私が食べ歩いたお店の紹介
私伊藤洋一が全国津々浦々を食べ歩き、見つけたおススメのお店を紹介します。

カウンターな店店

2006年9月に、新潮社からカウンターから日本が見えるという新書を発売しました。

 私がこの話をすると、大部分の人がきょとんとし、そして怪訝な顔をする。言われて「そんな筈はないだろう」と頭の中を探し回る。「どこかにある筈だ」と。

 そして暫くして、「そう言えばそうですね」と言う。皆それに驚く。不思議だがそうなのだ。この本は、その不思議に迫る。

 何のことかというと、上質な料理を頂く場所としての「料理カウンター」である。世界広といえども日本にしかない。日本人の我々にはあまりにも当たり前で、この本を手に取られたあなたも、今の今まで不思議に思ったことはなかったかもしれない。実は、私もつい最近までなんら疑問に思わなかった。あって当たり前だと思っていた。

 しかし2006年の春に行きつけの日本料理の店のカウンターで食事をしながらふと思ったのです。「あれ!こんなレストランの形は世界にないな....」と。自分が今まで駐在したり、出張、遊びで行った国々を思い出しながら。「世界のどこにもないものが日本にはある。なぜか」と考えたのです。

 を書き出しとする本ですが、私はこの本の中に数多くのレストランを紹介している。本の中では一つ一つの店に関して詳しくは書けませんでしたので、このサイトで一つ一つ紹介しようと思っています。それぞれの店に関する情報は、それを書いた時点のものであって、永久的なものではありませんし、印象は私のものであって全ての人が共有するものでもありません。しかし、本を書いた人間としてそれぞれの時点における登場店に関する情報を記しておくのは義務だと思いました。

 書き始めは2006年の09月12日としました。出来る限り、本をお礼に一冊一冊届けに歩く中での記録としたいと思います。むろん、それぞれの店に関しては、既に別のコーナーで取り扱った店もありますが、それはそれでなるべく本が完成した時点以降の情報を踏まえて書いていこうと思っています。


(2006年09月12日 133ページに登場の大阪・法善寺横町の本湖月)

 著者用の初刷りの10冊を新潮社の内田さんから受け取ったのが09月11日の深夜。その日はもう動けませんでしたので、翌日の大阪行きからが本の作成に協力してくれた店店へのお礼回りの第一弾となりました。大阪で食の行脚ではよく付き合ってくれる吉冨さんと村西さんとともに夜8時過ぎにお店を予約。

法善寺横町で静かな佇まいの本湖月  この店に関しては、大阪の店というサイトで既に以下のように私は書いています。本でこの店を取り上げる経緯なども入っているので、少し長いのですが紹介します。なお写真はすべて2006年09月12日に撮ったものです。

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法善寺横町・本湖月

 まだ料理カウンターに関する本を書いているときだ。関西テレビのアンカーのスタッフである吉富さんと、法善寺横町のバーで「料理カウンターは大阪の西区新町がスタートで.....」みたいな話をしていた。

 マスターが話しに加わってきて、「今大阪で一番良い和食のレストランは、この近くの本湖月さんじゃないですか.....」てな話になった。その時はへえと思って聞いていたが、その店を出て帰ろうとしたら本当に「本湖月」という店がすぐあった。

 少し酔っていたこともあったし、私の特徴というか「聞きたい」と思ったら止まらないというか、吉富さんがいたにもかかわらず、ずかずかずかと店の中に入っていって、既に10時を過ぎていてお客の上がった店に入っていったのです。そしたらちょうどご主人らしき人(それが穴見さんでした)がいて、突然「吉兆にいらっしたと聞きましたが、それになのになぜカウンターの店にしたのですか.....」とインタビューを始めてしまった。後ろで吉富さんがおろおろしているのを感じながら。

 その時はいろいろ聞いて頭に納めただけ。しかし、翌日思い出してそれをまとめたら以下のようになった。

 『大きなキッチンの中で働いているときは、要するに最後の仕上がりが綺麗であるかどうかが勝負でした。多少切り身の切り方がおかしくても、仕上がりがよければ良かったのです。帽子が曲がっていても、髪の毛が少し揃っていなくても、食材を多少落としても大きな問題はない。仕上がりだけが重要でした。

 (吉兆で)キッチンの中に入って一番歯がゆかったのは、「今夜のお客様はどういう人か」というのが分からないことでした。仲居さんから「お年を召した方です」とか「食べ方が遅い方です」とか聞きますが、目の前にお客さんがいるわけではない。結局は手探りなのです。

 自分の店を持つときは、お客様を目の前にして作る方式がよいと考えました。最初は作るプロセスまで見られるわけですから、仕上がりさえよけれ良いという世界とは全く違います。胃に穴が空くような思いもしました。しかし、今やっていて、このカウンターの方式の方が、お客様の食事のすすみ具合を見て作るタイミングを見図れるという意味でも良いと考えています。」

