第1376号 1997年08月01日(金) 


《 with low inflation and moderate growth 》

 ニューヨークの金融市場では一週間を通じて株と債券が上げ続け、ドルが堅調な展開を示しました。つまり、「トリプル高」状態の持続。株はダウで見ると昨日は下げましたが、週間のトレンドでは右肩上がりの強い展開を変えておらず、さらにNASDAQなどのハイテク株、小型株はまたダウとは違った意味で強い展開を続けている。

 債券相場は、昨日のニューヨーク市場の引け(指標30年債)で6.29%と、私が7月04日の号(1369号)で「やや大胆な予想かもしれませんが、アメリカの長期債利回りは少なくとも6.25%程度まで下がると思います」(当時の利回りは6.55%近辺)と書いた水準に接近した。

 アメリカの金利はまだまだブル・フラットニング化すると思います。これは後で触れますが、インテルが世界で販売されているパソコンの85%に使われているPENTIUMなど同社製のMPU(中央演算装置でパーソナル・コンピューターの心臓部)価格の最高57%引き下げを発表するなど、物価を巡る環境は極めて良好です。世界中のパソコンがこれで一台当たり数万円は安くなる。また、経済指標も長期金利の一層の低下を示唆している。

 筆者の予想以上に強い展開を示したのは、ドルです。これは正直言って予想外でした。ドル高の牽引車はドル・マルクだったという見方は変えていませんが、日本サイドにもドル高に移行する材料が多く出た。またまた日本に資金を置いておくのが不安になるような事件(証券スキャンダル)が相次ぎましたし、もっと具体的には日本の長期金利が一時より大幅に低下した。日本の金利については、2%の前半を中心にレンジ内での推移と予想します。為替は大きく言って、110〜120のレンジでしょう。120円に接近したドルはあまり買う気はしない。

 ドイツと欧州全体の景況およびEUROの先行きに対する懸念は、ドルの欧州通貨に対する上げを大幅なものにしました。最近では、例えばMSIなどが「ヨーロッパの構造改革は着実に進んでいる」として、具体的にはドイツでの税制改革(個人所得税や法人税の引き下げ)や各国の財政再建の動きを指摘しているのですが、これはマーケットのコンセンサスにはなっていない。もっともこのドイツの税制改革は、31日のドイツ両院協議会で否決されたようで、こうしたことを見ているとドイツ、さらには欧州に対する悲観論は根強く続いて不思議でない気がしますが。

 ただし、為替取引の観点から言うと、今後数週間のブンデスの金利操作には注意を払った方が良い。利上げをできる環境ではないし、通貨が下がってもインフレにならないのは92年のイギリス、94年から95年にかけてのアメリカ、それに最近の日本でも言えることで、ドイツも同じことですが最近の足早のマルク下落に関してはブンデスが快く思っていないことは明らかです。

 

《 unemployment figures later today 》

 これに対して、アメリカの景況は誰が見ても「理想的」というに等しいものです。今週発表になった指標を見てもそれは言える。昨日発表になった米第二・四半期のGDP統計(advance figures)によれば、同期の成長率は2.2%と市場の予想(1.8〜1.9%)を若干ながら上回った。しかし、それよりも注目されたのは当初5.9%と発表されていた今年第一・四半期の成長率が4.9%に大幅に下方修正されたこと。この二つの数字を見れば、アメリカの景況の拡大ペースは理想的と言って過言ではない。

 今週出た数字では、第二・四半期の米雇用コスト指数が0.8%の伸び。これは、第一・四半期の0.6%の伸びを上回るものですが、その背景はもっぱら健康保険給付の増加を背景とするもので、賃金とサラリーの伸びは縮小している。「アメリカの失業率が25年ぶりの低水準にもかかわらずインフレがない証拠」との受け止め方が大勢だった。あと、7月の消費者の景気信頼感指数が126.5と発表され、これは6月の129.9を下回った。

 ――――――――――

 今週残っている重要な数字としては、米7月の雇用統計です。今日から8月になったばかりだというのに、もう7月の数字が出てくる。予想は4.9%への率の低下と、非農業部門就業者数の22万強の増加。これとの関連では、昨日発表になった失業給付申請者数は、1万6000人の増加予想に対して2万2000人減少して27万7000人となった。

