第1377号 1997年08月04日(月)


《 focus on dollar-mark 》

 今週は7月一ヶ月で対マルクで5%、対円で3%上昇したドルの先行きや、同通貨が上がり続けるとしても今後の上昇ペースを占う週になりそうです。今朝のウォール・ストリート・ジャーナルの記事などを見ても、ドルに強気な向きは多いし、事実材料を拾っていくと依然としてドル・ブルになる理由は十分ある。

 しかし、ヨーロッパの中央銀行は「ドルの上昇ペースの速さや、EUROが弱い通貨になるとのパーセプションの高まりに危機感を募らせている」との報道もあるし、事実その通りでしょう。

 ドル・円はドルの対欧州通貨での強さに引っ張られているところがある。むろん、日本サイドに株価の軟調、円金利の低下などドル高になりやすい環境があることは確かです。しかし、円には日本が抱える対外収支の黒字という問題と、あまり円安にしたくないという日米双方の政治的理由がある。従って、このまま一直線でさらにドル高が進むとは見ていません。あってもかなり曲折を織り込みながらでしょう。

 市場では依然としてドルに対して強気の見方が強い。その背景としてよく挙げられるのは

  1. アメリカ経済とヨーロッパ、日本を比べると、成長力、雇用創出力などで明らかにアメリカが有利であり、投資機会も多い
  2. アメリカでは、雇用統計の強さや全米購買部協会(NAPM)の景況指数が強かったことで、一部で利上げ観測が出ている

 などですが、筆者は市場がもっと構造的な面を見ていると判断しています。例えば、先週ドイツ連邦議会両院協議会は抜本的な税制改革を否決しましたが、これは市場のドイツ経済やさらにはドイツという国に対する市場の見方を大きく変えたのではないでしょうか。金曜日にマルクが大きく売り込まれた背景は、アメリカの強い統計以上にこうしたドイツ・サイドの抱える問題が大きかったのではないかと思います。

 「改革に足の遅いヨーロッパ」という見方が強まれば強まるほど、ドルの欧州通貨(この場合は具体的にはドイツ・マルクですが)に対する基調的強さは根強いものになる。欧州経済の本格的な立ち上がりが遅くなるからです。もたもたしているヨーロッパに対して、アメリカ議会は最近「2002年までの財政均衡化」で合意を成立させた。

 今朝のウォール・ストリート・ジャーナルには、以下のような見方が紹介されているが、これはかなり的を射たものです。
"These developments highlight the fact that Europe continues to struggle to make the structural adjustments necessary to compete in the increasingly global economy," Mr. Chandler says. "In a sense, because Germany, and by extension Europe, will not or cannot make the structural reforms ... the foreign exchange market is doing it for them."
《 Europe in dilemma 》

 ヨーロッパは明らかにジレンマに直面している。足早な通貨安を防ごうと金利を上げれば、ただでさえ弱い国内景気に打撃を与える。しかし、だからと言って自国通貨の下げを放置しておくと、今度は国内の長期金利がインフレを懸念して上昇する危険性があるし、EUROに対する信頼感を削ぐことになる。

 「ドイツはマルク相場を動かす目的で、国内金利を操作することは稀である」とよく指摘されます。ドイツが先にレポ・レートの操作方法をvariableにする余地を残したということは、少なくとも市場に「利上げもありうる」と不安を持たせようとしたのでしょうが、これは失敗した。先週末のニューヨーク市場のドル・マルク相場は、1ドル=1.86マルク台にまでドル高・マルク安が進んだ。あとは、本当に実質的な利上げをするかどうかです。ただし、国内景気を考えればなかなかできないでしょう。ブンデスは、税制改正を拒否した議会への警告として動きたい気持ちもあるでしょうが。

 協調介入の可能性もあります。1ドル=1.35に落ちたドルを回復させたのは2年前の8月15日に始まった一連の介入でした。かなりドルの買い持ちが膨らんできているという点では、効果的なものになる可能性もある。ただし、弱い国内経済と進まない構造改革を抱えたままでは、短期金利の引き上げや介入は短期的な効果しか上げられない。マーケットに足元を見られるだけです。やはり構造改革にどのくらいスピーディーに着手できるか、そうした中で市場の信頼をどのくらい取り戻すことが出来るかがポイントになると考えます。