  出てくる料理は美しく、そして美味しい しかし、これをそのまま本の中に入れるのはどうかな、本人の承諾が必要だと思ったので、その翌週に吉富、村西両氏に帯同してもらって今度は食べに言ったのです。それがこの店で食事をした最初。確か2006年の6月だった。

頂いた後の写真でもこれだけ綺麗に映る器  食事はおいしゅうござんした。高麗橋吉兆、ロイヤル吉兆など「吉兆」で料理長まで務めながら、その後自ら店を立ち上げた穴見さんの腕は確かです。一つ一つに気配りが利いているし、素材に対する目利きがすごい。食器もすばらしいものが多いのです。メニューは月初めに変えて、その月一ヶ月はそのメニューと通すと言っていました。つまり、その間は同じ。

 穴見さんはその理由を、「料理に合わせて食器を入れ替えるのですが、それが大作業。月一回以上は出来ないので...」と。なるほど。従って、「これして」「ああして」とは言えない。しかし、その分だけ出てくる料理は一級です。「大阪で二番は嫌。一番じゃなければ」というプライドの高さに惚れました。

 住所は、大阪市中央区道頓堀一丁目七番11号。電話番号は 06-6211-0201。

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  法善寺横町で静かな佇まいの本湖月の前でご主人らと  この文章を書いたときはむろんカウンターで頂きました。全部で10席くらいですかね。一階のカウンターは。その目の前で、穴見さんが包丁を使い、火を使っていた。店が新しいこともあるが、店内が綺麗なのが良い。やはり店は綺麗じゃないと。中華以外は。 今回は3階のお座敷で頂きました。カウンターを希望したのですが、空いていなかったこともあるのですが、お座敷も試したかった気持ちもあったのです。2階は二部屋で小さいらしいのですが、3階は詰めれば6人が座れる広さ。ゆったりしている。窓辺にはちっちゃな庭もあります。

 今回お座敷で「本湖月」さんの料理を頂きながら思ったのは、この店は料理もそうだが、食器が凄いと思いました。私は詳しくもないし、目もない。しかし、出てくる食器がすばらしいのでつい見とれてしまうのです。今回もそうでした。

 そう言えばこの店は2年ほど前に「法善寺横町火災」で全焼した。その時穴見さんは「食器を又揃えるのは大変だし、もう店をたたもうか」と思ったというのです。食器を揃えるのには時間がかかる。しかしお客さんに言われたというのです。「わしから楽しみを奪わないでくれ」「食器はまたお客がだんだん買い揃えるから・・・・」と。

 新しい店を作るに当たっては、あってはならないが再び火が出ても食器は残るようにそれなりきの工夫をした。別の場所に月ごとに入れ替える食器を置いたのです。それを月ごとに入れ替える。大変ですが、それで一挙に全てを失う危険性がなくなった。お店をするというのは大変なことですな。

 いい店にとっては、「結局は客が揃えてくれる」という話はええ話ですな。そりゃそうだ。客は、板前さんの腕に対してお金を払うのです。

 まあでも正直、この店の料理は楽しみですよ。今日いいなと思ったのは、鱧を骨抜きして炭火で軽く炙って味噌を効かせた梅肉で合わせて食べる一品。普通鱧はそのまま梅肉と食べる。しかし火を入れることで、香ばしさが際だつのです。東京の人は大阪はちょっと遠いかもしれない。しかし、訪れるに値する店だと思います。


(2006年09月14日 51ページに登場の東京・新橋の京味)

 午後7時前から、萬久満の戸田さんと一緒に。戸田さんのように店をやっている人は、他の店を知らない。だって、自分の店があるときは他の店に行けないから。僕らの方がよほど他の店を知っている。戸田さんはだから店が休業中に、いろんな店を見ようと努力している。それに私も付き合っているというわけ。

西さんから見せてもらった昔の板前番付  「京味」は西健一郎さんが率いる店です。何時行っても「良かった」と思えるが、今回も楽しかった。この人は、「しゃべり」も面白い。もう70だそうですが、矍鑠としている。「鯛茶を」「葛きりを」と注文しても、ちゃんと作ってくれるし、その日その日の驚きも用意してくれている。ちょっと高いが、東京の和食の店としては秀逸である。

 「京味」という名前の通り、京都の料理をベースとしているが、ややワイルドというのが実感。西さんのお父さんは、有名な料理人である西音松氏。14日は、健一郎さんがお父さんについて喋ったのが面白かった。変人だったらしい。息子には何も教えない。「俺はおまえの倍飯を食っている」とつりつくしまがない。

 健一郎さんは、これまた京料理の名門であるたん熊の出身。今でも「料理を探求する気持ち」には頭が下がる。二階にはお座敷もあるが、なんと言ってもこの店はカウンターが良い。6~7人はいる職人さんたちの仕事ぶりを見ながら食べるのは楽しい。時々「これは何か」と考えて、それが当たっているときのうれしさ、そして新しい食材を出されたときの驚き。何回行っても楽しい。