 ――――――――――

 インテルが今週発表したペンティアム(MPU=中央演算装置 パソコンの心臓部)の5〜57%値下げは、世界で使われているパーソナル・コンピューターの85%に同社MPUが使われている現状から見れば、結果として世界全体の物価抑制に大きく貢献すると思われる。インテルは今回の値下げについて、MMXチップの製造方法が改善されたことを挙げているが、業界関係者の見方は「AMDなどの後発メーカーの値下げ攻勢に対抗したもの」との見方が強い。ここしばらく「独占状態」を続けていたインテルにも競争相手が現れたことにより、「産業のコメ」とも言えるものになったMPUはさらに安くなるでしょう。

 インテルの値下げ発表に対抗して、AMDなど対抗メーカーもMPUの大幅値下げを発表している。

 

《 have a nice weekend 》  

 「今年は冷夏」という予想を気象庁は変えていないそうですが、引き続き暑いですね。まあ夏はゆっくり歩くいうのがこつでしょうか。足早に歩くと、それだけで暑くなってしまう。

 ――――――――――

 今日は、本を二冊紹介しましょう。一冊は、文芸春秋社の「夜と女と毛沢東」。「吉本 隆明」氏と「辺見 庸」氏の対談ですが、圧倒的に面白いのは「辺見 庸」さんの発言です。冴えわたっている。この本を読むと、「対談が知的闘争」であることが手に取るように分かる。内容もかなり詰まっている。対談の勝者は、明らかに「辺見 庸」氏です。

 辺見 庸さんの作品と言えば一番有名なのは「もの食う人びと」で、今文庫になって加筆のうえ多分文芸春秋社から出ている(タクシーの窓にやたらに張ってある)のですが、私はハードカバーで出た時に直ぐに読んで、この人の持つ凄みを堪能しました。「夜と女と毛沢東」も、辺見さんのすさまじさが良く出ている。この人は、体や頭の熱量が普通の人の5倍くらいあるのではないでしょうか。

 本の最初に辺見さんが、「これは横綱対幕下みたいな対談である。まともにいってはとても勝負にならないから、私としては奇襲をかけるほかない。蹴たぐり、足取り、とったりは言うにおよばず......」と書いている。しかし、勝者は明らかに辺見さんです。

 ――――――――――

 もう一冊の本は、日本経済新聞社刊の「スピードの経済」。この項で宣伝するつもりはなかったのですが、昨日の日経の朝夕刊や日経金融新聞などに私の名前とともに出ていましたので、このニュースの読者に著者としてご挨拶しないのは失礼でしょう。この本は、このニュースから生まれた面が強い。

 誤解していただきたくないのは、私は「のぞみ」より「踊り子号」が好きな人間です。しかし、今の世界経済を素直に見ると明らかに80年代と違う構造になっている。アメリカの「NEW ECONOMY」論もそうした環境の中で出てきている。この本は私が金融市場をずっと見ていて「こうではないか」「ああではないか」と思いながら、いろいろなことに実際に手を染めた結果として、「多分こうであろう」と書いたものです。景気が良くてもインフレにならない仕組みには、特に興味をもって取り組みました。そういう意味では、「金融」の本でもあります。28日発売でしたが、大体全国の書店に並んだと思いますので、良かったら読んで批評していただければ幸甚です。

 ――――――――――

 大サービスで今日は今週発見したなかなか良いレストランも紹介しましょう。この欄のレストラン紹介を楽しみにしている人(特に女性)が多いようですから。骨董通りのHUNTING WORLDのビルを右に入って左に曲がって、また右に曲がった(^_^)(^_^)ところにあるBODY AND SOULにはジャズを聞きによく行くのですが、今日紹介する「志度」(しど)はこの隣にあります。

 フランス料理一筋(30年)の「志度 満」さんが精魂込めて作る料理。その娘さんがあれこれ説明してくれるアットホームな雰囲気。全部で20人入れません。ちいさい。なぜか。その娘さん曰く、「忙しくなるのが嫌だから」。普通はこれを聞くと「嫌み」になるのですが、料理が本当においしいから許せる気持ちになる。実際に年期が入ったフランス料理という印象がします。一つ一つが精魂込めて作られている。分からないときには、この娘さんに任せればその日入った食材と併せて良い料理を作ってくれる。番号は、3486-8989

 「しど」で思い出しましたが、私のセクションの今西は何故だか知らないが、「しっど」と呼ばれている。全く関係ありませんが。「しど」から「BODY AND SOUL」には裏に抜け道がある。

               

 
                 ycaster@gol.com