第1370号1997年07月11日(金)

《 in a range 》

 今週は何か「既視感」の強いマーケットでした。基本的にはドル・円相場がレンジだったということもありますが、112円のローに行ってMOF当局がそれを牽制する発言をするというのも、これまでに何回も繰り返していることです。しかし全体的にはドルの頭は徐々に重くなっているという見方は変えていません。アメリカの金利は景気が良くても上がらない環境になってきていること、日本の黒字の増加はしばらく続くと考えるからです。また、多少円高になっても、日本の景気が特に悪くなることもないと考えます。

 今週注目されたのは、ティートマイヤー・ドイツ連銀総裁が久しぶりに為替に関して言及したことです。

 「マルクは強い通貨として欧州経済通貨同盟に入るべきだ」

 というのがそれ。このティートマイヤー発言は、ブンデスバンクの金利据え置き発表の直後になされたもの。同総裁は

 「ドイツの景気回復は既に始まっており、マルク高の調整は最終局面にある」

 とも述べている。この「最終局面」発言はしばらく前にもありましたが、これまでの全通貨に対するマルク安がそろそろ行き過ぎとの判断をドイツの通貨当局がしている証拠とも取れます。従って、マルク安は今までのようなペースでは進まないでしょう。

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 イギリスが0.25%の金利引き上げを行い、6.75%にした。予想通りで、またこの利上げに対する市場の反応も予想通り。ポンドは高値から反落した。ポンドの今後の展望は必ずしも良くないと考えます。何よりも財政赤字の水準が極めて高い。また、ポンド高の影響で製造業がかなり打撃を受けている。ということは、金利引き上げももうあまり行えないと言うことです。今のイギリスの景気は消費主導で、この転換が課題です。

 アジアでは、フィリピン・ペソが焦点になってきた。昨日のアジア・ウォール・ストリート・ジャーナルには、ペソに関して二つも記事がある。「マニラ、ペソを防衛:しかし株価は急落」「分かれ道に立つフィリピン経済」の二つがそれ。国内を経済開発したいために資本の導入を図り、その為に実力以上に金利を高くしたりする。そのうち経済が打撃を受ける。しかし、政治家は国民に約束したバラ色の経済を反故にはできない....ということの繰り返しがある。

 タイもそうですが、資本が無い国の経済開発はしばしば行き過ぎの中で挫折する。日本は、明治維新の時でさえかなりの資本的蓄積があった分だけ有利でした。アジアの諸国の経済困難は今後も続きそうです。

 

《 stock in a wide swing 》

 為替より派手な動きをしたのは、株でした。ニューヨークの株は、ダウ平均で一週間の中で100ドル以上の下げと100ドル以上の上げをともに経験した。高値は7990ドルとあと10ドルで8000ドルの所だったと思います。しかし、木曜日の引けは7900ドルを割っている。指数の動きも派手でしたが、銘柄や銘柄グループの動きも激しかった。ダウは下げているが、NASDAQが上げていたりした。

 金利は下げていますから、あとは企業業績が付いてくるかでしょう。しかし、全体的にはニューヨークの株価には慎重になるべきだと思います。株より確かな値動きを示したのは、債券でした。木曜日の引けは、指標30年債で6.55%まで低下している。世界的にインフレの沈静化は顕著になってきている。

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 これとの関係で今週は、「フィナンシャル・タイムズ」と「エコノミスト」に、通貨統一後の欧州の物価の行方について同じ様な記事が載っている。そこで出てくるキーワードが「price harmonisation」、つまり価格調和(一体化)。どういうことかというと、euroという統一通貨が出来てドイツの物品もフランスのモノも同じ通貨単位で表示されて、しかも「為替リスク」がなくなる。そしたらその後の欧州では当然「モノの値段が国境を越えて一段と接近する。しかも、安い方に鞘寄せされる」結果になる、という事です。それを「harmonisation」と呼んでいる。

 もう一つのキーワードも出てくる。「price transparency」。つまり、価格の透明性。ドイツの業者がフランスのワインを輸入して売る。どこまでが輸入にかかわるコストか、為替によって生じたコストか今までは必ずしも明らかだったわけではない。しかし、同じ通貨(euro)での表示になれば、価格の透明性が高まる、というわけです。

 この議論は非常にわかりやすい。確かに同じモノの値段でも、九州と北海道では違う。輸送コストがあったりするからです。しかし、同じ円建てで九州では北海道の二倍するというようなモノはごく少ないでしょう。しかし国が違えば今までは関税や情報格差、モノを動かす際のコストなどなどで、二倍くらい価格差はいくらでもあった。欧州では、その格差がなくなる、とこの二つの紙誌は主張しているわけです。

 しかし「別に単一通貨にしなくたって、同じ事は起こる」と私は考えています。ベルリンの壁が落ちたことによる市場経済の拡大とデジタル・ネットワーク革命で。エコノミストの記事の頭にある絵が面白い。ドイツ・マルクやフランス・フランの壁をブルトーザーが壊している図式。確かに「通貨」は一つの壁です。それが崩れる。しかし、「壁」は「通貨」だけではない。規制もそうだし、情報が伝わらないことも「壁」です。そうした壁がなくなりつつある。

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 木曜日にあった興味深い動きとしては、コンパックのビジネス用パーソナル・コンピューターの最高22%値下げがある。ヒューレッド・パッカードが直ちに24%の値下げを発表しているが、IBMもこの値下げに対応する予定。

 コンパックの値下げは、デルやゲートウェイの「受注生産」による価格引き下げに対抗するためで、コンパックも同様の体制を取る。最大手のコンパックが大幅な値下げをしたことで、

  1. 業界の再編
  2. アメリカの物価水準全体に対する下方圧力

が予想されます。インフレの低下を示す指標としては、今週は金相場の下げが目立った。

 

《 have a nice weekend 》

 今週は、週の前半と後半で随分と過ごし易さが違う。このニュースを書いている最中に伊良部がヤンキー・スタジアムで投げていて、5回表を終わって4−2でリードしているようです。

 今週は、人にあっても電話で会話をしても、「オーストラリアの少年はどうしてます」という質問をいっぱい受けました。よって、近況報告します。インターネットのホームページに掲載しているものを若干手直ししたものです。<au>とは、オーストラリアを表すインターネット上の短縮語です。日曜日は、近所の子供達も集めて、オーストラリアでは禁止されている花火でもしようかと思っています。

 それでは、皆さんには良い週末を。

 
                 ycaster@gol.com