 この日は、西さんのお父さんが所属していた大阪の入れ方(組合)の 電話番号は、03-3591-3344。新橋駅よりも、田村町の交差点からの方が近い。


(2006年09月26日 51ページに登場の京都・木屋町のたん熊)

 久しぶりに京都に来ています。2006年9月26日の組閣特番の前にこの番組が繰り上がり、エンドがいつもより2時間も早かったため。京都にはカウンターの本を書く上でお世話になった人や店がある。で、夕方から来ているのです。

 祇園浜作に行ったら、「間違った本が送られてきていました」と。ははは、赤面ものですな。出版社の送付担当者がどうやら別の本を送っていたらしい。ですから、4冊ほど献上してきました。森川さんも「絶対的料理、相対的料理」などを中心に本を出すことを検討中だという。

 その後はたん熊に。この店も本に登場する。しばらくご主人や女将と話していて面白かったのは

  1. 「たん熊」の名前の由来は、「丹波の熊三郎」から来ているが、京都では平仮名の「ん」が付くのを「運が良い」という風潮があり、最初「丹熊」にしていたのを「丹」を「たん」と平仮名にした
  2. 当代の「熊三郎」さんの祖父がそもそも店を開いたのは、今の北店がある場所だが、その場所を伯父譲って今の木屋町に移ってきた

 など。ご主人と意見が一致したのは、「時代とともに人々の味覚も変わる」、だから「老舗も味を変えなければ生きていけない」ということ。それは最近本当に思うのです。客にわからんように、客が静かに納得するように味を変えないと生き延びられない。だから店というのは難しいんですよ。今月閉店した「月の庭」のように「10年で閉店」と決めることも一つの方法です。しかし何代も続ける店はそうはいかない。

 「変わらずに同じでいるためには、変わらなければならない」は、国でも会社でも、そしてレストランでも、そして個人でも同じ事かもしれない。老舗はしばしばそれに失敗する。だから、時代の切れ目、味覚の切れ目には多くの老舗が潰れるのです。


(2006年12月11日 全く新しい京都のカウンターの店・未在)

 ちょっと間が開いてしまいました。この間に2回アメリカに行き、そしてメキシコに行きと海外が多かった。たん熊北店などにも時間を見つけて行ってきましたよ。ちっちゃなカウンターで、全部で7席くらいしかない。あとは座敷。浜作の銀座本店もカウンターの数そのものは少ないから、カウンター草創の初期の店は「一人で客を相手が出来る範囲」と考えて作った可能性がある。

 京都のある方に教わった「未在」は、落ち着いた印象の、美味しい料理を食べさせてくれる。場所が良い。丸山公園の中。祇園から歩いて八坂神社を右から回り込み、高台寺に抜ける門の前を通り過ぎて、女性専用ホテルの前を通り左に曲がる。もう丸山公園ですが、その中に入っていって、藤棚の向こう側。

 要するに一軒家なんですよ。石畳の階段を上がって玄関を入ると、そこには12席のカウンターの店が。ちょっと椅子と椅子の間隔が狭いと思ったら、2007年からは10席に減らすのだそうです。今のシステムは午後5時半スタートか、午後7時スタート。その2本。客がこれにあわせる。「ごはん(作り)などを考えると、お客さんには申し訳ないがこちらの時間に合わせて頂くのが良いと思いました」とご主人・石原さん。来年からは7時一本にするそうだ。

 高麗橋・吉兆にいらっしたが訳あって辞めて、この店を2年半前に開業。「まだうちはあまり知られていませんので。宣伝もしていません」とご主人。本湖月の穴見さんとは同じ吉兆でお知り合いだそうで、2度ほど見えられたとも。

 料理は美味しかったな。思ったのは、やはり吉兆出身の料理人の作る料理は美味しいということです。料理屋さんの料理をカウンターに持ってきた感じ。だから、彼らの料理は「月1替わり」です。対して浜作の料理は、要するに「割烹料理」で、即興が売り。同じカウンターでも、システムがまったく違う。「未在」や「本湖月」は、食事のコースがきちっと決まっている。「今月はこれで」と。月2回来ても、「出すものは同じ」と。しかし浜作や日本の主立ったカウンターでは、「さ、次は何....」と自分で決めていく。

 私はね、正直言って後者の方が好きです。大体イントロの突き出しにはつきあうとして、その後は自分で最後の食事まで、蕎麦だ、ご飯だ、そのご飯もはらすご飯だ、鯛茶だと自分で決めたいタイプ。中に野菜と魚でも入れて。でも、「未在」や「本湖月」ではその選択はなし。しかしよく準備されているからそれはそれは決まったものでも美味しい。

 「未在」の料理はよく準備され、よく考えられている。食べる側の胃の具合をよく考えて。出てきた食材で、「これはすばらしい」と思ったのは、お造りの魚は良かった。あとは一つ一つの料理がよく考えられている。楽しめると思います。

 正直、月替わりでもう一度行きたい店です。電話番号は、075-551-3310 京都市東山区円山公園内。

 to be continued.................                  

           (2006年12月11日記)