 円も弱い国内景気やアメリカとの金利差拡大など円安要因を強く抱えています。しかし、対外収支の堅調が続いている分だけマルク安よりドル高・自国通貨安に展開するペースが遅くて当然で、事実マルクと円との関係はこのところずっと円高になっている。産業界を含めて、全体的な改革のペースは日本の方が速いという事情もある。

 アメリカ経済は引き続き強い展開を示しています。特に先週金曜日に発表された数字は、第二・四半期に成長ペースが一度落ちた経済が再び成長ペースを高めている様子を伺わせる。

 金曜日に発表になった経済指標は、何れも第三・四半期に入って米国経済が強さを取り戻しつつあることを示すものでした。

  1. 米7月の失業率の4.8%への低下(6月は5.0%)
  2. 非農業部門就業者数の予想(22万前後の増加)を大幅に上回る31万6000人への増加
  3. 全米購買部協会(NAPM)景況指数の58.6への上昇(予想は56、6月は55.7)

 こうした強い統計を受けて、米長期債の利回りは6.44%に上昇した。マーケットはこうした数字に対して、得意の knee-jerk reactionを起こしたわけです。今週380億ドルの入札を控えているという需給面の事情もあった。

 一方株は、こうした一連の統計発表直後に、ダウで100ドル以上下げた。しかし、企業の好業績予想から株は引け際に急速に戻して、小幅な下げにとどまっている。債券相場の先行きには二つの見方があるようです。ここしばらく上げた後だけに一時的に利食われただけで、時間の経過とともに戻るというのが一つと、二つ目はインフレ懸念が高まりここしばらく売られる、というもの。

 筆者は前者だと思います。確かに非農業部門就業者数は大きかったが、雇用統計の中の労働賃金に関するコンポネントを探すと、賃金が極めて落ち着いているのが分かる。時間当たり賃金などは上昇していない。ということは、雇用者は増えても(かなりの部分は、政府部門の増加で説明できる)労働賃金の上昇にまでいたっていないということです。金曜日ということもあり、またこれまで買われ続けてきたことから債券は利食われたと見ます。

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 今週の主な予定は以下の通りです。

 05日(火曜日)    月例経済報告

             日本の6月の家計調査

             6月の米景気先行指標総合指数

             日米経済協議(ワシントンで)

 06日(水曜日)    ベージュブック

              7月のドイツ失業率

  07日(木曜日)    米30年債入札

             6月の米卸売り売上高

 08日(金曜日)    日本の6月と上半期の国際収支(午前8時50分)

 

 (先週のファックス版2枚目の真ん中あたりに「アメリカの失業率が」とあるべきところが、「ア メリカのインフレ」とありました。お気づきでしたでしょうが、訂正しておきます)

 

《 have a nice week 》

 暑かった週末でしたね。「冷夏」の予想はどこに行ってしまったのかと、つい思いました。日曜日には昼に恵比寿ガーデンプレースで一つ会合があって暑さの中わざわざ出かけたのですが、ビアホールで昼からビールを飲んでいる人が多くてびっくりしましたね。また、日曜日なのに人出が多くて。あそこは何でしょうかね、オフィスビル街でしょうかそれとも渋谷にはないしゃれた繁華街でしょうか。

 一つ言えるのは、週末の日経に「丸の内のたそがれ」という記事がありましたが、色々な階層の人間が集まる街の方が自然だと言うことです。恵比寿ガーデンプレースにいれば、若者の最先端のファッションくらいは直ぐに分かる。店も多くなってきている。しかし、恵比寿ガーデンプレースにはわんさといる若者は、丸の内にはいない。丸の内には店も少ない。考えてみれば大手町とか丸の内は、自然ではない街です。昼飯もろくにうまいものは食べられない。

 丸の内や大手町も、もう少し開放的な街として変わった方が良いのかも知れません。働く人も楽しめる。その点で、新しい丸ビルがどうなるかは関心の的ですが。

               

 
                 ycaster@gol.com