、経済宣言の宣言内容を見ても分かるとおり、為替の水準が特に話し合われた形跡はないし、その点は予想通りです。週明けの市場は、「サミットではやはり話題にはならなかった」と多少ドル買いで始まっているのはknee-jerk reactionとしては自然。

 

《 how to achieve two objectives 》

 しかし、G7経済宣言の中に「(日本は)対外収支黒字の大幅な増加を回避」すると明確にうたわれたことは、日本にとって今後重い課題になりそうである。最近の黒字増大に対する日本政府は、

  1. 消費税の引き上げで内需が落ちた
  2. アメリカの自動車メーカーのストなどで、対米自動車輸出が増加した

 などで一時的な要因だとの立場をとっている。持続的でないことを強調しているわけだ。従ってこれがこの先減少に転じなければ、新たな対応を迫られる。こうした環境の中では、ドル相場が懸念なく対円で上昇する局面は考えられない。必ずしも対外収支の黒字増加が一時的でない兆候も出ているからです。

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 今回のサミットで一番特徴的だったのは、つい2〜3年前は「日独がアメリカに説教する場」であった会議が、「アメリカが日本と欧州に説教をする場」に変質したことです。これは、アメリカの経済の力強い成長に対する日独経済の低迷がある。こうした環境はしばらく続くと思われる。

 もう一つは、今朝の日経新聞の社説が嘆いていることですが、G7G8になったことにより、「経済」が主要議題からはずれてきたことです。エリツィンが場をはずした1時間の間にG7諸国は経済問題を話し合い、シェルパが準備した経済ステートメントを承認して出しただけ。日本も欧州もあまり経済のことを話したくなかったし、アメリカにしてみればホスト国としてエリツィンに気を使ったということがあるでしょう。

 しかし、世界経済がグローバル化し、またネットワーク社会が広がって世界経済が相互リンクすれば、世界経済が共通に抱えるリスクは高まる。今後サミットが経済を軽視し続ければ、サミット参加国の世界経済に占める地位が低下している中で、改めてその継続意義が問われることになるでしょう。当面課題に上ってくるのは、中国やインドの参加促進です。

 

《 tankan week 》

 今週の予定では、やはり日銀の短観が大きい。予想を見ているとかなり幅があるのですが、全体としては弱めの数字を市場は織り込んでいる。従って、強めの数字が出たときに市場への影響が大きいと予想される。

 

 23日(月)         EU蔵相理事会(ルクセンブルクで)

 24日(火)         米消費者景気信頼感指数(6月)
 25日(水)         6月の日銀短観
                5月の米耐久財新規受注
 26日(金)         5月の日本の鉱工業生産
                6月の都区部、5月の全国消費者物価
                5月の日本の完全失業率
                クリントン、米自動車ビッグ・スリー首脳と会談

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 先週金曜日にこのニュースで取り上げたアメリカにおける生産性論議に関しては、20日付けの英ファイナンシャル・タイムズにかなりまとまった記事がある。予想外にアメリカの生産性は上がっている、との見方を紹介している。最近では、この問題に関してもっともまとまったレポートです。

 

《 have a nice week 》

 サミットが行われたデンバーは一度だけ行ったことがありますが、「空気が綺麗な場所」という印象が強い。天体観測に適しているようで、その手の施設がいっぱいあったような記憶があります。しかし確かに海抜は高く、1500くらいあったと思います。夏の日差しは強かった。各国の背が高く、かつ恰幅の良い首脳の中で、橋本さんはちょっと華奢に見えましたね。

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 週末は天気が良かったのに、今日はまた雨模様。梅雨はもうしばらく続きそうです。それにしても阪神は強い。昨日は負けましたが、凄い粘りでした。吉田監督がフランスから帰って来て「ひと味違う野球になるのでは」とここでも書きましたが、ほかのチームにとって「HANSIN」は「安心」(フランス語の発音では「ANSIN」)できるどころか、手強い相手になった。「HANSIN」ファンは、優勝を心配し始めているようですが、そりゃちょっと早い。

 それでは皆様には良い一週間を。

 
                 ycaster@gol.com